第18話「悪魔と契約した村」

1「代償が分かっていても」

 街に戻った俺は、再び冒険者としての日常に戻ったが、

色々と変化はあった。一番大きいのは、ベルが同居した事、

まあ、ギルドで彼女とあった日から、

既に、俺の部屋にダンジョンを作って、そこで暮らしていたと言う事で、

もう既に同居状態に、あったらしい。

そして、秘密が露見して、新人冒険者の振りをする必要は、無くなったから

これまでとは比べ物にならない程の、活躍を見せるようになった。

おかげで、だいぶ楽が出来るようになった


 それと、あの日の一件が影響し、夜が、夢の中も含め、忙しくなったが、

この辺は、詳しくは語るつもりはない。


 ギルドでは、相変わらず馴染みの受付嬢から、


「もう少し難度の高い仕事をされては、いかがです。

せっかくお仲間も出来たと言うのに……」


と言われていた。

まあ、仲間が出来ようが俺の方針に変わりは無い。ベルも


「私は、ランクなど興味はありません。貴方と一緒に働けるだけで、十分です」


と言った。これは俺の質問に対する答えなので、本心である。


 とにかく状況が変わろうとも、俺の楽がしたいと言う思いに変わりは無い。

そんな日々の中、ちょっとした出来事があった。


 とある夜の事。


(またか……)


横にいたベルが、


「『借用の儀』の申請ですね」


と言った。彼女は、魔装の声が聞けるだけでなく、

俺にしか見えないはずの、メッセージウィンドウが見えるのである。

理由はハッキリしていない。

まあ彼女が使ったこの世界に存在しないスキル「支配」の影響かもしれないが、


「また同じ人だな」


申請は、ログエスの森で遠回りしてる間、ちょくちょくあったが、

全員が暗黒教団の人間。

その時は、密告するのも面倒くさかったので、

無視し続けていた。なおベルは、この時から見えていたそうだが、

実際に指摘されたのは、この街に帰ってからである。


「応えてあげてはいかかです?」


 側にはミズキが居て、そんな事を言った。

彼女には、メッセージウィンドウが見えてないが、

俺たちの会話から、状況を察したようである。

フルパワーでないから、応えることは出来ないし、

元よりそのつもりはない。

そして彼女は、意地の悪い笑みを見せながら、嫌味ったらしく、


「それとも、また密告しますか?」


するとベルが、少々キツイ口調で


「決めるのは和樹さんです。さんは黙っていてください」


すると、ムッとした顔で、ミズキは黙り込んだ。


 しかし、今回の申請者は、密告しづらい相手であった。

その事を、俺とベルが話題にしたのを、ミズキは聞いていたから、

嫌味の様な事を言ったのである。

さて、なぜ密告しづらいか、それはこの人物が、暗黒教団の信者では、

無いからだ。申請者は、この街で暮らす女性で、

信者どころか、これまで暗黒教団と接点さえない。

ごく普通の人であった。


 雨宮にもこの事は、相談した。街に戻ってきているので携帯電話は使わず、

暗黒神絡みなので、店内ではなく、アイツの自室で話をした。もちろん、


「絶対応えるなよ」


と言われた。俺は雨宮に


「教団の信者以外でも、借用の儀を使う奴っているのか」

「借用の儀は、禁呪ではあるけど、簡単に使える魔法でもある

それに、暗黒教団も秘匿はしていなかったから、一般人でも

知っている人は知っている」


なお、雨宮が言っていたように、禁呪である為、

例え、力を貸してもらえなくとも、使うだけで罪に問われる。

今は、一回程度なら、厳重注意で済むが、昔は一度だけでも厳罰で、

最悪死刑もあり得たとの事。

ただし、力を貸してもらえなければ、使ったかどうかは分からないので、

使用で捕まる時は、儀式中に乗り込むと言う様に、

現行犯じゃなきゃいけない。


 そして、雨宮は


「ところで、申請して来た奴はどんな奴だ」


この時、相手は信者じゃなくて、一般人としか言ってなかったから

詳しい人となりを話すと


「うちに来た人だ……」


その人は、雨宮の元を尋ねていたのだ


 その日の夜、また申請が来た。部屋にはベルとリリアがいた。


「また申請が来ましたね」

「借用の儀?ま~だ諦めないのか」


と相手を馬鹿にしたような言い方をするリリアであるが


「これから、相手と話をするから、ちょっと部屋を出て行ってくれるか」


リリアは


「え~~~~~」


と声を上げ、渋るが、


「もしかしたら、大声を上げるかもしれない。

側に人が居ると恥ずかしいから」


ベルは、


「分かりました。それじゃあ行きましょう。ちゃん」


と言いながら、リリアの腕を引っ張って出ていく


「その呼び方やめろ!」


と抗議しながら、引きずられて、部屋から出た。


 二人が出ていくと


「さてと」


相手に見られているわけじゃないが、無意識に軽く服の乱れを整えた。

二人に言ったように、これから俺は、相手と対話するのである。

悲劇を繰り返さないために。


 俺はミズキの時と同じ様にラスボス風に、行く事に決め、相手の名前を呼び、


(そんなに、息子をよみがえらせたいか)


