なんか、姉ちゃんが似顔絵描く
「はい、母さんできた」
「あははははははははは! めっちゃ似てる!」
姉ちゃんは絵がうまい。
休みの日の午後、いつものように暇を持て余した姉ちゃんは、手近にあった町内だよりの余白にさらさらと鉛筆を走らせて母さんの似顔絵を描いた。
似てるし。写実的というよりは漫画的、その分特徴がデフォルメされていて面白い。やるな、姉ちゃん。
「紙かして、次は父さん」
腹を抱えて笑う僕に気をよくしたのか、姉ちゃんは紙を奪うとまたさらさらと鉛筆を走らせた。
「はい、父さん」
「あはははははははは!」
これも似てる。父さんが見たこともない表情でボーっと母さんの横に突っ立っている。なんだ、この顔。ウケる。
「よし、次はお前書いてやろう」
「あいよ」
紙を返して姿勢を正した。姉ちゃんが視線を下げた隙に素早く前髪を直し、顎を引く。
「はい、できた」
姉ちゃんは、そんな僕を一度も見ることなくあっという間に書き上げた。
「へー」
普段鏡で見る姿とは大分違う。なんとうか………生意気で活発そうだ。
「僕こんなんなん?」
「そんなんだよ」
「……鼻デカくない?」
「原寸大だよ」
絶対に原寸大ではないはずだ。余白だし、ここ。
「じゃあ、最後に姉ちゃん自分書いてよ」
「……わたし?」
「うん」
戸惑う姉ちゃんに紙を返した。姉ちゃんは一応受け取りはしたものの、
「………んー」
鉛筆は動かない。そして、しばし悩んだ後。
「できた……けど。あんまり似てない……」
姉ちゃんはおずおずと紙を寄越した。
「ほうほう……」
確かに、あまり似ていない。とゆーか、全然似ていない。
姉ちゃんの鼻はこんなに丸くないし、顎もこんなに丸くない。
全体的にぼやんとしていて、似顔絵としての切れ味がない。
……あと、頭にパイナップルが乗っている。
イラストの姉ちゃんの頭に、イラストのパイナップルが乗っている。
「やっぱり自分描くのって難しいわ」
「へー、そうなのか……」
………そんなことよりパイナップル乗ってるなあ。
「どう? 似てると思う?」
「いやー、どうだろう。こんなに鼻丸くなくない?」
………あとパイナップルも乗ってるし。
「鏡見たらもっと描けるかも。持ってきて」
「うん」
………てゆーか、パイナップル乗ってるんだよなー。
「うーん」
姉ちゃんはしばし真剣な表情で手鏡を覗き込むが、
「だめだ。これ以上には描けないわ」
やがて諦めて鉛筆を置いた。
「これでいいわ。これで完成!」
そうか、完成なのか。
姉ちゃんの目には自分がどのように映っているのだろう。
やっぱり姉ちゃんは、変だと思う。
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