第154話 対峙
ヨハン率いる第三軍が陣を引いた対山に同じように陣を引く帝国軍。
王国軍5万。帝国軍10万の大軍が対峙したのはよく似た高さを誇る双子山であった。
互いに山の頂上に陣を張り、それぞれの姿が確認できるように旗を掲げた。
南北の山間には、二つの山が作り出す谷があり、十五万の人間が争ったとしても埋め尽くせるほど広大な敷地に木々が生い茂っている。
所々に森が剥げて岩がゴロゴロしていたり、平原のように一本も気が生えていない草木だけのところも存在する。
そういう場所は得てして沼を隠していたり、池があったりする。
「複雑な地形ですね」
山頂から麓を見下ろす形で陣を張ったヨハン率いる第三軍。
対峙する帝国兵を見つめるように旗に視線を向ける。
姿は見えないが、ヨハンには敵の総大将が誰であるかわかっていた。
「考えることは同じみたいだな」
「どういうことですか?」
ヨハンは敵から攻められた際に守りに強く。
雨や風を凌ぐにも過ごしやすいように山頂を天守閣とした山城を作りあげた。
ただ、それは相手も同じく。対峙する山の方から煙が見えている。
敵の総大将は長期戦も辞さない覚悟をヨハンに示しているのだ。
敵の総大将キル・クラウンはヨハン・ガルガンディアを知り警戒した。
警戒した上で、自分ならば封じ込めることができると。
この場所で陣を張りヨハンを待っていた。
「相手は長期戦でこちらを足止めするのが目的みたいだな」
「足止めですか?」
「ああ、ランスが帝都に踏み込めるように、共和国の領土から帝国を侵略するためにここにきた」
「なら、どうして敵はここで足止めを?」
「キルは、俺に勢いをつけさせたくなかったんだろうな」
キル・クラウンとは直接面識がある。
ヨハンにもキルの考えが手に取るように分かる気がした。
だが、ヨハンはキル・クラウンの事はわかっても死霊王のことはわかっていなかった。死霊王はヨハンよりも上手であった。
ヨハンがキル・クラウンと対峙している最中。
中央に位置するランス砦にいるカンナの下。
さらに西に位置する辺境伯領セリーヌの下にも、死霊王配下の三死騎がそれぞれ十万の軍勢を連れて攻撃を仕掛けようとしていた。
辺境伯を攻撃していた闇法師は、辺境伯領から身を引いて行方知れずとなった黒騎士捜索の任を与えられていた。
もちろん帝国八魔将として制裁を加えるためであるのだが、それは黒騎士が行ったある事件に起因する。
現在のヨハンたちには関係ない話なので、今は伏せておくが、帝国内では英雄ランス以外にも問題が発生していた。
「どうなさるおつもりですか?敵の数は倍以上います。
私達が攻撃の要なのだとしたら、足止めされていてはダメなのでは?」
「リンの言う通りだ。だけど、このまま焦って突撃をかけても返り討ちに合うのが目に見えてる。戦いとは高い位置に陣取った方が有利だ。
ここまで似通った地形だと先に仕掛けた方が不利になる」
「なら、相手の思うツボということですか?」
「まぁそれならそれでやりようはあるさ。さぁ、軍議を開こう」
ヨハンは山から見える景色の片隅で、偵察から帰ってきたシェーラとフリードの部隊が目に入ってきた。
頂上付近に作られた天幕の中には、軍議を開くため、それぞれの種族の幹部たちがそろっている。
エルフ族と狩人を指揮する偵察部隊の隊長シェーラ。
ゴブリン族総大将ボス。オーク族総大将グーゴ。ノーム族総大将アスナ。
義勇兵代表フリードと副官ハンテン。第三軍将軍リン・ガルガンディア。
種族は違うが、ヨハンの下に集った仲間達だ。
「みんな集まってるな」
オーク族のグーゴと、ノーム族のアスナは、今回の戦争のために抜擢された人材だ。
その力はこの戦いで発揮されればいいと思っている。
「それでは軍議に入る」
ヨハンは一同を見渡して自信満々の顔をしていた。
「大将。何をそんなに笑っているんだ?」
ゴブリン族のトンはボスの副官として参戦しており、ヨハンとは付き合いも長く。
ヨハンの奴隷だったこともあり、トンはヨハンのことを大将と呼んでいる。
この中でも古株であるトンが質問することで、軍議は開始された。
「まぁそれはおいおい説明するよ。シェーラ、フリード。
調べてきたことを地図に書きたいしてくれるか?」
「はい」「了解っす」
天幕の中に巨大なテーブルがあり、大きな地図が置かれている。
ヨハンが座る上座を南として本陣を指す旗が置かれ、下座である北に敵軍の旗が置かれていた。
山の麓には何も書かれていなかったが、偵察に出ていたフリードとシェーラが東西から沼や小山、天然の穴や草原を書き足していく。
「なるほど、こんな地形になっていたのか」
ある程度書き終わった地図には最初とは違って、かなり複雑に記された地形が浮き上がってきた。
「東も、西も、山から見下ろされる形になるということか」
幅広い山間は、数十キロ先まで山々が続いている。
「どうなさるおつもりですか?」
「ノーム族とゴブリン族に、ここは働いてもらうとしよう」
ヨハンは二つの種族を口に出し、作戦を伝えていく。
それと同時にいくつかの作戦を伝え軍議を終わりにする。
「ホントにこんなことで上手く行くんですか?」
「まぁダメなら次の手を打つだけさ。今回俺達はできるだけ力を温存しておきたいからな。時間をかけずに敵の裏を取るなら単純な方法がいいだろ」
「ヨハン様の提案なので、反対を唱える者はいませんが、一つ私から動いていも?」
「義勇兵はリンに任せるから好きにしてくれていいよ」
リンはサクの弟子として戦力を学んでいた。その策を披露するというなら見てみたい。ヨハンは嬉々として兵を分け与えた。
どんな作戦を取るのか楽しみだと思った。
「じゃあ今回は競争だな」
「わかりました。いつまでもヨハン様に頼らない私をお見せします」
リンも自身があるのか、天幕を後にした。
「面白くなってきたな。キルをどうやって驚かせてやるか」
一人になったヨハンは、友達にサプライズをするように楽しそうに笑っていた。
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