3「小さな疑念」

 少し休んで、落ち着き、彼女は鎧をまとい、その後、村に連絡するため

洞窟の入り口付近に移動した。村人から、使用法を聞いた際に洞窟の奥では、

マジックアイテムが、使用できない事を聞いていたからだ。


 そして村に、ゴブリンの殲滅が、終わった事を、伝え、

その後、村人が複数人来て、状況の確認をすることとなっていたのだが

突然、雨が降り始めた。洞窟に入る時から、曇り空ではあったが

しかも、土砂降り、当然、村人たちは来れない。


 時間が過ぎて、日が暮れてきても、止む気配はない。

途中、村から、当然ながら今日はいけないという、連絡が入った。

こっちも、この雨じゃ帰ることが出来ないので、

洞窟で野営する事、特に問題のない事も伝え、


「寝起きの姿とか見られたくないんで、明日の朝、雨がやんでたら、

こちらから連絡を入れるんで……」


と伝えておいた。


 寝起きの姿を、見られたくないのは、事実だが、もう一つ

見られたくないものがあった。まあこれからベルに見せる事になるが


「これは……」


洞窟の、俺達が、丁度二手に分かれた場所は、広かったので

そこに、宝物庫から、車ことカオスセイバーⅡを取り出した。

これは、目立つから、人に見せたくなかったが、野宿はしたくなかったのと

あと野宿だと、一緒の部屋で寝ている様な気がして

緊張で落ち着かないから、仕方ない。それに、一人だけと言う事もある。

まあ、キャッスルトランクの方を使えばよかったと思うが、

この時は、思いつかなかった。


「俺、『収納』スキルを持ってるんだ」


と言って、宝物庫の事は誤魔化す、ちなみにベルは『収納』を持っているとの事


 そして、イヴを加えた三人で、ボックスホームに入ると

ベルは、驚いたように


「この家は一体?」

「ボックスホームって言うらしい。

さっき洞窟で出した車の中に、搭載されてるんだ」


そう言うと、俺は、鎧を脱ぎ、いつもの格好になった


「じゃあ。ここが、あのスポーツカーの中なんですか。凄いですね」


この時、彼女は、おかしな事を言っていたのだが、俺は気づかず


「あれ?鎧は……」


その後、鎧がブレスレットに変化する事を教えた。


 彼女は、居間を見渡しながら


「なんだか、豪勢ですね。」


と目を輝かせていたので


「前の持ち主の、趣味でな、この車、貰い物なんだ。

この家や、家具、調度品全部な。しかもタダでな」

「そうなんですか」


ボックスホームの内装や、家具、調度品が、俺の趣味だと、

思われたくないので、そう答えておいた。実際に趣味じゃないし


「その内、処分しようかと思ってる」

「もったいない。みんな良いものばかりですよ」


とベルが、残念そうに言った。


 さて本当の事は言えないから、貰い物と言ったが

実際は、奪ったような物である。まあ、暗黒神の事実を聞くまでは

俺が作ったという情報しかなかったので、宝物庫の中身について

特に何も感じなかった。


 実際は、刃条が作ったものだし、アイツの物なんだろうが、

アイツには、酷い目にあわされて、

そもそも、俺がこうなったのもアイツに、

遠因があると言ってもいいだろう。

かつての事も含めて、賠償はもらってないんだから

その代わりだと思えば、大して、罪悪感は抱かない。


 ボックスホーム内には、食糧を備蓄させていたので、

それを、イヴに調理してもらい、夕食とした。

食事中が、ベルが、時折、俺の方に視線を向けてくる。


「なに?」


と俺が聞くと


「いえ、黒騎士さん、和樹さんって呼んでも良いですか?」

「良いけど……」

「和樹さんって、美人だなって思って……」


ちなみに、名前は、パーティーを組む際に、名乗っている。

名乗ったのは、カズキ・ヴラドウェイズと言う

雨宮のアドバイスで付けた、俺の、この世界での名前であるが、

あと顔は、性別確認の際に、初めて見せた。


「美人ねえ……」


嬉しくないわけじゃないが、心が男だからか、少しピンとこない所があった。


「もっとじっくり、見せてもらえませんか?」


この時、彼女への緊張は、緩和されていたが、そんな事を言われると、

恥ずかしさと、緊張が、ぶり返してきて


「すまん、勘弁してくれ」


