第25話 健康

 平成十一年五月、WHOの総会で、「健康」の定義の改正案が話し合われた。今までの内容に「霊的」を加えようというもの。「身体的」「精神的」「社会的」の三つだけでは、どうも足りなかったらしい。

 健康に、「生きがい」の要素がほしかったのか。だが「霊的」という言葉には、多分に宗教的な要素が含まれている。宗教どうしで対立があれば、完全な形での健康は実現できなくなるのではないか。

 食事についてのタブーは、宗教によって異なる。ANAの機内食はこうしたニーズに対応しているが、タブーの異なる宗派が隣り合って食事をすれば、互いの食べ物のせいで「精神的」な健康は損なわれることになる。

 日本は、宗教じみた考えを嫌がる傾向がある。宗教の話題を避ける人も、少なくない。神社や寺にお参りし、クリスマスを祝い、牛肉入りのカレーを食べる国であれば、こうした話題への深入りは避けるだろう。

 オウム真理教が地下鉄サリン事件を起こしたのは平成七年。教祖は死刑になった。「宗教」「霊」「魂」などの言葉に、抵抗を感じる人もいる。「霊的」という言葉に胡散臭さを感じるのは、むしろ自然な反応だ。

 一方、朝のテレビの「占い」を気にする人は多い。目に見えない「霊的」な存在を意識していないわけではなさそうだ。密かに「霊的」存在を気に病む日本人にこそ「霊的」な健康が大切なのかもしれない。

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