9「最終戦を前に」

 暗黒教団のとある拠点の一室で、ジム・ブレイドが、

水晶球を見ていた。ただ、そこに写るのはテレビの砂嵐の様な物であった。


「参ったな……」


と呟いていた。そこに来客があった。ナナシである


「やあ、頼まれたもの、持ってきたよ」

「急な話で、すいませんね」

「良いの、良いの、玩具が居なくて、暇だったからね。

それにしても、どうしたのかな、随分と難しそうな顔をしてるけど」

「よくわかりますね、仮面を着けているのに……

いやアナタには、仮面など無意味か」


そう言った後、ジムは、ナナシに鏡を見せた。


「『遠見』の調子が悪そうだね」

「暗黒神専用魔法の所為ですよ」

「じゃあ例の町に彼が、なるほど魔装軍団を、早速ぶつけたわけか」


そう今、和樹と戦っている連中の黒幕はジムであったが


「違いますよ」


と言ってジムは否定する。和樹との戦いは、予定してない事であった。


「最終的には、ヤツにぶつけるつもりでしたが、

今回は、デモンストレーションにすぎません。それに魔装も揃っていない」

「確かに、彼の所有する魔装に合わせて、優先して作った贋作だけだしね」

「今、残りの魔装は、使い手を探してますが、まだ見つかってなくて、

奴とやり合うには、万全でないといけないし、

そうじゃないと得られるものも少ない。そもそも魔装軍団は、教団の力を見せつける為の、実行部隊ですからね」


 魔装軍団は、ジムの肝いりで、設立した部隊で、目的は先の通り、

その活躍次第では、彼の教団での立場が、高まるであろう。

故に、彼にとっては駒である事には違いないが、直ぐに、使い捨てにはできず、

ある程度活躍してもらわなければ困る存在であった。


「それじゃ、アレを準備させたのは」

「救援を送ろうかと」

「あんまり意味ないと思うけど」

「形だけですよ。奴を相手に何もしないのも癪なんで……」


と言いつつも、


「まあ本当は退却させたいんです。捨てるには早すぎる。

責任者が、本物の七魔装の所為か、気が大きくなって、

返り討ちにするとか言って、こっちの命令を聞いてくれないんです」

「なるほど、じゃあ早く送っておいた方が良いね」

「まあ、通信では、まだ大丈夫そうですけど……」


 この後は、愚痴を言う様に


「しかし、よりによって奴がやって来るなんて、準備がほとんどできてないから

得るものは少ないし……」

「けど、あっちにいる事は、知ってるよね。教えたんだからさ」

「これは、前から決まっていた事ですし、奴と遭遇しない様に、

あの町を選んだのに、帰りに町を通る可能性があるログエスの森に、行くなんて、

それでも順調にナアザの町に戻っていてくれれば、

遭遇する事も無かったでしょうし……」


と言いかけて


「もしかして、アナタが何かしたんですか?」

「いやいや、今回は、一切手を出していないよ」

「本当ですか?」

「まあ信頼できないのは、分かるけどさ。それ以前に『引寄せ』の所為じゃ?」

「七魔装が、引寄せられるならともかく、暗黒神が引き寄せられてくるとは、

あり得ません」


今回の件に「引寄せ」は関係ない。話を聞いたナナシは慰めるように


「まあ、何事も上手く行くとは限らない。君だって経験あるはず」

「それは、そうですが……」


この後、部屋で、ジムは何かの儀式を行う。


「これで向こうに、転移が完了した」

「後は、事の成り行きを見守るだけか」

「見れればいいんですけどね」

「大丈夫、細工はしておいたから」


ナナシは、鏡のような物を取り出す。


「直ぐには無理だと思うけどね」。


 さて話は、その後の事に


「この始末はどうするつもり?」

「軍団は、人員を刷新します。それにあたって申し訳ないのですが

新しい武器の制作を頼みたいのです」

「別に良いよ。望むなら、いくらでも贋作を作るよ。色々と面白そうだからね。」


と言った後、


「ところで、捨てるには早すぎるとか言って、捨てる気満々だね」

「どうせ再起不能ですよ」

「本物の七魔装を持ってる奴も?」

「当然でしょう。まあレベッカだけは、残留させますよ。

もちろん自力で戻ってきた場合はですけど」


仮面を着けているから表情は分からないが、笑っているようであった。





 さて、最後の敵を前にして、ベルが


「少し準備をしてもいいでしょうか」