と断った。


 その後、当然、別々に、お風呂に入って、別々の寝室で寝たが

床に入ったところで、ベッドの側に立てかけていたクラウが


《少し、気になったのですが、彼女から、僅かに狂気のようなものを感じまして》

「狂気?」

《ほんの僅かですから、問題は無いとは、思うのですが……》


ここで、割り込むように


〔そんなことは無いわ、彼女は危険よ〕


次の瞬間、剣は槍に変わり 鞘は、穂鞘となった。


「ミニア……」


 声の主は、七魔装の一体で魔槍ルイン、今は、見た目と名前を変えて、

ロンゴミニアド、通称ミニア、昔は、黒くて、おどろおどろしデザインだったが

今は、白を基調に、キレな装飾を施し、これもゲームで見た聖槍をイメージした

デザインに変えた。名前は。大十字から、話を聞いたアーサー王の槍からとった。


 入手経緯は、ダンジョンの一件の後、仕事最中に、

乱入して来た魔獣グリフォンの体に刺さっていた。

そうグリフォンを倒して手に入れた槍こそがこれであり、

彼女が、俺と一緒に暮らしている六人目の女性である。

なお元の持ち主は、グリフォンとの戦いで命を落としたそうだ。


「どうしてそう思う?」


彼女は、色っぽい声で、


〔女の勘〕

「勘って……」

〔結構、当たるんだから~〕


と言った後


〔それに、さっき、彼女を襲っていたゴブリン、変だったわ〕

「変?」

〔私、暇だから色々見てたの、鎧が、ずいぶんきれいに脱がされていたわ

ゴブリンなら、もっと荒々しく脱がすはずよ。

それに、随分、ゆっくり脱がしている気がするし〕


ここでクラウの声が


《確かに、随分、ゆっくりな気はしましたが》

〔鎧を全部脱がしてから、服ってのもおかしいし〕

「そうなのか」

〔普通だったら、鎧を取った場所から、服を脱がすだろうし〕


言われてみれば彼女は、鎧を上半身、下半身とも脱がされていたが

服は、一切脱がされてない。脱がす前に倒したと言う事もあるが


〔それに、敵意も感じなかったし〕


ここで、フレイの声が


<そりゃ、敵意を向ける前に、息の根を止めたからでしょ>


と自慢げに言うが


〔確かに、ご主人様に、向ける暇は無かったでしょう

彼女に、向ける敵意の方はどう?確認した?〕

<そこまでは>

〔私、暇だから、見てたの、あのゴブリン、敵意は無かった。

というより空っぽだった。あれは、操り人形よ〕

「人形……」

<だけど、誰かが操ってる気配は、無かったわよ>

〔私には、彼女が、操ってる気がしたわ。自作自演よ〕


これも、ミニアの勘なんだろうが、俺はここで、反論した。


「彼女は、本気で怖がっていたし、自作自演って事は無いと思う」

《私も、そう思います。彼女からは、恐怖心を感じましたから》

〔確かに、私も感じた。でもね『感知』が当てにならない時もある。

500年間、そういう事が二回ほどあったわ。

もちろん鞘に入っていない時の話よ。〕

《鞘に入っていないのにですか?》

〔そうよ、だから、最後に当てになるのは勘よ、勘。〕

<確かにそうね>


とフレイが同意しつつ


〔これから、どうするかは、ご主人様、次第よ〕


そう言うと、槍は、剣に戻った。


〔あと、たまには私も使ってね〕


と言ってそれ以降は、黙ってしまった。


 なお、フレイとミニアは、クラウから基本的に勝手に

変形することは出来ない。

ただ、俺の手から離れている時なら、偶に勝手に変形できるそうだ。


 それと、ミニアは、攻撃力やリーチ、更に「習得」で覚えているアーツを含め

使い勝手は良いのだが、無駄にエロい。使っていたら、

時折、喘ぎ声をだす。その状態で、アドバイスや、叱咤激励をするので、

いやらしい事をしているようにしか聞こえない。

その所為で、変な気分になって、使いづらい。


 さて、クラウがそうであるように、ミニアも嘘はつけない。

彼女の勘が、当たっているかは不明だし、

それに、状況が、状況だけに、本人は問い詰めにくかった。


 翌朝は、洞窟外に出ると、快晴であった。

そして朝食後、全員が外に出て、車は、宝物庫に仕舞い、

村に連絡、暫くした後、村人たちがやって来て、

洞窟内の状況は確認し、その後、事は滞りなく進み、

