第065号室 駅ナカ 破られし封印
地下鉄駅の多種多様な店舗が雑多に建ち並ぶ商業施設を、異世界より召喚された七人の魔女が、物珍し気に周りを眺めながら散策していた。
ある店の店頭に置かれていた物、透明な液体で満たされた、鮮やかな絵の描かれた半透明の薄く柔らかい容器”ペットボトル”を、水が入っているのではないかとそれぞれがナイフで切ったり、力尽くで引き裂いたりして、床が水浸しになる。
「必ず、正しい封印の解き方があるはず………(パン!)あっ………」
オークのグロウゼアがペットボトルを握り潰し、跳ねた水がゴブリンのパナキュルに背負われていた、失神しているドワーフのホーリエの顔を打って目覚めさせた。
「………あは、それは頂点部分をひねって開けるネジ式の蓋だと思うわ?」
エルフのエクセレラが即時に実行へ移し、ペットボトルの水を封印から解放する。
「う⤴︎ん、開きましたわ。それにしてもあなた、
トゲのある問いにホーリエが嫌らしく上目遣う。
「逆になんで分からないんですか〜?水の抽出なんて今はメガプラントによる安心安全、量子置換でしょおう??こんな前時代的パッケージ、この世界と同等か、それ以上の技術力を持った世界から来たのなら、余裕よね~~???」
「はい………?
インテリジェンスな会話の匂いに誘われ、空気を読み違えたダークエルフのマイマズマが参加してしまう。
「個人運用であれば、立体魔法陣を用いた水脈の具現化も、費用対効果で優れるのではないでしょうか?」
空気の読めない獣人ラナカディアンと、読んだ上でのパナキュルと鬼のティヲが続く。
「ちがうちがう、
「戦場の井戸は毒入りと心得るべし、返り血を啜る気概を備えるのさ………」
仲違いの起こり兼ねない空気を完全に読み切って、飲み水に対する一家訓を述べたグロウゼアの発言は、それは無いと周りを完璧に団結させ、結局このペットボトルなる物が最強という事に論点をずらさせた。
―――
七人が駅を探索する中で共有していった認識としては、ここが自分の元いた世界とは全くの別世界であること、七人それぞれの元の世界もバラバラであるらしいこと、感じられる雰囲気がことごとく負の念を印象付けることであった。
「甘い匂いがする〜〜」
獣人のラナカディアンがスイーツショップのショーケースを力で引き剥がし、ベリータルトをホールのまま丸噛り、酸っぱ!と酸味に口を窄ませる。
「よくもまあ、異界のモノを躊躇なく口にするな………」
グロウゼアが全身鎧の背中に括られた短剣を抜き取り、チーズテリーヌをこそぎ取って目線に近づける。
「あのもしかして、その銀剣で毒見をしているつもりなのですか?」
「………ああ、そのつもりだが何か?」
マイマズマが効果の疑わしい毒見法に苦言を呈し、もう少しマシな毒見を、
「全て毒は無さそうです、ただ栄養面はよろしくないですね。見てください、霊体が太ってしまいました。きっとこれらは、嗜好品なのでしょう」
「ちょうど良い、ここ数日まともな食事を取れていなくてな、痩せ過ぎたところだったのさ」
まるで飲み物のようにテリーヌを消費するグロウゼアに、向かいのドラッグストアを物色していたパナキュルが胸焼けを覚えつつ、いっぱいにした買い物かごを抱えて戻って来た。
「食事も大事だけど、あんたは先に怪我の手当てをした方が良いよ?」
「お構い無く、全て”急所は外れている”というヤツさ、問題無い」
「まあまあ、ここに来るまでに何があったかは知らないけどさ、やっぱりケガ人をほっとけないでしょ?」
「ふふふ………強引な奴め………」
パナキュルは肩を竦めて見せながらもお構いなしにグロウゼアの腕を取り、グロウゼアも観念したようにスイーツショップの前に胡坐をかいて座り鎧を脱ぎ始めた。
「どこの世も効率化されれば、されるほど似て来るものでね?医療品の扱いも似て来る。誤用を防ぐ為にイラストを用いた説明があるのは素晴らしいよ?………何と無くで扱いが分かる」
「ふふふ………何と無くで知らない薬液を用い、傷を縫い付けるとは、私は被検体といったところかな?」
「ええ、ええ、ですから正直な心根を申し上げるんです。やんごとなき血族の御方よ………」
「ほう………私の故郷、救世国家クロウラをご存じか?」
「いいえ、存じません。しかしどこの世も戦争というものは似て来るものでね?武具の扱いも似て来る。あなたの鎧はまるで歩く宝飾展のよう、雑兵ではないのでしょう?………」
「ふふふ………ふふふ………………ふ、ははは………………………」
「あの「いひひひひひ………………………………!!!」ちょ「くぅ!くぅううう………!!」………ごめん」
薬品類を広げ、臭いを仰いで中身を確認し、うがい薬で
「
濡れた着物の袖をパタパタ振ってティヲがパナキュルのエセ治療を急かす。
「そういえば、あんた何でそんなに濡れてるんです?」
「ここに来る前、雨に降られただけどすぅ〜」
ペースの乱されないパナキュルが素朴な質問をし、不機嫌隠さずティヲが面白味のない答えを返す。
ほどなく治療を終えたグロウゼアであったが、鎧の重量と圧迫により鈍っていた痛みと疲労が、鎧を脱いだ所為で振り返し、自力では立ち上がれないにまで弱ってしまっていた。
パナキュルとエクセレラに両脇を支えられてようやく立ち上がり、ゆっくりと歩き出す。途中、マイマズマが申し出た生霊を使った補助は、あらぬ方向へ連れて
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