直ぐに返事は返って来た。


(そうよ。息子は私のすべてなの)


さて、借用の儀から得られた情報には、息子が亡くなった事が

記されていたが、彼女がそれを目的としているのは、分からなかった。

普段は使い道も分かるはずだが、今回はなぜか不明だったのだ。

もしかしたら、暗黒教団の信者では無いからかもしれないが、

実際は分からない。


 ではなぜわかったかと言うと、雨宮から聞いたわけだが、

彼女は俺が留守の頃に、雨宮の元に、死んだ息子を蘇らせてくれと、

店に乗り込んできたと言う。


「大魔導士は、何でもできるって思われがちだから……」


実際、雨宮はいろいろ出来るが、これは、雨宮に限らず、

大魔導士の元には、無理な頼みをしに来る人が多いと言う。

雨宮は、蘇生魔法は使えるが、息子は死んで数日たっていた。

それだと、魔法の効果はないそうだ。


「事情を、説明して断ったが、なかなか納得してくれなくて、

かなり困ったんだ」


しかも、雨宮が彼女の事を知る常連客から聞いた話しでは、

息子は落石で、即死との事で死体の状況もかなり酷く。

死んだ直後でも、蘇生魔法が無理だった可能性がある。


 大魔導士である雨宮に断られて、光明神にも頼れないのか、

とうとう、暗黒神に頼ったと言う感じだろう。

雨宮から聞いた過去の事例から、彼女と同じ様に、

暗黒神から借りた力、これが創造の一部はなのだが、

これで、死人の復活を試みた事例は結構多い。


(我は、説明責任を果たすのが主義だ。確かに我が力なら、

息子を蘇らせることが出来る)

(なら、私に力を!)


と必死な声が、頭に響いたが、


(だが、魂を戻すことは出来ない。蘇るは息子の姿をした別人だ)


ホラー系の話によくある話だが、

原因は、死後時間が経つことで、魂が完全に離れてしまって、

呼び戻せず、代わりにそこらに浮遊している別人の魂や、

動物霊や魔獣の魂を取り込む事があるそうだから、

こういう事になる。


 人が変わるだけならまだいい方で


(場合によったら、見た目さえも変わる。最悪、化け物になるぞ)


これも、過去の事例からである。何故かは、分からない。


(そして一番に、お前を襲うだろう)


襲われて、初めて自分の間違いに気づくと言うが、その際に殺されて、

手遅れと言うのが多い。


(それだけじゃ、とどまらないぞ。多くの人々に迷惑をかける上m

蘇った子供が、どうなるか。分かっているのか?)


向こうは、


(分かってる。それでも息子に会いたいの!)


と返してきた。俺がここまで伝えてきた事は、雨宮の話では、

広く知られている事らしい。当の暗黒神である俺が知らなかったのは、滑稽だが。

とにかく、彼女は分かっていて、それでも蘇りを望むと言うのだ。

その事に、俺はイラっと来た。蘇った者の末路と言うのも聞いているし、

彼女も、分かっているのだから余計にだ。


 ここからは、思い付きの正直で出まかせあるが、


(地獄に落ちるぞ)


ファンタテーラにも、あの世と言う概念が存在するが、

実際は、どうかと言うと、風呂場でジャンヌさんから聞いた話では、

あの世は、世界の誕生と共に、自然発生する魂の浄化の場所との事。

多くの神は、世界誕生の際に、そこに手を入れて、

天国や地獄を創造すると言う。しかし、手を入れず放置すると、

神でさえも認知できない空間になってしまうと言う。

ファンタテーラのあの世は、正にそれで、そう言う意味でも、

俺の言う事は、出まかせとなるのだが、


(私は、地獄に落ちてもいい……)


一応、相手にとっては神の言葉なんだから、重みがあるはず

それでも、こう返すと言う事は、相当の覚悟と言うのだろうが、

その覚悟に、ますますイラっとした。


(息子も、連体責任で地獄行きだぞ。それでもいいのか)


