なんか、姉ちゃんがカレー作る


「邪魔邪魔!」


姉ちゃんは料理が好きだ。

母さんの帰りが遅い時などは、姉ちゃんが隆々たる気合を立ち昇らせてキッチンに立つ。そんな時にうっかり冷蔵庫なんかを漁っていると、

「どけえ!」

普通にパンチが飛んでくるから注意が必要だ。


「はい、できたぞ」

メニューはだいたいカレー。姉ちゃんカレーの特徴は、

「いっぱい食えよ」

第一に量が多い。

「辛いのあるから欲しかったらかけろ」

第二に全然辛くなく、

「今日の隠し味はなんだと思う?」

第三に市販のルーにプラスして、必ず隠し味が加えられる。


「んー、りんご?」

「正解! やるな」

「まあね」

「前の隠し味も当てたよね」

「醤油だっけ?」

「そうそう。ちなみにその前のカレーの隠し味はわかる?」

「バターでしょ」

「正解! その前の隠し味は?」

「あー、トマト?」

「ピンポーン! お前わたしカレー好き過ぎだろ。なんで毎回わかるんだよ」

 隠れてないからだよ。


 姉ちゃんの隠し味はいつもカレーより前にいる。料理のことはよくわからないけれど、多分隠し味って四連続で当てられていいものじゃないと思う。カレーをもってしても隠しきれない味って相当だぞ、姉ちゃん。

「もう食ったのか? お代わりいる?」  

 ……いるけどさ。


 そんな隠し味多めの姉ちゃんのカレーが、しかし、ある日劇的にうまくなった。

「うまい!」

思わずテーブルを叩くほどに。

「なに、これヤバっ。姉ちゃん、今日のカレーめちゃめちゃうまいよ。ぶっちぎりで一番うまい!」

「……そうか」

なにすかしてんだ、姉ちゃん。こんなに褒めてんだぞ、喜べよ。

本当は嬉しいくせに。少なくとも僕はめちゃくちゃ嬉しいぞ。姉ちゃんのカレーがうまいなんて。こんな奇跡があっていいのか?

「マジでうまいわ。姉ちゃん、今日の隠し味はいったい何入れたんよ?」

「……今日は何もいれてない」

 なるほど。そう来ましたか。

 何はともあれうまいぞ、姉ちゃん。


今日のカレーは三杯食べようと思う。


 


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