第四話
この青年が一体何者なのか、ロイにはわからない。だが、今この状況で彼の手を振り払い、共に逃げずに捕まる選択をすることなど、一体誰にできるだろう。狂いだした人生の歯車を止めることができないのなら、回り続けるより他に道はない。そう、全ての悲劇は、あの日から始まったのだ。
「おい、今日スワン座で靴屋の祭日やるってよ」
「あれ面白いんだろ?せっかくだから見に行こうぜ!」
朝から晩まで働きづめの徒弟達にとって、祝日は外出を許され仕事から解放される唯一の時。特に今日はイエスの復活を祝うイースターのため、人々の心も自然と浮き足立つ。
「なんだか楽しそうですね、ロイさん、一緒に行ってみませんか?」
「あ、俺は…」
最近入ってきたばかりの少年徒弟アデルがロイに声をかけると、側にいた古参のトムが、聞こえよがしに耳打ちする。
「こんな堅物誘っても無駄無駄。遊び心ってもんが全然ねえんだから。それにこいつの家は…」
「おいトム、余計なこと言ってないでお前もちょっとはロイを見習え。そのうちロイの方が先に職人になっちまうぞ!」
あからさまにロイを揶揄しているところを、この靴屋の親方であるジョージに説教され、トムは不貞腐れたように返事をする。
「へいへい、わかりましたよ」
「なんだその態度は?そうかお前は小遣いいらないんだな?」
「申し訳ございません!親方様!」
トムが慌てて謝り、慇懃な仕草で手を差し出すと、ジョージはため息を吐きながらも、少ない小遣いを渡してやる。
「全く、調子のいいやつらだぜ」
小遣いを貰った途端、我先にと出て行く弟子達を見送りながら、ジョージは、皆と羽目を外しに行こうとしないロイに目を向けた。
金色の髪に、透き通るような白い肌と切れ長の碧い瞳を持つこの少年は、確かに年齢にそぐわない、大人びた雰囲気を纏っている。
「今日は家族でお祝いするのか?」
「はい、母と妹が待ってくれているので」
「そうか、お前の母さん、昔から料理上手かったもんな。ソフィも大きくなっただろう。まあ、お前もゆっくり楽しんでこい」
「はい、ありがとうございます」
ジョージに深く頭を下げ、ロイは、歓喜で賑わう町へと出て行った。
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