息子の事を持ち出すのは、卑怯だと思ったが、

流石に息子に影響が出るとなると、諦めるだろうと思った。


 過去の事例だけじゃない。俺自身、大十字絡みで、

実際に蘇りの果ての悲劇を見てきた。その惨憺たる状況に、


「何故蘇らせた!」


と慟哭したこともある。

でも、死んだ者を蘇らせたいと言う気持ちはわかるし、

俺自身、望んだこともある。同時にその悲劇も分かっている。

まあ今の俺も、蘇った様なものだが、

これは意図したものじゃないし、ある意味、自然現象だな、

天使の誕生の様に。


 とにかく、あの悲劇が確実に繰り返されると分かっていて、

おいそれと、力を貸すなどできるわけがない。

まあ、死者の復活に限らず、暗黒神の力は貸す物じゃ無いのだが。


 さて息子の事を持ち出されたからか、直ぐに返答は無かったもの

返ってきた答えは、


(それでもいい。それでも私は息子に帰って来て欲しい……)


息子の事を持ち出したのは、我ながら良い事じゃないとは思うが、

この回答に、俺の中で、何かが切れた。

何となくこうなるんじゃないかとは思ってはいたが、

ここからは自然と口に出して話していた。


「アンタ最低な親だな。息子の事なんてどうでもいって事か」


口調が戻ってしまったからか、

向こうも戸惑っているような感じがしたが、


(あなたに、何が分かる!あの子は私にとって、たった一人の家族なの!

あの子がすべてなのよ。あの子が蘇るなら、どうなってもいいのよ。

例え地獄の業火に焼かれようと)


と言い返してきたが


「だから、その息子も地獄行きだと、言ってるだろが!」


地獄の事は、ハッタリであるが


「たとえ蘇らせても、どうなるが、アンタも知らない訳じゃないだろ。

おおかた、蘇った際に、アンタは殺される」

(それでもいい。息子の手にかかって死ねるなら)

「アンタはそれでよくても、息子は、そこで終わらないぞ。

怪物となった息子は、他の人間に手にかけ始める。

大勢の人間が、犠牲になって、討伐されて二度目の死。

それだけじゃすまない。この事は、人々によって語り継がれる」


実際に、語り継がれているケースが多くある。


「アンタがしようとしているのは、死体のむち打ちだ!

それでいいのかよ!」


返事はないが俺は続ける。


「あまつさえ、息子も地獄に落ちるって言ってるのに、

それでもいいなんて、母親のする事じゃない

結局アンタは、息子よりも、自分が可愛いんだろ!」

(そんなことは無い!)

「だったら、阻止しろよ。息子の地獄行きをよぉ」

(!)

「子供が、酷い目に合わされそうなら、助けるのが親だろ。

それとも、見捨てたいほどアンタの息子は親不孝か?違うだろ!」


これは、雨宮が、彼女を知る常連客から聞いた話だが、

息子は、親孝行だったそうだ。


「とにかくアンタみたいな親に力は貸せない」


すると向こうは、


(だったら、どうすればいいのよ)

「そりゃあ。息子をちゃんと弔ってやることだ。それが一番だ」


返事はない。


 色々と吐き出したからか、俺は、妙にすっきりしていたが、

ただ俺に断られて後追いさえると、良い気がしないので、


「借用の儀の代償だ。もし後追いしたら、息子ごと地獄に落とすぞ。

息子には、アンタの所為だと言っておくから、息子の恨み節を聞きながら、

地獄の業火に一緒に焼かれることになるからな。

とにかく生きて、息子を弔い続けろ。わかったな!」


直後、メッセージウィンドウが消えた、申請をやめたのだ。

移行、申請来なくなった。


 翌日、雨宮の自室で、その事を話すと、


「それで、良かったと思うぞ。

さすがに暗黒神に断られたとなれば、諦めるとは思うが、

前に来た時の彼女、だいぶ話が通じなかったからな

正直、自信が無い……」


その言葉通り、自信が無さそうな様子だった。

俺も同じだ。大十字絡みの経験から、あの手の人は、

ホント話が通じない。どんなに危険性を説いたとして、聞いてくれない。


「常連客の話じゃ、前はまともな人だったらしいが、

息子の死がよっぽどショックだっただろうな。」

「だけどな、彼女、蘇りの危険性を理解してた。

それにも関わらず、実行しようとしていた」


雨宮は、悲しげに


「それが人間の哀しさと、愚かしさなんだろうな。

そう言うのを、見てきたよな」


確かに、大十字絡みで、そう言うのに出くわしてきた。

それでも、俺は身の破滅が確実で、それが分かって、

こういう事に手を出す人の気持ちがいまいちわからない。


 彼女の一件は、一旦ここまで、

しかしこの事が、このあと俺に、降りかかる出来事の予兆となった。

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