第199話 火種
ランスが天帝を倒し、すでに五年の月日が流れようとしていた。
五年の歳月で一番に変わったことは世界の力の均衡が変わったことであろう。
天帝による帝国一強時代が終わり。王国が領土を拡大した。
しかし、帝国の領土は広く全てを支配することはできなかった。
その隙をついた形で、様々な種族が国を立ち上げた。
精霊や魔族などが作った国は同盟を結び、精霊王国連合という国を立ち上げた。
さらに、沼地で人が住まぬ土地に、冥王ハーデスと名乗るネクロマンサーが死人を支配して自ら死人の国を作った。
冥王ハーデスは闇の教祖と呼ばれる教団と戦闘をしており、他の国に介入することはなかった。
五年という歳月は三つの国に十分な力をつけさせ、それは新たな火種を生むことになる。
始めの火種は精霊王国連合西側に位置する。
第四ダンジョンから始まろうとしていた。
「貴様は何者だ!」
「ふん、死人ではないグールか。醜いな」
その男の姿はグールそのものであった。
しかし、第四ダンジョンを守護するグールたちと大きく違うところがある。
そのグールは生きていなかった。
「貴様!」
「お前達の魂を冥王様が欲しておられる。その魂、我がもらうぞ」
命の灯を持たないグールの男は、一日で第四ダンジョンを攻略した。
守護しているグールのほとんどを殺し尽くし、第四ダンジョンから姿を消した。
その男から逃れたグールは外に出ていたか、幼く隠れていた者達がなんとか生き残ることはできた。戦いを挑んだ者は等しく命を失ったことになる。
「これであのお方もお喜びになられる」
死んでいるはずのグールが徘徊し、生きたグールを滅ぼした。
この話題はすぐに精霊王国連合内に駆け巡り、三十二機関も知ることになる。
「どうなっているんだ?」
報告を聞いたヨハンは、事の詳細を求めた。
しかし答えられる者はほとんどおらず、すぐに調査隊が組まれた。
冒険者ギルドとヨハンによる調査のため第四ダンジョンは閉鎖となった。
「ヨハン様、これっす」
調査隊を指揮するのはヨハン自身だ。
その副官をフリード務めるが、グールの死体を見つめ悲痛な表情を見せる。
「生きている者達がいてよかった。封鎖したことで彼らには食事がないだろう。
貯蔵している者があるなら使ってくれていいと生き残った者達に言っておいてくれ」
「かしこまりましたっす」
彼らが命がけで手に入れた食事だ。
それが何であれ、手を出すべきものではないと思った。
「どうやら相手は死人のようだ。死ぬことがないガス状生命体たちに第四ダンジョンを預けることにする。そうすれば殺される心配はないだろう」
「そうっすね」
ヨハンは第四ダンジョンの最下層まで調査を終えて、グールの体を丁寧に埋葬した。
全てのグールを埋葬して調査が終了したのは調査を開始して二日後のことだった。
「本当に酷いな」
ヨハンの呟きに、調査団の者達もヨハンと同じような感情を抱いた。
更に調査をするべく、死人グールの足跡を辿り、冥王ハーデスが支配する土地近くまで来ていた。
「ここでそいつの足跡は消えてるっす」
ヨハンが調査して分かったことは、死人グールの目的が第四ダンジョンであり。
生きたグール達だったことだけだ。
死人グールはそれ以外には興味を示さなかった。
ヨハンが足跡を追うことができたのも、死人グールが特徴的な容姿をしていたため追うことができた。
「ここから先は冥王ハーデスの領地だ」
「どうするっすか?」
「死人だと聞いてからハーデスのことは頭にあったが。
冥王ハーデスを改めて調査する必要があるな」
「そうっすね。ここからはおいらの仕事っす」
「命に関わることだ。無理をするなよ」
「わかってるっす。おいらの逃げ足はヨハン様も知ってるっすよね?」
「ああ、信じている。それでも、心配はするさ。お前は俺の右腕だろ」
「へへ、嬉しいことを言ってくれるっす。その言葉だけで十分っす。おいら頑張るっす」
フリードはそのまま冥王の領地であるデス領へ足を踏み入れて行った。
ヨハンは近くの村に宿を借り、フリードと共に調査に向かった者達の帰りを待った。フリードが戻ったのはそれから一週間後の事だった。
今回の調査隊にリンは同行していない。
リンを連れて来なかったのは、ランス王国が精霊王国連合内に作った教会が一年を迎え、祝賀祭なる催しを施すと御触れを出したからだ。
そのため各地に住まう人々が教会に集まり、祭りのように祝うというのだ。
ヨハンがそこに出入りするわけにもいかないため、リンが変装し監視者として行ってくれている。
「フリードの調査次第では、冥王ハーデスと事を構えることになるかもな」
ヨハンは冥王ハーデスが黒騎士である事実を知らない。
また、彼の目的についても何もわかっていないのだ。
「いったいどういう狙いがあるんだ?」
ヨハンの思考の中では、冥王ハーデスがどういう人物で何を思っているのか、只々思考を巡らせることしかできなかった。
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