「準備?」

「ここまで集めてきた贋作の残骸を元に、新しい武器を作ろうかと」


なおこの時俺たちがいたのは、路地裏で、

俺達を探しているザコが来る気配もない。


「別にいいけど……」

「では、さっさと終わらせますね」


彼女は収納空間から、剣、槍、銃の残骸を取り出し、一か所に集めた。

そして残骸に手をかざし、武器の合成を始めた。


 彼女が武器を生成している間、自分にも、何かできる事が無いか考えた。


(戦いの段取りでもするか……奴が七魔装を使ってきたら、

女将さんから貰ったあのマジックアイテムを使って……)


だが、その先、具体的な作戦とかはどうかと言うと、此処に来るまでに、


《ヤツへの対抗策なのですが……》


と七魔装が真の力を使ってきた場合の対応は、クラウ達が考えてくれていて、


《雷と洪水、土石流、溶岩が来た時は、私が……》

「溶岩って……溶けたりしないのか?」

《今回は特別です。他にも……》


そしてミニアが


〔竜巻と雹とマグマの噴出と火砕流は、私にお任せ、後は……〕


一通り、役割分担を決めるが、フレイが不貞腐れたように


<悪かったわね。何も出来ない役立たずで……>

《あなたには、最も大きな役割がありますよ》。


と言う様に話は進んでいたが、それ以外の場合はどうするか、

相手が、最初から切り札を使って来るとは思えない。

卑怯な手も含め普通に戦いを挑んでくるのが当然だと、俺だってわかる。

しかし、その場合は、どうすればいいか、思いつかなかった。

これまで通り俺は武器に集中する事だけ、まあ今回も「習得」任せと言う事。


 そうこうしている内に、ベルが


「完成しましたよ」


と言って鞘に入った短剣を見せてきた。種類としてはタガーだろうか

鍔の部分が灰色で、どことなくだが機械的な感じがした。


「これが新しい武器?」


あまり強そうには見えない。するとこっちの心を読んだように


「一見、弱そうな短剣ですが、ただの短剣ではございません。

一味も、二味も違います」


と何処か通販番組における商品の紹介の様な事を言った。

ここでクラウが


《確かに、あの短剣は普通ではありません。強い力を感じます》


そしてベルが、


「まあ見ててください」


彼女は短剣を、鞘から抜き、一振りすると、


「!」


一瞬のうちに、長剣に姿を変えていた。


「更に……」


次の瞬間、剣は槍に変化し、一振りしたと


「最後に」


次の瞬間、銃へと姿を変えて、カッコつけた持ち方をした後、

再び短剣に戻った。


「クラウ達と同じ……」


あと、変形した長剣、槍、拳銃共に、妙に機械的と言うかSF的に見えた


 そしてベルは、


「これはメタシスウェポンと言います」


自慢げに言った。




メタシスウェポン

カオスティック・ザ・ ワールドで、三つ以上の異なる種類の

武器を合成する事で、稀に誕生する武器。通称、メタシス。

様々な形態に変形する武器で、別の武器と合成する事で

更なる形態を増やすことも可能。

ただし、形態はすべて異なる種類の武器になるので、

例えば拳銃に変形できると、後に散弾銃やライフルを合成しても

それらに変形することはできない。

なおランダムで設定される基本形態は例外である。


ベルの話によると、本来は、短剣から長剣と言う形で変形はできないそうだが、

短剣の方は、基本形態なので例外との事。

もちろん、武器としての性能も良いとの事だが、


「変形する武器……これでまたお揃いですね」


ベルの余計な一言に、何とも言えない気持ちを抱えた


(まあ、デザインは違うから、ペアルックじゃないよな……)


 そんな事を、思っていると、ベルは


「武器が完成したんで、私の準備は終わりましたが、

和樹さんは何か準備する事はありますか?」


と声を掛けてきた


「特には……」


と答えると、ベルは、腰に身に着けていた剣を外して、

収納空間に仕舞い代わりに、短剣形態のメタシスウェポンを身に付け、


「では行きましょうか」


俺達は、移動を再開した。


 いよいよ、大ボスだ。ソイツを倒した後もザコの掃討が待っているが、

今は、大ボスを倒す事だけに集中する事とした。

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