第028号室 ローレライ

 ボブは臀部でんぶに焼けるような痛みを感じつつ背後に向き直り、ロングソファの端を片手で持ち上げデリンジャーの撃鉄を起こすローレライへ被せるように放り投げた。


「人魚が銃を使うかよ!?」

「死っね!!」


 車椅子ごと床に転がりソファを躱したローレライが引き金を引く。咄嗟に背を向けたボブのお尻に命中、初弾と合わせてお尻に左右対称の銃創が出来上がる。


「もう、止めとけ弾の無駄だ。そんな豆鉄砲じゃあ、幾ら撃ったって俺のケツ筋はけねえ!!」


 ローレライに背を向けたままボブが両掌を自身の臀部に打ち付けると、同時に引き締められた大臀筋によって薄皮一枚で留められていた弾丸が発射され、倒れたままリロードをおこなうローレライの頬をかすめると頭に登っていた血を下げさせた。


「はぁ………ふう!どうやらそのようね。………ビールが飲みたいのよね?確か缶に入ったのがあったはずだけど」


 ローレライは昂った神経を落ち着けるように一呼吸置いてそう言うと、脚ヒレで車椅子に被さったソファを押し退け、車椅子を起こし座り直すとバーカウンターの裏に入り、カウンター裏の冷蔵庫を開けると見せかけて、隠してあったショットガンを引っ張り出しカウンター越しに銃口をボブへと向けた。


「やっぱ、死ねやぁああああ!!!」

「いや、バレバレだろぁ!!」


 引き金を引かれるよりも早くボブの掌底が銃口を撃ち抜き、その衝撃は銃身を伝わり甘く握られた銃底部分がローレライの顎へ打ち付けられる。


「………ううん………はい、今度はちゃんとビールよ。………缶なんだから毒なんて入ってないわよ?」


 ショットガンを取り上げられたローレライは顎を押さえながら、たっぷり時間をかけて冷蔵庫からビールを取り出しボブへ渡すと心の中で吼える。


(飲み口にフグ毒を塗ってやったわ!可食部は減るけどもういい!!もがき苦しんで死ねぇええええ!!!)

「ドモ、アリガト!」


 ボブはお見通しなので飲み口は無視して缶の底を驚異的な摘むピンチ力でむしり取り、何なく飲み干すと、身も蓋も無い攻略法を見せつけられたローレライは悔し気にカウンターを叩いた。


「さて、ご馳走になったね。そろそろおいとましようと思うんだけど、君たちこの団地に詳しかったりしない?」

「早く出ていきなさいよぉおお!!」


 怒りを露わにする相手を一瞥、ショットガンの状態をこれ見よがしにチェックするボブ、人魚しろうとの目からでも分かる熟練の所作は、撃たせてしまえば一発で全滅し兼ねない凄みで相手と協力的関係を築かせた。


「ダゴンって奴のこと知ってたら教えて欲しいんだけど、住処とか、どういう奴かとかね?」

「ああ、ダゴン………!あんなのに探りを入れてるなんて、あなたも何か痛い目見た口かしら………?」


 ダゴンの名を聞き苦虫を噛み潰したようにローレライの顔が歪み舌打ち、怒りの矛先がボブからダゴンへと移っていく。苦笑いを浮かべ小さく頷くボブに対して似たような微笑みを返しローレライが回想を始めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る