5「ナナシとの遭遇」
警備の二日目の朝は、早朝に目を覚ました
(交代の時間だな……)
パジャマから普段着に着替え、詰所に向かった。
そして部屋に入ると、リリアが眠そうな顔で、
「やっと交代か~~~」
と言って、部屋を出ていこうとして
「まだ貴女は違うでしょ」
とベルに止められた。なお交代するのは、そのベルで、
「それじゃあ、仮眠してきますね」
と言って出て行った。
部屋に残されたのは、俺とリリアとミラーカと言う組み合わせ、
ちなみに、ミラーカは大人の姿をしている。
部屋に入ると、クラウの感知を最大にするため剣を抜いた。
そして俺が部屋に来てすぐに、
「それでは、見回りに行ってきますわ」
といってミラーカは出ていこうとするが、
「サボんなよ~~~」
と言うリリアだが、
「居眠りばかりの貴女に言われたくないですわね」
と言って出て行った。ちなみに彼女の事も婦人には紹介している。
ミズキの使い魔なので、報酬は要らないと言っている。
さて彼女が出て行ったあと、リリアが居眠りを始めたので、
「起きろ」
「寝てねえよ……」
明らかに寝てたのに、何ともベタな返答が返ってきた。
そして、ミラーカが戻ってくるまで、このようなやり取りが続き、
彼女が、戻ってくると、俺が見回りに行った。
見回り中は、剣をむき出しにしておくと、婦人が、なんかの拍子に起きてきて、
見られて、おかしな勘違いをされても困るので、鞘から僅かに出した状態にした。
これでも、十分役に立つ。
見回りから戻ってくると、
「しゃっきとなさい!」
とミラーカがリリアにビンタをしていた。
これは絶対命令の許容範囲だろうが、何があったかと言うと
俺が出た後、俺とリリアのやり取り、ミラーカと続けていたらしい。
その後も、居眠りを続けるので、眠気覚ましの一撃に繋がったという。
「いいよな……お前は幽霊だから、眠くないんだろ。
こっちは生きてるんだから、眠くもならぁ~」
とリリアは顔を晴らしながら文句を言う。
そうこうしているうちにミズキがやってきて
「じゃあ、少し寝てくらぁ、じゃあ居眠りするなよ無能……」
「貴女に、言われたくない!」
ミラーカは、ミズキの使い魔故に、彼女の見た事は、
ミズキに伝わっているという。
「それと無能じゃありません」
とも言ったがリリアは無視して出て行った。
この後は、婦人が起きてきて、イヴの手伝いの元、朝食を作り始める。
そして朝食の時間をもって、夜の見回りは終了。
朝食後、結界の効果が切れるまで、一休みし、
結界が切れる時間に合わせ、昨日と同じ配置について、警護を再開した。
さて、今日になって、動きがあった。
《憎悪に満ちた目で、館を見ている人の気配がします》
(憎悪?)
《人数は一人です》
カーミラが来たと、直観した。おそらく偵察じゃないかと思った。
この時は彼女が、過去に館に来たかは知らなかったが、
館には遠見の魔法が掛けられているから、直接確認に来ると思っていた。
相手の位置は、鎧の「周辺把握」と連動することでわかる。
屋敷は開けた場所にあるが、その周囲には、森がある。
相手は、そこにいた。
(正直、面倒だけど……)
分かってしまったからには、早めに潰そうと思った。
引き続き、「通信」で二人に、怪しい奴が居るから、
様子を見に行くと言った。
「本当か?そんなこと言って、サボる気じゃないだろうな」
と言うリリアからの返答があった。
「お前じゃねえんだから、そんな事しねえよ」
と返したものの
「どうだか」
と言ってくるので、
「とにかく行って来る!」
と伝え、場を離れ、館を見ている奴のもとに向かう。
なお、感知を高めたままにすべく、剣は抜いたまま、
《大丈夫です。相手は、まだ気づいていません。
このまま進めば、気づかれることなく、近づけます》
とクラウの助言で、相手に悟られることなく、向かっていく。
そして、このまま相手に接触、もしそいつがカーミラで、
もし捕縛に成功すれば、仕事は終わったも同然である。
なおミズキによると、
「あの女は、強くはありません。ただ魔具を使ってきたが危険ですが」
ちなみにクラウによれば、魔具の気配はないらしい。
《楽にどうにかできますよ》
と太鼓判を押されえたが、そうは問屋が卸さなかった。
森に入り、相手の近く、そろそろ見えてくるかと言うとき、奴は突然現れた。
「邪魔は、させないよ」
その上、不意打ちで蹴りを思いっきり胴体に食らった。
「お前、ナナシ……!」
鎧姿のナナシが現れたのだ。しかし奴が来たと言う事は
「今回も、お前のたくらみか!」
俺が大勢を立て直しながら言うとナナシは、
「いやいや、今回は、面白そうだから手伝ってるだけさ、
前の村の時のように、村人たちを嗾けてはしていない」
「どうだか!」
と俺が言うと、
「そもそもカーミラは、こっちの事も知らないだろうし」
