なんか、姉ちゃんはコーラが買えない

「うわっ、姉ちゃんだ」


学校からの帰り道、思わず足が止まった。

姉ちゃんがいたからだ。

いや、別にいるのはいいんだけど。同じ学校から同じ道で帰るわけだし、偶然出くわすこともあるだろうけれど………何やってるんだ、あれ?


学校帰りの姉ちゃんは、歩くでもなく、本を読むわけでもなく、スマートフォンをいじるわけでもなく、ただただ道端に立っていた。

ボーッとしてるわけでもないんだよなー。何を見てるんだろう。


「……………」

あ、動いた。

眺めていると姉ちゃんは何かを見極めたかのように突如猛然と歩き出し、

「……………」

あ、帰ってきた。

すぐに踵を返して戻ってきた。

そして、泣きそうな顔で道に立つ。

「……………」

かと思うと、また決意したように歩き出し、

「……………」

またくるりとターンして、複雑な表情で定位置に戻って来た。


……怪しいんですけど。

何やってんの。できれば奇行は家の中だけに止めておいて欲しいんだけどな。

見る限り、姉ちゃんは自販機に用があるようだ。さっきからずっとジュースの自販機の前まで歩いては帰ってくるを繰り返しているから間違いないだろう。


「…………」

ただ、何の用があるのかがわからない。

商品を買う様子もなくただ自販機まで歩いては引き返してくる。それを延々繰り返すだけ………マジで何をやってんだよ、姉ちゃん。


「マジで何やってんの、姉ちゃん?」

「うわあっ、ビックリしたあ!」

わからないので声に出して尋ねたら、姉ちゃんが死ぬほど驚いて振り返った。

「なんだ、お前か。何やってんだよ、こんな所で」

絶対に僕のセリフのだからな、それは。

「姉ちゃんこそ何やってるん?さっきからずっとウロウロして」

「見てたの? まあ、ちょうどいいや。コーラ買って来て」

そう言うと、姉ちゃんは小銭を突き出した。


「……え、コーラが欲しかったの?」

「うん」

「……何で?」

「飲みたいから」

「……………」

「ほら、お前の分も買っていいからさ。買ってきてよ」

「……………」

「……何?ダメなん、コーラ飲んだら?」

いや、いいけどさ、全然。

え、コーラが欲しくてウロウロしてたってこと?さっきからずっと?

「買ったらよかったじゃん……自販機で」

「うん、だからお前が買ってきてよ」

「……買い方がわかんないってこと?」

「そんわけあるか!お金入れてボタン押したらおしまいでしょ!」

「うん……そうだよね」

そのチャンスが姉ちゃんには何回もあったはずなんだけど………何で買わなかったの?

「うるさいなあ、もう……」

姉ちゃんはイライラしたように唇を尖らせると、


「………恥ずかしいから、買いたくない」


眉間に皺を寄せられるだけ寄せて、そう言った。

「……え?恥ずかしい?」

「うん」

「……コーラが?」

「コーラじゃない。自販機で買うのが、恥ずかしい」

「……何で?」

「何か、道行く人に『あ、あの人自販機でコーラ買うんだー』って見られるのが………恥ずかしい」

「……へー」


自意識どうなってんだっっ!

嘘だろ?恥ずかしい?自販機が?

どういうことだよ。店員に話しかけるのが恥ずかしいって話ならまだわかるけど……自販機?機械ですらダメなんか?

陰キャ極め過ぎだろう。どうやって生きていく気だよ、この先。

考えれば考えるほど言いたいことがわき上がってくるけれど、


「……わかった。買ってくるわ」

言ってしまうと。姉ちゃんが泣き出しそうな気がしたので、黙ってコーラを買いに行った。

「はい、コーラ」

「おう、ありがとありがと」

姉ちゃんにお礼を言われたのは何年ぶりだろう。言いたいことは、まだ歯の裏側に蟠っているけれど、姉ちゃんが笑ってるし………まあいいや。


うちの姉ちゃんはやっぱり、変だと思う












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