なんか、姉ちゃんが防犯する


『泥棒がくるぞ』


部屋で漫画を読んでいたら姉ちゃんからLINEが届いた。

いかにも面倒くさそうな文面だ。

無視するわけにもいかないので一応居間に降りてみる………。


「……来んの?」

「来る!」

……来んのかー。

「おい、なんだよ、その感じ。ホントに来るからな! 見たもん、わたし!さっきそこですっごい怪しいオッサン」

「怪しいオッサン?」

 珍しくソファから下りた姉ちゃんが必死に窓を指さす。


「あそこ! あそこの道の所! 白髪の初老くらいのおっさんがあそこの道にいたの!」

「……はあ」

「で、そこからウチに向かって何回も『加藤さーん、加藤さーん』って呼んでたんだぞ!」

「うん」

「……怪しくない?」

「え、もう? どこが?」

「ウチ加藤さんじゃないじゃん!」

 そうだけどさ。間違えることだってあるだろうよ。


「表札あるのに? インターホンも押さずに呼び続けるか? あれは絶対泥棒が下見に来たんだと思う」

よくそんなとこまで発想が飛ぶな、姉ちゃん。

「どうしよう、入ってくるとしたら多分今夜だし。父さんはいないからお前が……………無理か」

何かの審査に落ちたらしい。

何だよ、言えよ。やったんぞ、僕だって。


「やっぱりわたしがなんとかする。お前は上にいろ」

何のために呼ばれたんよ。

「ちなみにさ、何する気なん?」

「……罠を仕掛ける」

「やめてやめて、マジでやめて」

「いいから!お前は上に行けって、気が散る。必要になったらその時呼ぶから」

不安だわー。めっちゃ不安だわー。目ぇギラギラになってんじゃん。


一時間後、思ったより早くLINEが来た。

降りてみると食卓の椅子に姉ちゃんが座っている。目の前には一枚の画用紙。

「………泥棒の似顔絵描いてみた」

「お、おう。そうなんだ」

「よく似てるだろ?」

ちょっと初対面なんでわかんないな。まあ姉ちゃんが満足そうでなによりだ。


「よし、これを家に貼るぞ」

「え、家に? 警察に行くとかじゃなくて?」

「そんなことしてもしょうがないだろ。家に貼るのが一番効果的だから」

「ちょっと……わかんないわ、それ」

「なんでだよ。泥棒の気持ちになってみ?」

「泥棒の?」

「うん。夜になって家に忍び込むだろ? しめしめ、みんな寝静まってるなーってなるだろ?」

「うん」

「で、そろそろ仕事始めようかなーって、辺りを物色しようとして………自分の似顔絵あったらびっくりしない?」

 いつもいつもすごいこと考えるな、この人は。


「我ながら名案過ぎる。ダメ押しに一筆加えよう」

そう言うと、姉ちゃんは似顔絵の横に漫画のような吹き出しをつけた。

「はい、お前。なんてセリフをつける?」

「え、セリフ? えーっと……泥棒だーとか?」

「却下!センス0!」

……もう一人でやってくんないかなぁ。


姉ちゃんはペンの尻でコツコツと何回か食卓をつつくと、やがてくるりと先を返し、スラスラと吹き出しに文字を書き付けた。


『――やっぱり来たのう』


「これでいこう」

うん。いいよ、もう。これで。


そして、姉ちゃんは渋る母さんを押し切って、泥棒の似顔絵を玄関の正面壁に貼り付けた。

一ヶ月が過ぎてもまだ、似顔絵は剥がされない。

学校から帰る度、知らない人おっさんに「やっぱり来たのう」と出迎えられる。

自分ちなのに。

泥棒が入る気配は全くない。


うちの姉ちゃんはやっぱりちょっと変だと思う。

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