第3話「アイテムドロップ」

1「襲撃」

 RPGとかで、遊んでいて初期装備以外の武器を初めて手に入れた時は、

妙にうれしかった。ゲームによっては、別にこだわっているつもりはないのだが、

中盤あたりまで、その武器を使っていて、

使わなくなってもゲームクリアまで捨てることなく持っていた。


 この世界をゲームに例えればRPGになるのだが、俺の場合は初期装備は、

あの鎧だが初期と言うより隠し武器,。この時はまだ着る機会はなかった。

 

 その状況で、手に入れる初めての武器。

ゲームとは違って、その出会いは最悪であった。


 さて俺が異世界にきて、数週間、強大な力を意識していたのは、最初のうちだけ、日が経つにつれ、そのことを忘れがちになっていった。

なんせ突然手に入れたもので、使い慣れてないから、

俺だけかもしれないが、慣れてないと存在自体を忘れがちになってしまう。


 まあ、「能力調整」で力を押さえているというのもあるのだろうが


 その状況下でも、「創造」は多少の制限はあるが使う分には十分機能するので、

お金に余裕があっても、定期的に「創造」で宝を補充して忘れないようにしている。


 なんせ資金調達は生活に必要だから。


 そんな俺が何をしていたかと言うと、

街から街に放浪の旅をしていたと言えば格好いいが、

実際はブラブラしているだけ、一応住む家を探すという目的はあった。


 もちろん元の世界に戻る方法を探すという目的もある。

ちなみに俺の持つスキルや魔法、宝物庫のマジックアイテムの中には、

異世界への転移を行えるものはない。

      

 無いなら作ればいいと思うだろうが、「創造」を使うのは、精神的につらい。

石っころ一つ作るのに事細かい設定、設計図の様なものを考えなければいけない。

楽なのは水と空気、あと過去に作られた、即ち既に設計図があるものを、

もう一度作る時くらい。

だから宝の補充は楽だ。それ以外では面倒なので、使いたくない。


 それに、元よりニート状態なわけだから、これと言って用事もなく、

急いで戻る理由はないから、わざわざ面倒なことをする理由もない。


 あと神隠しに遭って帰ってきた人間の話は聞いたことがないから、

戻れない可能性もが高いし、例え戻れたとしても容易じゃないのは想像がついた。

だから当面は、この世界にじっくりと腰を落ち着けて、気楽にいこうと思った。

そんな訳で家探し、幸いお金の心配はない。しかしながら条件のいい場所は、

なかなか見つからない。


 そんな時の事であった。


 それは外食をして宿に戻る途中、

慣れない町で迷って人気のない路地裏をに入った時、その男と会った。


 男は、路地の反対側から歩いてきた。格好は腰に剣を装備していて、

服装と言うより装備はRPGの剣士と言う感じだったが、装束はボロボロ、

装備は傷だらけ、外れかけてる部分もあって、身なりはよくない。


 あと服装だけではない。男は見るからに不健康だった。顔はやせ細り、

目元にはクマ、血色も悪い。坊主頭であったが、自分で剃ったと言うよりも

すべて抜け落ちたという感じで、目も虚ろで更に体の動きも、

フラフラしていて妙におぼつかない。

 

 見るからにひどい病気か、あるいは違法薬物のやりすぎで、

身も心もズタズタになったようにも見える。

とにかく家、と言うよりも入院して治療を受ける必要があるように感じた。

 

 だが男と目が合った瞬間、


「う……あ……」


と聞こえるようなうなり声を上げたかと思うと、突然剣を抜いた。

途端、いや抜く瞬間から男の動きは変わっていた。急に元気を取り戻したごとく、

さっきと別人のようにふら付きはなくなり、しっかりとした動きで剣を構えた。

ただ顔色はよくないままだ。


 あと、男の持っている剣も不気味だった。

鍔の部分が黒く形がコウモリの羽のような形をしていて、

刀身には赤い線で描かれた気味の悪い柄が描かれている。

見たためから、危険さを主張していた。

 

