第59話 上書き保存
「あれからもう2日経ったが気分はどうだ?」
「・・・・・・」
「なんだ、やっと壊れたか。そろそろあのエルフたちにこの場所バレそうだからギリギリ間に合ったってところか。全く手間取らせやがって」
「・・・・・・・・」
「あとなんか話してない話はあったか? 人間のふりをして騎士団に忍び込んで王女から情報を抜き取るだけ抜き取って殺したエルフの話も、人間を潰すために他の種族を飼いならした料理人の話も、かつて仕えていた主人が大好きだった街だと知りながらすべてを塵にした女の話も、大量に人を殺めた少女の話も、計画を立てた張本人たちの話もぜーんぶしたからもうねぇか」
エルフ? エルフは人間を戦争でホロボシタ?
ニンゲンはエルフの奴隷にナッタ?
俺がやったことはスベテマチガイダッタ?
ワカラナイ、モウナニモ。
タシカナコトは、エルフがニンゲンをホロボシタということだけ。
「まぁここまで行けば十分だろようやく最後のピースがそろった」
「グエン王子、恐らくこの場所がばれました。直にエルフたちが来るかと」
「スミスか、わかった。ったく、まさかこの国の放送器具が全部先に掌握されてるとはな・・・。くそっ、あの元諜報員のエルフとやらの仕業か!!! どうやってるんだ全く意味が分かんねぇ。もしかしたら最初からエルフが支配してんのか? そんなこと聞いたこともねぇが・・・まぁいい、こいつがこうなったんなら話は別だ。まだどうにでもなる」
彼はそう言って近くにあったゴミ籠を蹴り上げた。
だけどそんな音も彼には届かない。
「・・・グエン王子はエルフを再び奴隷にしようとお思いで?」
「ったりめえだろ!! スミス達は建国前に奴隷として扱われてたんだろ? ならやり返せばいいじゃねえか。やられたらやり返す。それが今この時代で起ころうとしてるだけだ。それにこの騒ぎでエルフを排除出来れば俺がこの国の王になれるからな。親エルフの奴らは全員排除してしまえばいい」
「奴隷・・・、までは言いすぎですがね。支配されていたのは確かですけれど」
「変わんねえよ!! 今までエルフたちは俺たち人間を見下してたんだろ!! じゃあ排除されて当然だろ!! たとえ昔奴らが人間に支配されてたとしても知ったことか。お前が一番そのことはよくわかってんじゃねぇか? スミス」
「なるほど・・・。おっと、来ましたね。6人ともいらっしゃっております」
「よっし、じゃあ計画の最終段階と行きますか。おら立て!! 行くぞ!!」
エルフがクル?
6人?
エルフはニンゲンノテキ。
エルフはドレイ。
エルフは・・・ゼンインハイジョウスル。
***********
話はさかのぼり、フィセルがグエン達に連れ去られた直後。
「ごめんなさいごめんなさい私が弱いからお兄ちゃんが、お兄ちゃんが!!!!」
「ルリ落ち着きなさい。こうなったのは私たちのせいでもあるのですから」
外から帰ってきた私たちは先ほどと同じようにリビングのいつもの定位置にそれぞれ腰を掛ける。
先ほどと違う点は、ご主人様がいないことくらいだ。
アイナがルリの背中をさすりあやしてくれている。
ルリはこういう時に、非常にもろくなる。
「・・・完全に私の失策です。ご主人様があの小屋にいたという時点でもっとグエン王子に警戒しておくべきでした。まさか発信機を付けられているとは」
ご主人様にバレたということで私はあの時私も完全に頭が真っ白になっていた。
もっと細心の注意を払うべきだった。
だがどこかでいつかはこうなる気がしていたし、これによってわかりやすく事態が動いたというのも確かだ。
「そんなことより今からどうするかだろ。相手方が完全に動き始めたってことだろ?」
「シズクは主に発信機を付けていないのかい?」
「発信機というか魔法をかけておいたが解除されていた。どうやったのかは知らねぇ」
「どうするんだ? まずは俺らができることと、奴らがやろうとしていることを一旦整理しないか」
「そうですねダニング。いったん整理しましょう」
ダニングの提案に乗っ取り、私たちは今の状況を整理することにした。
「まず、事の発端はアイナと一緒に言った騎士団の訓練ですよね?」
「はい、気付いたらいなくなっていてまさかグエン王子と接触しているとは・・・。本当にごめんなさい」
「今そこを気にしている暇はありません。そしてグエン王子はご主人様を200年前の小屋にワープさせて真実を見せたと」
「っていう事は少し前に小屋に来やがった侵入者ってのはグエンって野郎だろうな。私の結界を簡単に破りやがって・・・・。しかもご主人が作ったオリジナルの転移玉を盗んでったってことだろ?」
「そうですね。あそこにはレシピも保管してありましたから恐らく自分でも作ったんでしょう。先ほどご主人様を連れて逃げた時も転移玉を使っていたようですし、他にも盗まれたものがあるかもしれません。どうやってあの小屋の位置を特定したのかは分かりませんが」
「そしてご主人は連れ去られたと。ここまでが今日あった事実だな」
ダニングのまとめにみんなが頷く。
よし、整理ができ始めてきた。
「そして次はグエン王子の目的ですね。シズクはこれまでで何かつかめていますか?」
「特になんにもだな。・・・いや、一個だけあったな。王城に仕掛けた盗聴器の情報なんだが、最近エルフに不満を持つ奴が多いっていう話し声は耳にしたな」