俺達は、報酬と、依頼完了の書類を貰い、俺達は、村を後にした

なお、マジックアイテムは、洞窟に村人が来た時点で返した。


 その後、彼女とはこれっきりと言う事は無く、ギルドに行けば

必ずと言う感じで、彼女と会った。そりゃ彼女も、冒険者なんだから

ギルドであっても不思議じゃない。

加えて、彼女は、


「このスライム退治なんか、良いと思うんですけど、どうですか一緒に」


とか


「キラッド退治、一緒に行きましょうよ」


と俺向きの仕事、正確には、低難度であるが、

二人でやって、丁度いい規模の仕事を見つけて来て、

一緒に受けようと、誘って来る

基本的に面倒くさがり屋の俺は、ついつい、誘いに乗ってしまう。

なお、ベルの事が気にならないわけじゃないが、

彼女目当てで、仕事を受けてはいない。


 とにかく、彼女と、パーティーを組んで仕事をすることが

多くなっていって、何処かで話を聞きつけたリリアが


「彼女、出来たんだってな、もしかしたら、アタシたちの新しい『ママ』に

なってくれるのかな。ねえ『パパ』」


とバカにしたような口調で言ってきた。

ちなみに、『パパ』と言うのは、暗黒神である事がリリアに知られ、

加えてある事実から、俺への嫌がらせの一環で、

言ってる事であり、俺とリリアに親子関係は無い。


 あと、「彼女」とは言っているが、俺とベルは、仕事仲間であって

彼女と呼べるものではないと思う。


 なお雨宮は、ベルの事を聞いて


「お前にも、やっと冒険者仲間が出来たって事だよな。いい事だ」


と喜んでいるようだった。彼女を紹介するまでは。


 その日は、仕事を終え、夕方近くに帰って来たので、

イヴを家に帰し、俺達は、interwineで夕食をとる事にした。

なお、俺が誘ったのではなく、彼女が自分も行きたいと

ついてきたのであるが。


とにかく、店に彼女と行き、そこで、雨宮に紹介したわけであるが


「貴方が、クロニクル卿ですね。お話は、聞いています。

お凄い人なんですね」

「いや……それほどでも……」


と謙遜する雨宮


「それにしても、こんな有名人と知り合いなんて、和樹さんも、凄いですね」


ベルは、俺の事持ち上げた。


 その後、二人で、夕食を食べたのであるが、彼女を紹介した後

何だが、雨宮の表情が、険しくなったようで、

時折、彼女の方を、見ている気がした。

後日、interwineに、俺一人で行ったとき


「ちょっと、来てくれ」


と雨宮に、スタッフルームに連れていかれた。

客の目が多い時間帯だからと言う事だが、そこで雨宮から


「彼女と組んでて、何かおかしなことは無いか」

「おかしな事……」


一つだけ、思い当たる節が


「そういや、彼女、いつも、最後の最後で、ドジるんだよな

いつも俺が助けるってくらいか」


彼女は、新人との事だが、それが信じられないくらい腕前がいい。

それにも関わらずゴブリンと同様、いつも最後の最後で、ドジを踏むのだ。

まあ、そこが新人だからと言えることかもしれないし、雨宮も


「新人にはよくある話だな……」


と言いつつも、雨宮は深刻な表情


「どうしたんだよ?」


と聞くと、


「これは、根拠がある訳じゃないんだ。審問官時代の

勘で、必ずしも当たるとは限らないんだが……」


と前置きをしつつも


「彼女からは、危険な雰囲気がする」


雨宮の勘は、本人が言う通り、当たらないこともあるし、

それ以前に、働かないこともあるのとの事だが、

問題なのは、これで二人目と言う事。


 雨宮は


「根拠がない訳だし、お前も不安、不快させるだけかと思ったが

でも、後々、問題が起きた時に、言わなかったことを後悔したくないから。

まあ、頭の片隅に、留めておくくらいでいい」


この後、フォローの様に


「いや、忘れてくれてもいいか、」


と言われたが、二人目、しかも、根拠がないとはいえ

親しい中である雨宮の警告となると、

どうも気にせずにはいられず、心の片隅に、小さな疑念が生まれた。


 それは、簡単に打ち消せるほどの小さなもの、

だが、それが正しかったことを後に知るのであった。

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