7「地下二階・パズルと殺人鬼たち(3)」
その後も、パズルを解きつつ、殺人鬼が現れれば、鳥もちで動きを封じ、
移動して、別のパズルを解くと言う事を繰り返した。
基本的には、順番であるが、ただ、殺人鬼共は、廊下でも襲って来る。
その際に距離を取る為、部屋を飛ばすこともあった。
殺人鬼たちは、神出鬼没なのは同じ、転移で近場に現れるから、
「周辺把握」で、察知したと思うと、直ぐ姿を見せるから、身構える間は無い。
なお三人は、それぞれ登場の仕方に、癖がある。
剣を持った少女は、最初のベッド下や、クローゼット、普通に部屋から。
飛び出すこともあるが、破壊を伴わず現れる。斧の少女は、必ずドアから現れるが、必ずドアを壊す。
鉈の女性は、場所を問わず、天井、床、壁をぶち破りながら現れる。
なお連中が壊した部分は、いつの間にか直っている。
(ホラー映画……体感来てるからゲームの様だな、殺人鬼から逃げまどうゲームを、してるみたいだ。)
そんな事をふと思った。
「まあ、ハサミじゃない分、マシかな。あとロケットランチャーがほしい……」。
自然と妙な事を口にしていた。
殺人鬼は、毎回、一人であったが、中には、こんな事も
《それを上に、左下を右に、次は上を下に……》
とクラウの指示のもと、スライドパズルをやっていると、
<来るわよ!>
「!」
天井から、鉈の女性が現れる。
「ウフフフフフフフフ」
鳥もちを、三発撃ったが、動きが止まらず、恐怖も手伝って、
更に何発か撃って、動きを止めれたが、途中から弾が出なくなった。
<撃ちすぎよ!弾切れに、なっちゃったじゃない!>
魔銃は、弾は使った分だけ、自動で補充されるが、直ぐではないし、
補充されないうちに、撃ち尽くすと、全弾回復するまで、弾は撃てない。
(この仕様もDXMと同じか……)
とにかく、俺は部屋を出た。もちろん、敵が来ないように願いながらだ。
しかし、現実は甘くなかった。近くの部屋の扉が開いて
「キャハハハハハハハハ!」
剣の少女が飛び出してきた。
(最悪……)
と思いつつも、武器をクラウに切り替える。相手が剣だからじゃない。
クラウの「習得」による回避行動で、敵の攻撃を避けるためだ。
そして敵の攻撃を避けていると、側の部屋の扉を破壊しながら
「………」
今度は、斧の少女が現れた。
(こんな時に、よりによって二人同時かよ……)
殺人鬼が二人同時は、この時が初めてであったが、
「ウフフフフフフフフ」
二人を相手にしている間に、鉈の女性が拘束を解いて
こっちにやって来て、三人、勢ぞろい。
しかもこいつ等、妙に息が合っていて、互いに邪魔することなく、
俺に攻撃を仕掛けてくるので、「習得」による回避とはいえ、
四苦八苦したし、狭い廊下での戦いだったので、
何度か、避けきれず攻撃を受け止める事もあり、
しかも三人分で、どうにか押し返したが、かなり難儀した。
(ちくしょう、怖い上に、面倒くさい!)
そんな事を思いながら、敵とやり合っていたが
<弾の準備が出来たわ>
俺は、隙を見てフレイに切り替え、三人に鳥もちを撃ち込み。
動けなくなったのを確認して、その場から逃げた。
殺人鬼が、複数で襲ってくる可能性を知った瞬間であるが、
そもそも、ラウラは、殺人鬼が、一人で襲って来るとは言ってなかったし
これまでは、運が良かっただけなのかもしれない。
その後、殺人鬼と遭遇する時は、一人、偶に二人の時もあったが、
しばらくは、三人を同時に、相手にすることは無かった。
引き続き、殺人鬼から、逃げつつ、パズルを続け、この時はスライドパズルをしていたが、ふとどうでもいい事が頭に浮かんだ。
(俺って、この世界のラスボスみたいなもんだなよな。それが逃げ回っているって)
まあ、俺が逃げ腰なのは、今に始まった事じゃないし、
普段も、逃亡中の指名手配犯みたいなもんだが、まあ悪い事してないけど、
暗黒神は、存在自体が悪だし。それに、世界を敵に回すなんてことは、
面倒の極み、避けるに越したことは無い。
(そう言えば、演出とは言え、ゲームのラスボスもよく逃げるよな。
形態変化の度に)
ゲームによっては追いかける手間があるから、
(逃げるな、ここで変身しろよ!)
