第58話 親馬鹿

 初めて我が子が生まれたとき、正直慌てた。自分が父親になっていいものかどうか、今更ながらに悩んでしまった。標準よりずいぶん小さい我が子を見て、本当に「赤い」のだなあと妙に感心したのも覚えている。

 子どもを風呂に入れたり、おむつを替えたりと、子育ての手伝いらしきこともした。寝付いても物音で目を覚ます。授乳の間隔が短いうちは、母親は寝不足。家の中でコトリとも音が立てられない日々だった。

 休日、子どもの機嫌がいいときに絵本を読んでやるのは楽しかった。初めて読んだのは〇歳児のとき。松谷みよ子さんの「いないいないばあ」だった。「いない、いない、ばあ」と読むだけで笑ってくれるのが嬉しかった。

 子どもが育って独立し、親元を離れると、今度はよその子が気になる。昔取った杵柄。子どもをあやすのは手慣れたものだ。目が合えば、視線の動きや手指の動きだけで喜ばせるくらいはできるようになっている。

 小さくて可愛らしい者を愛しいと思うのは、自然な感情だと思っていた。だがファミレスで動き回る幼児をほったらかしにしてスマホを見る母親を見ると、最近変わってきているとも感じる。余計な心配だろうか。

 考えてみれば、若い親は自分の子どもの世代でもある。我が子が生まれて慌てた自分と同じで、おそらくは試行錯誤を繰り返すのだろう。若い人を、我が子と同じ目で見ていたい。もし迷惑でなければだが……。

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