第28話 夕食
18時55分と約束の5分前にドアの前に人が来た事を知られる音が聞こえた。
画面を見るまでも無く彼以外には居ない。
ヘレンが頭の中でアダムにOKを出すと彼が入って来て言った。
「何件登録出来ましたか」
「二人ともまだ30前後ね」
「著作権て結構厳しいのね」
「そうですね、でもパターンが有りますので探して見て下さい。お母さんの職務から言えば仕事用に60着は必要です、下院議員なら30着で良いでしょうが、約一カ月の使い回しで良いでしょうが貴方は上院議員ですから二カ月の使い回しが妥当でしょう、三カ月つまり90着では贅沢と思われ30ではケチと思われるのでは無いでしょうか、確か下院議員の年報酬は一億、上院で二億でしたかね」
「う~ん、成程、今、自宅も含め仕事用は100を超えているけど使うのはそんな処ね、確かに」
「良く年俸なんて知っているのね・・・あ、アダムか、そうね」
「そうです、でも今では在りません」
「そうね、今なら確かなんて言葉は使わないわね、貴方は」
「アダムはとても便利で素晴らしい、私の仕事で使っても良いのかしら」
「どうぞ、但し限度を弁えて下さい、上院議員と言えども他人のプライバシーに触れる事、国家機密などは聞いても答えてはくれませんよ、但し、個人の信用について、例えば外国のスパイであるとかは教えてくれます、証拠も提示してくれます」
「ひょっとしてアダムには国家機密法なんて関係無いのじゃないの」
「さぁ~どうでしょう」
「・・・それが答えね」
「お母さん、アダムは最高機密も知っていると言う事なの」
「らしいわね・・・でも貴方の事となると極端に、お答え出来ません、と返ってくるわ」
「基本的にキャサリンには完全に秘密は在りません・・・がお知らせする時期はあります、残念ですが、お母さんには秘密を残します」
「まぁ~狡いわ、どうして娘が良くて私は駄目なの~」
「妻では無いからです」
「やった~、やった~」
「ぶ~」
「さて、夕食にしましょう、今晩はルーマニア料理にしたいと思いますが、経験はありますか」
「まだ無いわ・・・と言うか最近は日本料理しか興味が無いのよ、日本料理は奥深いもの」
「お褒め戴きありがとう御座います、確かに日本料理は奥深く繊細です、ルーマニア料理と言いましたが日本風にアレンジしてあります、実際私が通った銀座にあったお店でも日本人に合う様にしていました、今日の料理のメインはサルマーレと言いロール・キャベツとお考え下さい、ルーマニアの主食ママリガで小麦とトウモロコシの粉を煮た物、ハッシユ・ポテトとホウレンソウの煮物を添えてあります、日本食好みのお二人様に魚沼産コシヒカリの御飯も用意してあります、パンも用意してあります、今回ルーマニア料理をお勧めする理由はデザートのパパナシです楽しみにしていて下さい、最初は野菜スープですがまずは飲み物です」
テーブルの中央が上がり今度はワイン・ボトルとワイン・グラスが現れた。
「ルーマニアはワイン発祥の地の近くですからワインにしました、今日はカベルネソービニオンです、勿論、ルーマニア産です」
彼はコルク抜きを持つと一部を横に出すと何度か上下に動かしボトルの先端に被せた。
直ぐに小さく「ポン」と音がし彼がコルク抜きを持つとコルクが抜けていた。
因みにそのコルク抜きは針を内部の圧力を増し針の先端が開いて引き抜く物で最初に彼が上下に動かしたのは内部へ送る空気を圧縮していたのである。
抜いたコルクをヘレンの方へ差し出した。
ヘレンがコルクを受け取ると鼻に近づけて臭いを嗅いだ、そしてキャサリンに渡した。
私はワインも含めてアルコールは好きだけど知識は無いのよ、でもキャシーはソムリエだから何か一言あるんじゃないの」
「お母さん、これはカベルネだと言う事位は判るでしょ・・・確かにルーマニア産の様ね、家にあるフランス、イタリア、日本の物とは少し違うわ・・・後は味ね」
「処でワイン発祥の地って解っているの」
「アダムに尋ねてみては???」
「・・・」
ヘレンとキャサリンが何かに聞き入る様な表情になった。
