第56話 過去編 中 

 それから何年もの時間をかけて私たちの計画は動いていった。


 私とバンは当初の予定通り王都に住み着いて始めた商売も軌道に乗り始めどんどん地位を得ていった。


 これは一重に私だけの力ではなく目上の人との食事の際にダニングの力を借りて最上級にもてなしたり、バンという非常に優秀な護衛が私についているというアピール、そしてシズクにライバル社の情報を探ってもらったおかげだ。


 もちろん私も新たな魔法具の開発などにも打ち込み、多くの称賛を得ることができたが一番はご主人様が残した特許や『フィセル』という名前、莫大な資産と魔法具・魔法薬のレシピによる賜物であった。


 また、シズクに関しては他社を陥れたりと暗殺とかまではしてないものの正直法律には触れているようなこともいくつかしてきた。

 それでも他社の情報を盗んだりはしていない。


 あくまで不正を摘発したりとかそう言った方面だ。

 まぁ密偵を送っている時点でアウトと言われればそれまでだけれど、むやみな殺生はおそらくあの人が嫌がると思って中々踏み切れなかった。


 ただ殺しはしないというだけで、目的のためにはなりふり構っている余裕はなかった。


 こうしてわたしは都に来て30年ほどたったころには王都でも有名な女商人になり魔法具、魔法薬、魔法書の製造メーカー単独トップ、剣や盾や銃の製造の中枢を担いご主人様の存在もあって国王に伯爵の位をいただくまでになっていた。

 ハイホルン王国における、始めての女領主となったのだ。


 ご主人様が国王と面識があったのは非常に大きかったが、会うたび会うたび「フィセル殿は元気か?」と聞かれるのは中々心臓に悪かったし、ゲルグと名乗る商人だけは私の正体を知っていた。

 何故か彼は私の正体を知ったうえで協力してくれたけど。

 もしかしたらご主人様が何かしらの口添えをしていてくれたのかもしれない。


 さらにいえば私がこうして動いている最中にも一度国王は変わった。


 また、私がいつの間にか貴族になっている中でシズクとダニングも奮闘していた。移動手段を作り終えた二人にまず立ちはだかったのは、龍人族との交渉であった。


 そもそも私たちエルフは龍人族がどこに住んでいるのかもよくわかっていなかった。

 私たちにとって龍人族は存在しているのはわかっているがどこにいるかわからないという認識だったのだ。



 そんな風で後回しにしようとしていたところを助けてくれたのが長年アイナの相棒のような関係だった「ドラグ」であった。


 というのもこのドラグが龍人族の一員であることが判明して橋渡し役になってくれたのだ。

 後から聞いた話だが、龍人族というのは野生のドラゴンが500年生きると人を模した姿に進化するらしく、その進化したものたちが集まって集落となったものであり、ドラグがそこまで案内してくれたらしい。



 この時のドラグはまだドラゴンで私たちの言葉をしゃべれなかったはずだしどうやって連携したのか私は知らないけれど。


 さて龍人族に戻るが、龍人族自体は人間にもエルフにも興味がなかった。


 だがその前のドラゴンは人間の狩りの獲物になっていたり、その体が高値で交渉されていたりと人間にあまりよくない印象をもっていたので協力してくれることになったのだ。


 どうやら彼らの間では「人間にやられる奴はそいつが悪い」みたいな風潮が漂っていたらしいが、対談の中でその考えをシズクが変えてくれたみたいだし、アイナが昔ドラグを助けてそこから今の関係があるということがドラグから龍人族の長に伝わりそれが決め手になったとか。


 こうして今迄関わり合いのなかったエルフと龍人族が手を取り合ったのであった。それもこれもシズクやアイナのおかげと言えよう。


 次には獣人族だったが、これがうまくいったのはダニングのおかげだった。


 獣人族はどちらかというと魔物に手を焼いており獣人族と魔物との戦いに手を貸す代わりに私たちと人間の戦いに手を貸してくれるという形になったのだ。

 もともと私たちも魔物を討伐する必要があったためこちらに利しかない取引だったが、それをもぎ取ったのがダニングの料理だった。


 生で食べる習慣しかなかった彼らにとって焼いたり煮たりすることは物珍しく、獣人族の長がたいそうダニングを気に入ってくれて頻繁に獣人族に料理をふるまうという条件付きでこの取引が成立したのだ。


 こうなるとダニングの負担が大きくなることが不安点として残ったが、

「言っただろう俺には料理しかないって。それが役に立つんなら本望だ」

 と言ってくれたため彼に任せることにした。


 この二つの種族と手を結んでもなお、私がまだハイホルン王国での目的が終わっていなかったので勢い余った二人は遥か遠い鉱山まで言って土木作業に優れたドワーフ族や、かつて人間に殲滅されてもはや絶滅したといわれていた巨人族のわずかな生き残りなど他の種族とも協力関係を結んで戦力を強固なものにしたのであった。


 アイナとルリはこの間もひたすら己を磨き上げ続け、時には魔物を討伐しに行ったりご主人様の小屋を荒らしに来た魔物を殲滅したりとどこまでもその力をつけていった。



 ********



 こうしてご主人様がなくなってからおよそ40年が過ぎたある日。

 いくつもの種族と協力関係を結び終え、ルリが人間でいう15歳ほどになったころだ。

 この日をもって私は王国内のすべての奴隷商会を手中に収め終わった。


 遂に私たちは計画を最終フェイズに移した。


 まずはシズクと共同で開発していた最上級の結界魔法をかつての人間の国とエルフの国、そして魔物の住処に張り巡らせ国境を無理やり引いた。


 その後中の人間を殺すまでは行かずとも瀕死状態までして人間の国に帰し、中にいた魔物はルリやアイナ、バン、シズク、そしてドラゴンや獣人の手によって殲滅して元エルフの国を奪還した。


 ある程度落ち着いたら次にドワーフ族の力を借りて中に城のようなものをつくったり、他の種族を転移してもらったりして着実に戦力をまとめていき私が長年買い込んだ武器や魔法薬、食料などをすべてここに運び込んだ。


 もちろん私が所有している工場の武器や魔法具・魔法薬の在庫は余すことなくだ。


 まだ私はハイホルン王国でやることがあったため、国境の向こうの事は全てバンやアイナに任せて私は残ったが突然巨大な結界魔法が引かれたとき王都の人間の驚きはすごいものであった。


 未知の敵が襲来したと。


 そこで考えてもみてほしい。

 こうなったら人間がやることはなにか。


 そう。新たな敵、新たな戦争に備えることだ。

 当たり前だ。目の前で強大な何かが戦闘準備をしているのだから。

 だがそんな人間たちにとって一つ、不測の事態があった。



 王国の武器や魔法具、回復薬やその材料となるもの。

 その心臓を担う者も人間の敵だったのだ。

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