「おいちょっと待て……」


 ここで問題なのは、その剣を俺に向けているという事、

つまり俺に切りかかろうとしているという事だった。


「うわっ!」


 俺は思わず声を上げつつ、男の一撃を避けた。

思ったとおり男は俺の制止も無視し、切りかかってきた。

そして俺はどうしたかと言うと、一目散に走って逃げた。


 力の事を忘れていたという事もあるが、たとえ覚えていたとしても、

戦うのは面倒だし、返り討ちにしようとは思わず逃げるだろう。

ただもっといい逃げ方をしただろうが


 とにかく、俺はひたすら逃げた。しかし男は、ものすごいスピードで追ってくる。さっきまでの不健康そうな様子が嘘みたいな感じで、

その様子が余計に怖かった。そして


(自動調整?)


 突然、「自動調整」が働いたのを感じたそれと同時に、


「!」


背中を、軽くて薄そうな段ボールか何かで、思いっきり叩かれたような気がして、

あと僅かな痛み。


 振り返ると、男は剣を振り下ろしていた。俺は思い立って背中に触れる。

手触りで服に大きな切れ目ができていることが分かり、更に軽く血も出ていた。


(もしかして……)


 ここで俺は、男に背中を切られた事に気づいた。大した怪我はしてないが、

地味につらい痛みである。あと「修復」が自動的に働いて、

傷も治り服も元通りだが、痛みは短期間であるが残る。


 少しの間、男は剣を振り下ろした姿勢のまま固まっていたが、

再び切りかかってきた。ここで自分の力の事を思い出し、

同時に逃げ切れないと思った俺は、その攻撃を左腕で防御した。


「!」


左袖が切れ、腕に切り傷ができたが大したものじゃない。

そうススキの葉で切られたような感じだ。大した怪我じゃないし、

「修復」で傷は服ごと直ぐに治っているが、それでも地味に痛い。

 

 以降、男は、何度も切りかかってきたが、同様に腕で防御、その度に袖は切れ、

地味な痛みを感じつつ、そして反撃の時を待った。


 一撃当てて、その隙に逃げる。今思えば良い逃げ方じゃない。

魔法を使えば、もっと簡単に相手をまくことはできたはずだが、

この時、力の事は思い出したが魔法を使うということまでは、

頭が回っていなかった。


 なんせ使い慣れてないもんで。


 そして男の斬撃は早く、こっちは自動調整が行われていたものの、

防御力と治癒力だけで、俊敏さは人並みだったから、

タイミングをつかむのが大変だった。やがてちょうどいい感じの斬撃が来て、


(今だ!)


 俺は剣を右手で受け止めた。剣は思いのほか軽く、

おもちゃの剣を受け止めたみたいだった。


「!」


 しかし手には地味につらい痛み。それに耐えつつ、力任せに押し返す。

すると男はバランスを崩し、そのまま地面にひっくり返った。


 そして剣は男の手を離れ、地面に落ちたはずだった。


《殺せ!その男を殺すのだ》


 男が地面にひっくり返ると共に、頭に声が響いた。

声は若い女性、少女と言ってもいいかも、ただかなりに凄みがある声だった。


(なんだ、今の声?)


 そんな事よりも、今のうちに逃げなければならない。

男に背を向け逃げようとすると、


《逃げるな……早く男を殺せ!》


と言う声がまた頭に響いた。そして気づいた。俺が剣を握っていることを、

しかも男の持っていたヤバそうな剣。


「うわっ!」


びっくりして思わず声を上げ、剣を手放した。


「なんなんだよ……」


 とにかく俺は、一目散に逃げた。

そして人通りの多い通りへと出ると、妙に安心感が出てきて


「ふう、ここまでくれば……」


と何ともベタな一言が思わず口から出る。

俺は、そのまま急ぎ足で一旦、宿に戻った。

 

 しかし、そこで新たな問題に直面することとなった。

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