「へぇ~8000年も前の遺跡がジョージアから・・・」
彼がグラスにワインを少し注いでヘレンに渡した。
「私に試飲をしろ、と言うのね」
ヘレンはグラスを受け取ると2,3回グラスを回し鼻先に持って行き臭いを確かめ、次いでグラスに口を着け少し口に含み暫くして飲み込んだ。
「良いわ、良いカベルネだわ」
彼はその言葉を聞いて三つのグラスにワインを適量注いだ。
「本当・・・良い味・・・このカベルネは好きな味だわ、時々カベルネでも私には酸っぱ味が強すぎる物があるのよね~でもこれは良いわ」
「婿殿、このワインの在庫はこれ一本と言う事は無いわよねぇ」
「大丈夫ですよ、お二人で毎日ボトルを空けても一週間以上は飲めますから」
「・・・14本以上のストックがあるのね、良し、飲むよ~娘~」
「呆れた、何しに来ているか忘れないでよ、お母さん」
「冗談に決まっているでしょう」
「本当かなぁ~」
娘は母を疑わしい目で見つめた。
「さて、食事にしましょう、最初はスープです」
彼がそう言うと中央部が上がり少し大きめの器が三つとスプーンと箸が三つづつ現れた。
「これは中華料理の器でスープで使われます今日は野菜スープです、私好みに黒胡椒を効かせてあります、気に入って頂けると良いのですが」
三人がそれぞれにカップとスプーンを取った。
ヘレンは昼食の時に気づいていたが今度もスプーンはプラスチックでも木でも無い材質の入れ物に入って居た、再生可能なのだろうと予想していた。
「頂きます」
「頂きます」
「頂きます」
ヘレンがスプーンでスープを飲んだ・・・。
「美味しいわ、そう・・・胡椒が黒胡椒が良いわね」
「私にも丁度良い味だわ」
キャサリンも黒胡椒が気に入った様だった。
三人がスープを食べ終えるとターブルの中央が上がり三人が食器類を乗せると下がり少し経って又上がって来たが、今度は前よりも広くテーブルの中央が上がり少し大きめの平皿三つと御飯の入った茶碗三つとパンとバターとジャムの入ったバスケット一つとナイフ、フォーク、バター・ナイフ、箸などの用具類が縦長の小さなバスケットに入って三セット出て来た。
「メインのサルマーレと主食のママリガにマッシュド・ポテト、ほうれん草の胡麻和え、人参炒めで、ポテトとほうれん草と人参は私の好みです、お二人のお口に合えば良いのですが」
三人はそれぞれに皿と茶碗と用具入りバスケットを取りパンの入ったバスケットは中央に置かれた。
母と娘は最初にポテトとほうれん草と人参に手を付けた。
二人は食事の最初に野菜をゆっくり食べる事が肥満を防止する・・・と知っていた。
「お二人は肥満抑制の方法をご存知の様ですね・・・でも最初に野菜スープを食べた事をお忘れですか」
「あぁ~、そうだわ」
「貴方も知っているのね・・・狡い」
「狡い・・・ですか」
「意地悪です」
「ありがとう、誉め言葉と取らせて頂きます、お味は如何ですか」
「美味しいわ、非常に美味しいわ・・・どう、お母さん」
「えぇ、悔しい位に美味しいわ」
「何がそんなに悔しいの、美味しいのでしょう」
「お前、解らないの・・・御飯のお米は魚沼産よ・・・と成れば、この人参、ほうれん草も選び抜かれた産地の物に違い無いわ、和牛にしても只の和牛じゃ無いはずよ・・・やっぱりねアダムが等級5だって言ってるわ・・・人参は・・・ほうれん草は・・・言えないってどうして、今は言えないってどう言う事・・・あぁ先程の時期が来たら教えて貰える項目なのね・・・ふ~ん」
「良いじゃないの美味しい物に文句は無いでしょ」
「まぁね・・・しかし美味しいわね~・・・でも困るわね~」
「美味しくて何が困るの~」
「決まっているじゃ無い、太るでしょ」
「あぁ、まだ言って無かったわ、このスーツで普通以上の力が出ると言う事は普通以上のエネルギーを消費すると言う事なのよ、だからスーツを着て動き回った後は一杯食べるのよ」
「へぇ~、本当に便利と言うか凄いスーツなのねぇ~」
ヘレンの食べ方がそれまでの躊躇いのあるものから一転して元気良くもりもりとに変わった。
三人でメインの皿の物は勿論、御飯とパンも全て食べ尽くした。
