第71話 ロジャータ
テラスで彼に寄り添い微睡むキャサリンの携帯電話が鳴った。
「ハロー、あぁ、大統領、はい、はい・・・そうですか・・・大統領、秘密と申し上げたはずです、私は人選を間違えたのかも知れませんね・・・はい・・・はい、失礼致します」
「大統領の奥様ですか」
「そうです、でも納得してくれました」
「大統領には任期があります、ですが現職の国家元首は守らなければ成らない、任期満了後も元大統領として影響力を有します、ですが、夫人からは影響力が極端に失われます」
「貴方の人選の基準は重要な現職である事、秘密を守れる意思の強い人、退職後も影響力のある人、ですね」
「・・・そして愛する人です」
「・・・ありがとう、貴方」
「副大統領と国務大臣の保養を早めた方が良さそうです」
「どうして???」
「大統領と主席補佐官を見れば欲求が強くなります、それは二人の心にも四人の信頼にも良い事ではありません」
「アダムと二人の予定を調べて日程を組みます」
「お任せします、二つの学会に変化が有れば予定も狂いますがね」
「学会に変化がありそうなのですか、アダム、どうなの???」
<物理・天文学会は相変わらず古い理論に縛られている人が多いです、ですが、少しずつ減って来ています、考古学学会は新たな遺跡発掘に忙しく招集は無いでしょう>
「今が最適な時期だわね、大統領との引継ぎが終り次第始める事にしましょう、四人にはその様に伝えて下さい、アダム、声は私のを使って下さい」
<了解です>
二人が目を瞑って微睡んでいるとアダムが申し訳なさそうに話かけた。
<申し訳ありません、副大統領と国務長官との仮予定が決まりましたので確認させて下さい、お二人の了解が頂けたら本決まりです、二人の希望は早く、早くで遅くとも明日には引継ぎが終りますので明後日と言っています、宜しいでしょうか>
<私には何も問題は無いけど貴方は>
<貴方が良ければ私に否はありません>
<アダム、仮予定から仮を消して下さい >
<はい、承知しました・・・本決まりです>
<明後日ね、時間は>
<10時に二人が飛行機でこちらに参ります>
<了解、ありがとう、アダム>
「貴方、明日は何をしましょうか」
「君は何がしたいですか」
「そうね~、無重力で小作りってどうかしら」
「大胆なご意見ですね、奥様」
「あら、そうかしら、私は子供大好きよ」
「本心だったのですか、では、明日は無重力の訓練をしましょう」
「はい、でも、子供が出来ても良いの~」
「はい、是非」
「はい、頑張ります」
「仕事は大丈夫ですか」
「仕事よりも私生活が大事です」
「貴方は素晴らしい方ですね、でも、出来るだけ仕事は続けた方が良いでしょう」
「何故、FBIだから???」
「別の人が相棒では困ります」
「あぁ~、そうですね、私は妻として一緒にいるのでは無いのですものね、通訳と護衛ですね・・・私が産休に入ったら通訳と護衛はどうなるのかしら」
「さて、私一人でも良いでしょう、ヘレンお母さんにお願いしますかね」
テラスにヨウコが来て昼食の用意が出来たと言った。
「旦那様、デザートは届いた物で宜しいですか」
「お願いします」
「何、何、何なの、貴方」
「お楽しみに」
「また、何か変わった美味しい物なのね、期待しちゃうわ~、夜にお父さんとお兄ちゃんと一緒の方が良いのじゃ無いの」
「大丈夫です、二人の分もあります」
食堂に向かいながらの話だった。
「婿殿、家の料理はとても美味しいのだけれど・・・ね~」
と小さな声でヘレンが彼に言った。
お昼はヘレンとキャサリンが大好きなお好み焼きだった。
「ヨウコ、ありがとう、食べたいと思っていたのよ」
「お母さん、何か言ったわよね~」
「あら、私、何か言ったかしら」
「全く、上院議員は図太く無いと出来ないのかしらね」
横でカリーがくすくすと笑っていた。
「何、カリー、何が可笑しいの」
「だって、親子で最近見た日本の漫才見たいですもの」
カリーもこの家に住み込んで日にちが経つに連れて家族に溶け込みヘレンを上院議員では無く母親の様に扱う様になっていた。
「あら、カリー、漫才が解る程、日本語が解る様になったの」
「いいえ、まだまだです、漫才は関西弁が多いので難しいですね」
「そうよね、関西弁は面白いわよね、でも、他に九州弁もあるのよ、沖縄の言葉になると私も解らないわ」
「お母さん、沖縄は極端よ、東京に住んでいる日本人でも無理よ」
「そうね、無理ね~」
「このお好み焼きって美味しいですね、ヘレンの好物ですか」
「ええ、大好きよ、家族全員が大好きよね、キャシー」
「ええ、私も大好きよ」
皆が美味しく食べたがヘレンは物足りなさそうにしていた。
「お母さん、もう一つ作って貰って、皆で分けましょうか」
「その手が有ったわね、ヨウコ、もう一つお願い」