と何度も思った。
まあどうでもいい話は、この辺にして、パズルは、完成寸前であった。
《いよいよですね》
「ああ……」
殆どパズルの完成形が見えていた。しかし完成していく絵の所為か、
何か微妙な気分。最後の方は、クラウの力を借りる必要はなく、完成にこぎ着けた。
《完成しましたね》
「クラウのお陰だよ。それにしても……」
しかし、完成したのがミラーカの自画像と言うのが、
何とも言えない微妙な感じがした。
完成した直後、「ピンポーン」と言う音が鳴って、
絵の彼女がニヤリと笑った気がした。直後、クローゼットが勢いよく開き。
「キャハハハハハハハハ!」
剣の少女が飛び出してきて、
「また、てめえかよ!」
俺は自然と、そう叫びながら、これまで通り、鳥もちで、動きを封じ、
部屋を後にした。
残りのパズルも、完成寸前で、2の部屋のジグソーパズルも、最後の方は、
俺がピースを拾っていた。
<それをはめ込めば、もう終わりね>
そしてパズルは、完成。ちなみに、これもミラーカの自画像。
「ありがとうな、フレイ」
<アイツらばかりに、活躍させたくないだけ、アタシのプライドの為なんだからね。アンタの為じゃないんだから、勘違いしないでよ!>
とツンデレの様な事を言う。
そして、再び「ピンポーン」と言う音が鳴って、パズルの自画像が笑った。
ふと思い立った俺は、銃を構え、扉の方に向けた。
次の瞬間、扉が吹き飛んだ。そして銃の引き金を引いた。
扉を壊したのは、斧の少女だったが、部屋に入る前に、鳥もちで拘束した。
〔なんだか、手慣れてきたわね〕
「そうかな……」
とにかく、その場を後にした。
さて数学パズルも、終わりに近づいていた。
計算はミニアだが、俺の入力が問題なのは、先述の通り、やがて問題も最後の一問。
〔答えは……〕
彼女は数字を述べ、俺は入力していく、制限時間があって、急がねばいけないが
それでいて、正確に入力しなければいけない。
(緊張する……)
手に汗握るという感じだろうか
〔落ち着いてご主人様。時間はまだ大丈夫だから、ゆっくりと、正確に……〕
「ああ……」
そして、最後の一つを入力する。
すると文字は消えて、「ピンポーン」と言う音がした。
「はぁ~~~~~~」
このまま、床に座り込みそうになった。
〔お疲れ、ご主人様〕
「ミニアこそ、ありがとう。計算してくれて」
〔たいした事じゃないわ。でも、途中の入力の失敗は、痛かったわよ〕
「それは、すまない」
〔まあ、いずれ埋め合わせしてもらうけど、でも今は、さっさとここを出ましょう。
奴らが、やってくる前に……〕。
しかし噂をすれば、影が立つで
「ウフフフフフフフフ」
鉈の女性が、壁をぶち破りながら、現れた。
「ああ、もう!」
鳥もちを数発ぶち込んで、その場から離れた。
手慣れているかは、ともかく、怖くて、面倒で、うんざりだった。
しかし、この思いが奴の餌になってると思うと、正直腹が立つ。
その腹立ちも、奴の餌だが。
後は、例の結び目だけ、これに関しては
《これは、少し手ごわいですね》
<何なのよ、この結び目は、>
〔う~~~ん、これは、お手上げかも~〕
クラウ達でも、難しい様子。
俺は、この結び目を弄るたびに、何か引っ掛かりを感じつつ、
やはり大十字の事が、頭に浮かんでくる。
(大十字が言ってた結び目って、何なんだ)
関係あるかは、分からないがどうも気になる。
俺は、この結び目に四苦八苦しながらも、その事を考え続けた。
他のパズルが完成し、気にしなくてよくなり、
この結び目に集中できる様になった所為か、
それでも、閃きの様な感じだったが、大十字の言っていた事を思い出したのだ。
「ゴルディアスの結び目……」
大十字の話ではアレクサンダ―大王の伝説の一つで、
ゴルディアスと言う王は、丈夫な紐で硬い結び目を作り、
これを解いた者は、アジアの王となると予言していた。
多くの人間が、結び目を解こうと挑んだが、誰も解くことが出来なかった。
だが、遠征でやって来たアレクサンダ―大王は、見事にそれを解き、
予言通り、アジアの王となったという。
「なあ、ラウラは、結び目を解けとしか言ってないよな」
《ええ、彼女は、それ以上は何も言ってないですが》
「やっちゃいけない事とかは、言ってなかったよな」
<そういや、言ってなかったわね>
「そうか……」
〔どうしたの?ご主人様〕
「いやちょっと試してみたい事が有る」。
俺は、武器を剣に切り替える。
《マスター、何を?》
俺は剣で、結び目を切り裂いた。ロープは、簡単に尚且つ綺麗に切れて、
結び目は解けた。
(どうなる?)
