5「予想外の魔獣」

 二日後、手紙によるギルドからの連絡を受け、

ナタリア達とパーティーを組んでの仕事に行った。

イヴの件以来、二度目である。前と同じく鎧は着てないない。

 

 あの頃とは違って、イヴの事を知らしめた今となっては

素顔で仕事に参加する必要はないのだが、

当時も、黒騎士として有名になって来ていて、

あの時、それを隠して参加していたから、

いまさら黒騎士だと、変な目で見られそうな気がしたからだ。

まあ、気にしすぎだと思うが。


 冒険者ギルドの前で待ち合わせなので、イヴを連れて向かう。

そしてナタリアたちと合流すると、乗合馬車で移動する。

さて馬車で移動中に、ナタリアから、


「そう言えば、カズキって、ギルドで見かけないけど、

仕事とかどうしてるんだい?」

「いえ、普通にギルドに言ってるけど、多分、時間が合わないだけだろ」


と誤魔化した。


 あと乗合馬車なので、俺たちのパーティー以外にも、

乗客がいたのだが、


《付いて来てますねベルさんが》

(えっ!)


思わずほかの乗客たちの方を見るが、どこにいるかは分からない。


《右奥の方に、座ってますよ》


クラウがしてきた場所には、フード付きのローブを着て、

そのフードを深々と被った人物がいた。

この人物がベルらしい。なお鞘に入っているので、今までわからなかったと言う。


(妙に、あっさりと引き下がったと思ったら……)


例えパーティー入りがダメでも、付いていく気だったと言う事か。


《どうしますか?》

(ほっとこう、俺は見なかったことにする)

《分かりました……》


心の中で答えたから、俺の声は聞こえないだろうが、

イヴの声は聞こえるから、気づかれたことには気づいたはずだ。

それでも、知らぬ存ぜぬで通そうと思った。

絶対命令があるから、付いてくるだけで、害はないからだ。

 

 その後、馬車を降りて、途中からは徒歩だったが、

引き続きベルは付いて来ているようだった。

ただ、クラウの「感知」で把握しているだけで、

俺自身は、付いて来ていると言う感じはしなかったし、

振り返っていても、姿を見つけることはできない。

クラウによれば、物陰に隠れているとの事。

それにしても、さすがはストーカーと言うべきか、

尾行はお手の物みたいだった。


 さて、目的地となる岩山の洞窟へとやって来た。

その洞窟は、かなり大きい。俺は、普段の仕事を思い出し、


(何だか、ゴブリン退治に来たみたいだな)


そんな事を思ったが、今回の仕事はワイバーンの討伐。

この洞窟を奥に進むと、ワイバーンの巣にたどり着くと言う。

それと出入口はここだけなので、洞窟が大きいのは、魔獣が出入りするから。


 なおここにいるワイバーンは、依頼によれば、

一体のみだが、強い個体なので、周囲の村々を襲い、

家畜や農作物、時には人間を襲って食べてしまう事もあるらしい。

依頼は、中でも多く被害のあった村からである。


 最初に、斥候のノーラが、洞窟に入って様子見をする。

直ぐに戻ってきて、状況を伝える。ワイバーンは、おとなしく寝てるらしい。

なおクラウを鞘から、少し出していて、


《私の方も確認しました。あの気配だと攻撃でもしない限りは、

直ぐには起きてきません》


ノーラの言う通りであったが、それ以上に気になることがあった。


(他に魔獣の気配はあるか?)

《今のところ周囲には……》


と言いかけて


《待ってください、何か居ます!》

「えっ!」


と思わず声を上げてしまい。ナタリアに、


「どうかしたかい?」

「いえ、何も……」


と誤魔化す。


 そしてクラウに


(どういう事だ?)

