第094号室 10th Wave 地の利を得ましたわ……!!
教授が階段を駆け上がって来るソヒィーリヤに向かって、リボルバーの引き金を弾くと、一歩深く踏み込み射線を擦り抜けソヒィーリヤが向きを変え、レイピアで手摺りの上に乗ったパナキュルを斬り付ける。
「今の当たったろ!」
「躱されていますわ!」
教授の困惑が響く中、パナキュルは自ら飛び込んでレイピアに加速が乗る前にナイフで止めると勢いままにすれ違い、空中で身体を捻って態勢を入れ替え、
「それ、
「躱されていますわ!!」
優雅に背中を逸らして速度を殺すことなくソヒィーリヤが下を潜り、身体を戻した
『まずひとり……!』
「わたくしも躱しますわ!!!」
お尻を滑らして階段を降ったエクセレラの頭上で、レイピアが階段を打って弾かれる。
『まぐれでしょ………っ?』
「やぁーーっ!」
エクセレラは階段に寝そべった状態から相手の足を払い、突きを繰り出そうしていたソヒィーリヤが脛を階段の角にぶつけて大きく怯む。
「わぁーーっ!!」
エクセレラのビンタ!余りの弱さにソヒィーリヤの動きが逆に止まる。酷く怯えた表情で後退りするエクセレラを、信じられないといった表情でソヒィーリヤが見つめたのも一瞬、我に帰って刺し込まれたレイピアの先端は、ビンタの弱さに引っ張られて威力を減らし、革鎧の表面を滑った。
「や、やぁーっ!やられましたわーーっ!!」
『あなた弱過ぎて、剣が鈍るわね……』
振りかぶるソヒィーリヤの背中に教授の弾丸が命中する。二発三発と続いて撃ち込まれるも、軽く叩かれた程度のリアクションで有効打にはならない。
「効いてない!?なぜだ!??」
『
ソヒィーリヤが教授へ振り向きもせずに答えて、今度は十分な加速をつけてレイピアを振るい、エクセレラを斬らずに自分の背面を下から薙ぐと、背中から飛びかかったパナキュルのナイフを迎撃した。
「いい剣ね!」
『あら、ありがとう、切っ先をプレゼントするわ?』
パナキュルが、キッチリ詰めてナイフの有利な間合いで勝負しプレゼントを拒否すると、接近戦を制してソヒィーリヤの剣を持つ腕を極める。
「どうせなら、腕ごとちょうだいよ?」
ソヒィーリヤの手首の内側にパナキュルがナイフを当てて目一杯引くと、皮膚がめくれて静脈が削ぎ落とされ骨を削るも切断には至らない。
「硬すぎでしょ……」
コイントスのように親指でレイピアの鍔を弾き上げ、もう片方の手に持ち替えようとしたソヒィーリヤの側頭部に教授の弾丸が撃ち込まれる。
『痛いわねっ!?』
語気を強めながら頭部への銃撃を痛いで済ますと、取りこぼしたレイピアを蹴って教授に寄越し、飛んで躱した教授が階段を踏み外して転がっていく。
「もう指で我慢するわ!」
パナキュルが鍔を弾いたソヒィーリヤの親指を掴むと、ナイフを滑らせ千切るように切断する。
『痛っ!ったいわねぇえ!!?』
ついに冷静さを欠いたソヒィーリヤが、親指を失った手の人差し指に嵌められた指輪を回して、二本目のレイピアを召喚して見せ、使いどころ次第では必殺になりえた得物の出所を明かした。
失った親指を庇うように両手で構えたソヒィーリヤに対して、手の内を見せて貰ったお返しにパナキュルも奥の手を晒す。
「火を吹けるのは、あなただけじゃないのよ?」
喉の奥に指を差し入れ嗚咽と共に頬を膨らませる。少々下品なくらいに嬌声が溢れ、瞳が寄って上瞼にかかる。そして、突き出されたパナキュルの舌の先から、胃酸に濡れた小さな
『……!?………え?なに!??』
パナキュルの胃の中はちょっとした宝物庫になっていた。その宝物庫の番人たる
咄嗟に炎を返そうと息を吸い込んだソヒィーリヤが、パナキュルの投げつけた自身の親指を呑み込んで大きく咳き込み不発に終わって火球に呑み込まれる。
「いい指輪ね?これも貰ってあげるわ??」
パナキュルは唇で舌先の
「確か、こんな感じだったかな?」
パナキュルは自身の口の中で舌に指輪を嵌めると、ソヒィーリヤが最初にレイピアを喉から取り出した時と同じ仕草で抜き取って見せる。
「武器を召喚出来る指輪なんて珍しい!ありがとね?」
ソヒィーリヤにでは無く
「もういいだろう!僕達の方が有利だ!!」
足を挫いたらしい教授が階段を登りながら、レイピアを拾い上げて戦線に復帰する。
「実力も戦力も、こっちの方が上よね?」
お腹をポンポンと叩いて
「大勢は決しましたわーー!!」
『うるさーーーいっ!!!』
燃え続ける炎のままにソヒィーリヤが衣装を破いて両手を背中へ突き差し肩甲骨を引き剥がす。血潮が
「「ええーー!??」」
教授とパナキュルのレイピアによる点の攻撃は、翼による面の飽和攻撃に埋もれて敢え無く押し返される。
「地の利も得ましたワーーーッ!!!」
目を瞑ったままエクセレラが階段の吹き抜けを翔ける風精霊を
「はい!もう一度ですわ〜〜!!」
『二度も同じ手を喰らうか!』
先程とは明らかに違う動きで風精霊の
『最初から……それを使えばよかったのに………!』
「やだもう!恐ろしかった!!」
ソヒィーリヤは手摺りにもたれ掛かると、無い身体を保持し切れずに手摺りを越えて吹き抜けを落下し、途中壁に跳ねて胸と脚とを分離しながら落ちていった。
「最初の不意打ちで、それやれよなあっ!!!」
パナキュルの怒りはもっともで教授も最初からやれと顔で訴えたが、顔を真っ赤に涙浮かべて興奮するエクセレラの耳には届いていなかった。
「やりましたわーーーっ!!!」
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