そして「ピンポーン」と言う音がした。
〔<《えぇーーーーーーーーーーーーー!》>〕
とクラウ達が声を上げた。
俺は、さっき思い出した「ゴルディアスの結び目」の話をした。
そしてアレクサンダ―大王の、結び目の解き方と言うのが、
今、俺がやった様に剣で、紐を切るという方法であり
誰にも解く事の出来ない難題を、思いもよらない方法で解決してしまう事への
たとえ話として使われるし、そう言う解決方法は、大十字が良くやる事でもある。
ただ初めて聞いた時は、正直ズルいと思ったが。
《流石です。マスター》
「いや、知り合いの受け売りだよ」
<でもさあ、正解みたいだけど、ズルくない>
確かに、否定はできない。
〔うまい事やったわね。ご主人様〕
ミニアには、皮肉られてるような感じはしたが、とにかく解けたので、部屋を出た。
今回、殺人鬼は、現れず、念のため、武器はフレイに切り替えつつ、
中央奥の部屋に向かった。
この部屋の前は、これまで何度か通っていて、話を聞いていたから気になって
確認しようとしたが、鍵がかかって、開かなかった。
(開いてる……)
この部屋も、殺風景でテーブルがあって、上には、数学パスルの時の様な石のパネルがあった。同じく壁には、文字が一行、大きく書かれている。
「また数学パズルか?」
しかし、そこに書かれているのは数式ではなく、
「私のお気に入りの人形の名前は」
と翻訳される文字。テーブルのパネルも、アルファベットに翻訳された。
数学パズル同様、入力しろって事らしいが、
「こんなの本人にしか、分からねぇじゃねぇか!」
と思わず声を上げてしまう。多分、この「私」ってのは、
ミラーカの事なんだろうが、彼女の事をほとんど知らない俺たちには、
こんな事の分かりようがない。加えて、壁には他に何も書かれていなく、
周りを見渡してもヒントとなるものも無いと来てる。
最後の最後で、完全に積んだような気がしたが、
「あっ……」
思い当たる節として、俺は、「ハダリー」と入力した。
彼女はイヴを連れ去ったわけだし、自動人形も一応、人形と言えるからだ。
だが、特に何も起きなかった。
ここでクラウが
《マスター、ラウラが最後に言ってた言葉》
彼女が最後に「マーカラ」と言っていた。
「そういや、名前っぽい」
俺は早速、入力してみた。すると壁が動き、扉が現れた。
どうやらこっちが正解のようだ。
しかし、ラウラが教えてくれてなきゃ、パズルは解けても、先に進めない訳で、
まあ、ゲームみたいだったが、パズルも殺人鬼も、防衛機能であり、
同時に、餌集めの道具でしかない。潰すこと前提で、解かせることは考えていない。
(昔の関わった屋敷もこんな感じだったな、妙にゲームっぽいというか……)
まあ、ミラーカは、カラクリ箱に夢中との事だから、カラクリ箱は一種のパズルだし
案外、彼女はパズルが好きで、それが反映されていたのかもしれない。
《この先に、彼女達の気配が、だいぶ近いですよ》
とにかく、俺達は、先へと進んだ。
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