何とヨウコに声を掛けた途端にヨウコがお皿を持って現れた。
「まぁ、ヨウコ、どうして解ったの」
「進み具合で作りました」
「もし、追加の依頼が無かったら自分達で食べるつもりだったのね」
「はい」
「嬉しいわ、頂きます、ヨウコ」
真ん中に四つに切られたお好み焼きのお皿を置くとヨウコが台所へ消えた。
ヘレンが真っ先に手を出し一切れを自分のお皿に移した。
キャサリンが彼のお皿に一切れを移し自分の分も移し、最後にカリーが移した。
ヘレンがペロリと真っ先に平らげた。
キャサリンとカリーもゆっくりと平らげた、が、彼は手を付けなかった。
「どうしたの、貴方」
「キャサリン、お母さんが足りない様です、私の分を差し上げて下さい」
「えぇ~、食べて良いの、本当に~」
「どうぞ」
「キャシー、お前は本当に良い婿さんを貰ったよ」
「お母さん、大げさね、お好み焼きの一切れくらいで~」
「何言ってるの、食べ物を譲るなんて私には信じられない事よ」
と言いながら貰った一切れもヘレンはペロリと平らげた。
「まぁ、今日はこれ位で勘弁して上げるわ」
「お母さん、実はね、デザートに彼の初めての物が出るのよ、大丈夫???」
「大丈夫よ、デザートは別腹よ、別腹~」
ヨウコがテーブルのお皿を片付けに現れ、テーブルが飲み物だけになった。
ヨウコが持って来た、ポットから珈琲を継ぎ足すと台所に戻り、直ぐにデザートを持って戻って来た。
ヘレンが期待にわくわくとした表情で何かと目が追っていた。
「ヨウコ、これって何???」
「私には解りません、彼に尋ねて下さい」
皆の視線が彼に集まった。
「クロアチアのスウィーツでロジャータと言います、カスタード・プリンにバラのリキュールが掛かっています」
「いっただきま~す」
ヘレンが真っ先にフォークで切り取り口に入れた。
キャサリンとカリーに見詰められながら噛み締めていた。
「キャシー、やっぱりアンタ、良い婿さんを見つけたわ、誉めて上げる、手放すんじゃないよ、あぁ、でも、お前が手放すと妹が喜ぶわね」
「何を馬鹿な事言ってるの、味を言いなさいよ、お母さん」
「美味しいに決まっているでしょう、少し固い処が良いわね、婿殿、此れって現地では幾らなの」
「為替にも寄りますが700円位ですね」
「まぁ、まぁね、良い味と値段だわ」
その間にキャサリンとカリーも一口食べた。
「お母さん、めちゃくちゃ美味しいじゃ無いの」
「本当にヘレンお母さん、とても美味しいです」
「しかし、婿殿は美味しい物を良く御存じね」
「そうよね、次が楽しみだわ・・・って圧力はいけない事よね」
「お前の婿殿は他人の言葉に影響など受けないわよ」
「まぁ~、そうでしょうけど礼儀は大事でしょ」
「しかし、美味しいわね、きっと婿殿の事だからお父さんとお兄さんの分もあるわよね~」
「其れを食べ様と言うのぉ~」
「あら、いけないかしら、減る物でも・・・あぁ減るか」
「カリー、上院議員て我が儘でしょ」
「我が儘と言うか押しが強く無ければ勤まらないのですね」
「あら、実の娘よりも養女の方が理解しているわね」
「私は養女ですか、嬉しいです、ヘレンお母さん、籍は替えなくても良いですからお母さんと呼ばせて下さい」
「あら、貴方はもう娘の様な者よ」
「ありがとう御座います、アメリカのお母さん」
「カリー、貴方のお母さんのお歳は幾つなの」
「私は母が学生の時の子供なので母は45才です」
「貴方は確か27才よね、本当に若いお母さんね、お父さんは???」
「学生結婚だったそうで一つ上の46才です」
「本当に若いのね、お仕事を聞いても良いかしら」
「母は天文学、父は物理学を大学で教えています」
「素晴らしいご家族ね、一人っ子なの」
「妹がいます、姉から見ても美人です、本人も解っていて生意気なんです、我が儘なんです」
「あら、貴方、美人なのに貴方よりも綺麗なの、妹さんは」
「ありがとう、御座います、はい、妹は綺麗です」
「そうなの、女の私が言うのも可笑しいけど女が外見で勝負出来るのは若い内だけよ」
「私も母も言っているのですが・・・」
「この世で一番な訳は無いのでその内解るでしょう」
「はい、キャサリンに会えば落ち込むでしょうね、楽しみです」
「えぇ~、私は美人じゃ無いわよ」
「妹からその言葉を聞きたいです」
「そうね、あぁ、婿殿、美味しいデザートありがとう」
「ありがとう、御座いました」
「いいえ、喜んで頂けて良かった」
「あら、婿殿がしゃべったわ」
「あぁ、お母さん、明後日、朝10時から副大統領と国務長官の訓練よ」
「えぇ、これは楽しみな」
「食事、訓練、お母さんは何が楽しみなの」
彼とキャサリンが席を立ち定席のテラスへ向かった。
直ぐにヨウコが飲み物をテラスへ運んで行った。
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