「やはりグエン王子の目標はエルフの排除なんでしょうね。そして私たちの動きを止めるためにご主人様を拉致した。そう考えるのが一番妥当ですね」
「じゃあなんでわざわざご主人様を一度あの小屋に転移させたのでしょうか?」
「多分、主に俺たちへの不信感を募らせるためだと思う。現に俺らは1年以上も主に言えなかったことを隠してきたわけだからね」
「バンの言う通りです。そしてもしかしたらもうご主人様は私たちを仲間と認めてくれないかもしれません」
場が一気に静まり返る。
だが最初から覚悟していたことだ。
そもそもあの小屋を焼き払っていればこんなことにはなっていないのだが、それは私たちがしてきたことへの否定及び逃げだと思い行動に移せなかった。
そしてまんまとグエン王子の計画の一つに使われてしまったということだ。
唯一後悔していることは、結局1年以上も何も明かさずご主人様とずるずる共同生活を送った結果、この幸せを手放したくないと思ってしまうようになったことか。
だけどもう遅い。
「ですが、ご主人様は何としてでも救出します。そしてグエン王子の謀りも打ち砕きます。もしご主人様に拒絶されたとしても、私たちの使命は人間とエルフが笑いあえる世界を守ることなのですから」
「そうだな。っていうかグエンってやつは、過去に人間はエルフに支配されていたからやりかえすっていう理由でまたエルフを支配しようとしてんのか?」
「そうでしょうね。それに今の人たちはかつて私たちが人間の奴隷だったことなんて知らないでしょうし、エルフも私たちが制限しているので言えないから不満を抱くのは当然でしょう。目先の情報に踊らされて・・・。私たちは人間を奴隷のように扱っていないのに」
「今回の件がエルフたちに知られたら怒りは爆発してしまうだろう。『お前たち人間のほうが我々に酷いことをしてきた』とな。そして人間とエルフに溝ができ対立する。最悪のシナリオだ」
私たちはご主人様が亡くなった200年前から計画を動かし始め、50年かけて準備し、50年で戦争を終わらせた。
そして今が建国から約50年経っているということは戦争の後に空白の50年間がある。
先ほどご主人様に言えなかった空白の50年。
そこで戦争に勝った私たちエルフは確かに人間を支配していた。
その時の王国の名を『エルフィセル』。
そして国王は私が勤めた。
なぜこそんなことをしたのか。
理由はいくつもあるが一番の大きな理由としては、戦争に勝った私たちエルフがすぐに人間と平等に手を結ぶとなると過去にひどい目にあわされたエルフたちの不満が爆発してしまうからだった。
そして何を隠そう、いざ戦争に勝ち人間を蹂躙したときに私たちにも人間に対する憎悪が爆発してしまったのだ。
無様に泣いて媚びる人間を見ると余計に。
というか戦争という手段を取ってしまったのもご主人様というストッパーがいなくなった結果、失せたと思っていた人間への恨みが制御しきれなくなってしまったということが大きいが。
だから私たちは50年間という期間を設けて、エルフをかなり優遇する政策を行った。それが今でも一部の人間が経験し、後世に語り継ぐことを禁止している暗黒の時代だ。
50歳を超えている人間はこの時代を経験しているということになる。
そしてこの計画を、エルフの自尊心を保つためにも『人間奴隷化計画』として展開していった。
もちろん実際はエルフが人間に対して奴隷のような扱いをすることは禁止していたし、それを厳重に取り締まっていたのが今シズクが運営している『黒の組織』であるが扱いが平等ではなかったのだけは確かである。
こうして50年かけエルフの鬱憤を晴らすことによってふたたび王権を人間に戻し、今のような国となったということだ。
だからエルフからしてみれば、妥協に妥協を重ねたのに人間側が都合のいいところだけ切り取って発信しているようにも思えてしまうし人間からしてみればそんなことを隠していたのかという不満が爆発してしまう。
これを利用して王国内を混乱に陥れ、それに乗じて王権を勝ち取ろうとしているのだろう。
彼からしたら嫌なエルフも排除出来て王権も取れる。
最高の展開なんだろう。
そしてそのためにご主人様を拉致して私たちの行動を制限した。
これがダニングも言っていたシナリオだ。
「さて、相手の狙いも分かったところですし今後について考えましょう。まずはシズク」
「なんだ?」
「あなたは出来るだけ早くご主人様の場所を特定してください。どれくらいでできますか?」
「・・・・・2日でやって見せる。あと王都の放送機器も全部確認しとくな」
「分かりました。ではダニングはもしもの時のために貯蔵できる食材や日用品などをありったけ収納袋にでも確保しておいてください。もしかしたら戦争になってしまうかもしれないので」
「わかった」
「そしてアイナとルリはシズクが怪しいと思ったところを伝えられるたびに特攻してください。あなたたいならできますよね?」
「わかりました」
「うん・・・、グスッ、絶対お兄ちゃんを助ける」
「じゃあ私とバンはもろもろの指揮を執ります。エルフ、人間問わず混乱が生じるまでに手を打たなければなりませんからね」
「わかったよ。・・・懐かしいねこの感じ」
「では各々最善を尽くしましょう」
そしてシズクからご主人様の場所を特定したとの連絡が入ったのは、この日から2日後の事だった。
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