「さて、いよいよ貴方がお勧めのデザートね」
「その前に飲み物を選んで下さい、緑茶で宜しいですか」
「貴方は何???」
「私はカフェオレです」
「珈琲か~、私はやっぱり緑茶にするわ、キャシーは???」
「私は・・・久しぶりに珈琲にしてみようかしら、でもブラックね」
その途端に中央から三品の飲み物が現れた。
三人はそれぞれの飲み物を取り、食べ終わった皿などを中央に戻した。
皿などが下に消えた後再度上がって来て三つのデザートが現れた。
「あら、ドーナツにクリームとジャムと言う感じなだけだけど」
ヘレンが少し期待外れながっかりとした感想を述べた。
それでも手元に引き寄せフォークで一口食べると眼を丸く見開くとパクパクと食べ続けそれこそ「あっ」と言う間に食べ終えてしまった。
「まぁ~呆れた~凄い食べ方ね」
キャシーが母の食べ方を批判したがキャシーも一口食べると同様な食べ方で食べ終えた。
彼はその様子を嬉しそうに眺めながら一口づつゆっくりと食べていた。
そんな彼を二人は恨めしそうに眺めていた。
「気に入っていただけた様ですね・・・もう一ついかがですか」
「えぇ~二つ目を追加して良いの~」
「どうぞ」
母娘の二人は慌てて食べ終わった皿を中央に戻した。
一旦下がったテーブルが直ぐに上がり二つのパパナシが現れた。
テーブルが上がり始めると二人は覗き込み上がり切ったと同時に皿を引き寄せ一口食べた。
「美味しいわ」
「こんなに美味しいものを此れまで知らずに居た何て・・・お前の旦那様は狡いねぇ~」
「何いってるの~この人が居なければ今も知らないのよ」
「成程、そうね・・・お前は議員に向いているかもね」
二人はしゃべりながらも一口一口を味わいながら堪能していた。
そんな二人を幸せそうな顔で見つめながら彼は一つ目のパパナシを味わっていた。
「婿殿、ありがとう、お昼のサヴァランと言い今のパパナシと言い大満足の美味しさだったわ」
「ありがとう、貴方、旦那様、美味しかったわ、まだ食べたいけれど一期に食べちゃうと飽きるかも知れない、だから我慢して時々にするわ」
「お前、凄いねぇ~でも我慢しても死んじゃうかも知れないよ、生きている内に食べた方が良いと思うけど」
「お母さんは好物を先に食べるタイプでキャサリンは好物を最後に食べるタイプですね」
「その通り~~お前の婿さんは凄いね」
「えへん、良い人を探したでしょ」
「お言葉ですが貴方を選んだのは僕です」
「そうだけど、受けた私も偉い・・・と思うげなぁ~」
「そうね、何が気に入ったの、悪いけど正直若くは無いしハンサムでも無いし背丈はキャシーよりも低いし、お金持ちって言うのは後から知った事でしょ、不思議な機械を持っているのも後の事だし・・・何が」
「さぁ~あれが一目惚れって言うのかしら、初めて目が合った時に私はこの人の奥さんになるのだ、思ったのよ・・・不思議だわ」
「一目惚れって、この世にあるのね~」
「では、私はまだ仕事が在りますので、これで失礼します、お二人もまだまだ服の登録が必要でしょう、但し明日も訓練をして頂きたいので程々にして下さい、お休みなさい」
彼が部屋を後にした。
「お前の婿さんは素晴らしいけど変わっているね~、私は仕事柄いろいろな人に会ったけれど・・・初めてのタイプだわね、全くの新タイプ、近い人も思い付かないわね」
「私もそう思うわ、FBIなんて普通の世間とは違う人が多いけど旦那に比べれば普通の人だわ」
「良い意味だからね」
「私だって勿論良い意味よ、不思議な人だわ」
「そうだね、あの人の特徴と魅力の一番は不思議と言う事かしら」
「さぁ~そんな事より服を登録しなくっちゃ、じゃね~お休み」
「一緒に選ばないのかい」
「まだまだ量が足りないわ、そうね~50いいえ80を超えたら見せ合いましょ」
「80かまだまだね」
「と言う事で、お休みなさい」
キャサリンが自室へ戻って行った。
その夜、二人は日が変わってからの睡眠となった。
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