やっぱり敵は、カーミラのようだった。
「この件に元凶がいるならジムだね」
「ジム・ブレイドの事か」
「そうだよ、彼がカーミラの脱獄を企み、主導したんだよ」
「どういう事だ」
と俺が聞くと、奴は、人を馬鹿にした口調で言った。
「それは、い~~~~えない」
鎧で表情がわからないが、笑ってるのは間違いないようだった。
正直イラっとした。
「癪に障る野郎だな……」
奴は、
「フフ……」
笑ったかと思うと、
「ともかくカーミラが宿願を果たしてくれないと、
ジムの目的が達成されない。そうなると、こっちとしても面白くないからね。
だから、邪魔させてもらうよ」
向こうは手に剣を出現させ、俺に、襲い掛かってきた。
襲ってくるナナシに対し、こっちも、クラウで応戦する。
剣と剣が、ぶつかり合う中、ナナシは言う。
「この剣は、魔装とは言えないけど、『習得』を持ってるんだよ。
あといろんな人間と戦っている。その中には昔、
放浪の旅をしていた頃のルリさんもいる。その意味、分かるよね」
つまり奴の剣は、クラウと同じく様々な剣術が使えると言う事だ。
だから、互いの動きは互角だった。
更に、奴相手に、手加減は要らないと思った俺は、
「斬撃」を最大にしているが、特に何も変わらない。
「『斬撃』を使ってるね。こっちもだよ」
もしかして、クラウと同じスキルを持ってるんじゃないかと思った。
そして、自然と奥義が出る。
「ミサキ切り!」
だが「キン、キン、キン、キン、キン、キン、キン、」と言う音ともに、
七つすべての斬撃が、防がれた。
「今のは……」
「ミサキ切りだよ」
ミサキ切りを、同じミサキ切りで防いだのだ。
「もちろん『習得』によるものさ」
再び剣と剣がぶつかり合う。そんな中、再び奥義が出る。
「紫電一閃!」
だが再び受け止められた。
《同じ技です!》
そうさっきと一緒だった。
(そういやこいつ、技名とか言ってないぞ)
するとこっちの心を読んだように、
「技名を言わないのは、妙だと思ってる?」
「!」
「技名を言うという行為は、威力を上げるための行為だからね。
まあ、君へのハンデってやつさ」
と癪に障る言い方で言う。
「まあ、『習得』に身を任せ、流されてるだけの君なら、
威力とか、関係なく技名が口に出るんだろうけど」
流されてるのは、事実だが、コイツに指摘されると、なんか癪に障る。
「お前も、『習得』を使ってるなら、同じなんだろ!」
と俺が言い返すと、
「フフ……」
と笑い
「君とは違うよ。君は流されてるだけ、でもこっちは違うよ。
『習得』を自在に利用しているんだ」
そう言うと、剣に炎を宿し薙ぎ払う「炎刃薙」を使ってくる。
「くっ!」
俺はギリギリで避けた。
「だから、君とは違って、使いたい技が、使いたい時に、自由に出せるんだよ」
その後、奴はいろんな、奥義を使ってくる。こっちは避けたり、
自動的に、発動する奥義で打ち消したりしたが、
どうも、押され気味となる。
そして奴は、突然間合いを取ったかと言うと、
相も変わらず、癪に障る言い方で、
「剣でだめだと思うなら、武器を変えてみてはどうだい?
まあこっちも、変えるけどさ」
そう言うと、奴は剣を槍に変化させた。
「まさか、その武器は!」
「魔装軍団に渡していた武器だよ。あれとは違って、
自在な変形ができるけどね」
「じゃあ魔装軍団の武器は……」
「ジムに頼まれて、作ってあげてたんだよ。
おもしろ感じになるはずだったんだけど、
君らに潰されちゃったねえ、おかげで一から出直しさ」
ジムが黒幕だったから、こいつの関与も疑ってたが、
どうやら間違いないようだった。
そして、癪に障る言い方で
「どうした、武器は変えずに、そのままで行くのかい?」
と催促するように言う。
恐らくは槍にも、「習得」はついてるはずだ。
同じやりだと、勝ち目はない気がした。
だからと言って他武器はもどうかと言う気がしたが、
<ねぇ、アタシを使って、アタシなら、流されずに戦えるよ>
彼女に言われて、魔斧の時の事を思い出す。
そう、フレイの時は、技の知識があるから、
奴と同じく、好きな奥義を、好きなタイミングで出せる。
俺は、武器をフレイに切り替え、「分身」を使い
二丁拳銃にすると奴は、
「なるほど、そう来たか……」
と余裕ぶったように言う。そして俺が銃を構えると、
すると奴の手から、武器が消えて、
「今日のところは、このくらいにしよう」
「えっ?」
「時間は稼げたしね」
そう言うと、奴は、転移なのか、姿を消した。
一人、残された俺は、ハッとなって、カーミラの位置を確認した。
「しまった!」
そう、逃げられていた。奴の言う時間稼ぎと言うのはそういう意味だった。
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