第17話 井の中

 井の中の蛙大海を知らず。だからといって蛙が大海に出たら、塩水にやられてしまう。蛙にできるのは大海に泳ぎ出すことではなく、大海の広さを目の当たりにすることだけ。それでも大人は子どもを大海に送り出す。

 大人だけではない。田舎の子どもは、自分の住む土地が田舎であれはあるほど、都会を目指す。限られた出会いとチャンスしかない田舎に見切りをつけた彼らは、自らの新しい夢を都会という大海に求める。

 たくさんの人が集まる都会は、たくさんの出会いがありチャンスもある。だが、たくさんの人との競争に負けて、挫折する可能性も高い。そこに気づく子どもは何人いるのか。夢だけでは生きていけない。

 最近、自分の考え方や行動範囲を広げることに疲れてきた。狭いままでいることを良しとするわけではない。広げた範囲を自分の力だけでカバーできるという幻想に、愛想が尽きたのだ。個人の力には限界がある。

 生き物が食物連鎖で繋がっているように、ヒトの営みも情報の形で繋がっている。目の前の仕事に一所懸命であれば、それだけで世の中を動かしていけるのではないか。都会や世界に出ていくだけが全てではない。

 蛙が大海を目の当たりにしても、泳ぎ出す力が身につくわけではない。が、井の中にいればこそ分かることもある。井の中の蛙大海を知らず。されど空の蒼さを知る。空の蒼さは、大海の広さに通じている。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る