《恐らくは、『迷彩』だと思いますが》


以前のダンジョンで、ジムに対しては見破れなかったが、

今回はそうではなかったらしい。

ただ、巨大な魔獣と言うだけで、それが何なのか、

はっきりとは分からないと言う。完全に鞘を抜けば分かるかもしれないが

今は5人がいるので、この場で、それをしたら、

妙に思われそうなので、今はやめておく。


《うっすらミノタウロスの気配を感じます。

恐らく様子見をしているように思えます》


俺は、サマナヴィには、魔獣たちにスキルを付与する機能がある。

ただ、付与できるスキルは使い手によって異なるらしく。

カーミラの時に、そういう感じがなかったのは

役に立つスキルを付与できなかった可能性がある。


 この後は、作戦会議で、ワイバーンは、寝込みを襲う形で、

攻撃を仕掛ける。まずアルヴィンによる魔法で、

魔獣を弱らせつつ、先陣はリーダーでもあるナタリアとルビィ、

ノーラは補助。更に後方からは、メイントによる攻撃魔法による援護、

そして、アルヴィンは引き続き補助と、怪我した場合は治癒魔法。

なお、彼がスキルとして治癒能力があって

それが魔法を使う事でより増幅されて、すごいらしい。


「カズキは、ここでオートマトンと待機して、

予定外の魔獣が現れたら頼んだよ」

「分かった」


先も述べたとおり出入口はここだけなので、

魔獣が乗り込んでくるとすれば、ここになる。


《私も、その線は強いかと思います。

まず地下は地盤が固いので掘っては来れないでしょう

岩山も堅いですから、ここ以外からは容易に突入は無理ですね》


もしできる奴がいれば、相当な上級魔獣が、

フルパワーの俺くらいらしい。

とにかく、そんな奴が来たら、イヴでもどうにもできないらしい。



 そして、俺は5人を見送り、俺はこの場に残った。

5人が洞窟の奥に入って行った後、


「おいベル!出てこい!」


と声を上げた。すると物陰からベルが姿を見せた。


「やっぱり、魔装は誤魔化せませんでしたね」


と言って、近づいてきた。


「すいません、少しでも貴方と一緒に居たくて……」


何とも言えない気分だが、因みに普段から、行動を共にする関係上

付きまとうなと言う命令は出していない。


 まあ、来てしまったからには仕方ないので、


「じゃあ、手伝ってくれるか、イヴの手が負えない時にな」

「もちろんそのつもりですよ」


と嬉しそうに言う。


 一方、洞窟の奥が騒がしくなってきた。


《どうやら始まったようですね》


俺はここで、剣を抜いたクラウの感知を最大にして状況を確認するためだ。

そしてクラウは、中で起きていることを報告してくれた。

それによると、予定通り、アルヴィンが、魔法を使う。

それは魔獣を眠らせる入眠魔法。ただ、ワイバーン眠らせることはできない。

眠っている状態で使う事で、起きているけど、

ウトウトしている状態にする事ができる。

こうすれば向こうは注意散漫となるので、その状態で攻撃を仕掛ける。


《向こうは、順調にワイバーンと戦っているようです》


それは良かったが、問題はこの後だった。

 

 ナタリアから聞いた話では、乱入魔獣は、

対象魔獣の討伐がいい感じなっているときに来るらしい。

割り込まれて、最初の内は、うまく対処できていたが、

乱入魔獣が、どんどん強くなっていって、

その所為で失敗してしまう事がほとんどだと言う。


 そしてナタリアが、順調にワイバーンと戦っていると聞いて、

そろそろ来るんじゃないかと思った。その直後、


《魔獣に動きがあります》


「迷彩」で身を潜めていた魔獣が動き出したと言う。

位置は分かるものにが、クラウはミノタウロスの可能性を指摘していたが、

鞘を完全に抜いた状況でも、どんな魔獣かは正確には分からないらしい。

あとサマナヴィだとしても、操ってると思われる人間は傍にいないらしい。

呼び出した魔獣は放っておいても、勝手に動くから、

使用者は傍にいる必要は無い。


《向かってきます》


俺は、既にイヴに戦闘モードになるよう命令を下しているし、

そして俺自身も身構える。ベルも、鎧を身にまとう。


 敵は接近すれば、姿を見せるはずである。

「迷彩」は攻撃力を犠牲するから、解除しないと、攻撃できないからだ。

そして実際に、かなり接近したところで、魔獣は姿を見せた。


《これは!》


とクラウは驚愕の声を上げるが、俺も、


「なんで!」


と思わず声を上げていた。


「まさかこれは!」


ベルは俺と記憶を共有したから、現れた魔獣が何なのか分かったようだ。

その魔獣が、この場には絶対に現れない存在。

見た目はミノタウロスに似ているが、ダンジョンで見た個体よりも、

一回り大きく、身体はより筋肉質で、茶色の鎧の様なものを身に着けている。

角も、より大きく、凶暴さを感じさせ、加えてその顔も、凶暴さを醸し出している。


「アステリオス……」


そうラビュリントス刑務所の地下ダンジョンにしか存在しない魔獣。

あのダンジョンのラスボスが、この場に現れたのだ。

ここに来る前から、どんな上級魔獣が現れるか、色々考えていたが、

こいつばかりは予想外の魔獣だった。

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