第49話 足し算

 一+一は、二になるはず。でも生き物の足し算は違う。父親と母親の足し算で子どもが生まれるからだ。一+一は、三以上になる。父親と母親の「一」から、少しずつ命を削り取って、三以上の解答が生まれる。

 命を削り取ると、親は老いる。最近になって体のあちこちが痛いのは、そのせいかもしれない。年は取りたくないものだ。とはいえ、老いは自然の摂理。逆らうことはできない。「終活」も必要になってきた。

 三人の子どもに恵まれた。少子化の歯止めとしては、貢献しているのではないかと思う。三番目が大学に進み、お金以外の子育てからは解放された。働くのは、もうひとふんばりといったところ。まだリタイヤできない。

 親としての威厳は、ないとしか言えない。子どもからの「呼ばれ方」でも、よく分かる。「お父さん」は最初の子ども、二番目は「父ちゃん」になり、三番目になると「父君(ちちくん)」になった。友達扱いである。

 三番目は、上二人の子育てをよく見ている。親に余計な幻想を持たず親の欠点まで見ている分、態度も変わってくるのだろう。親としては、自業自得と言う他ない。幼いころから、どこか飄々としていた。

 三人とも、書を教えてきた。大学に入っても独学で続けているのは三番目だけ。独学の父親と同じ遺伝子だからできるのだという。線質は浅いが、父親が学んだ古典は全てなぞってきている。超えられる日は近い。

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