第124話 一応問いました。
こんにちは、勇者です。
おーおー、エメラダたちは随分とはっちゃけてますね。兵士たちの悲鳴よりもクロちゃんやエメラダの高笑いのほうがよく耳に響きます。
何気に怖いのは、エルヴィンが薄寒い笑顔を浮かべながら徒手空拳で敵を薙ぎ倒しているとこでしょうか。あの人、一応魔法士だよね? なんでうちのパーティーはオールマイティーな武闘派が多いの?
「どうかなさいましたかお兄様?」
「あ、いえなんでもありません」
クレムに声を掛けられハッとする。そうです、ここはもう戦場のど真ん中! 油断していればどんな猛者であれ簡単に命を落とす場所。気を引き締めなければ。
「⋯⋯とは言え、多いなぁ」
視線を前に向ければ、雄叫びを上げながら突っ込んでくる人、人、人。オークを皆殺しにしてしまった時にも思いましたが、やはり数は暴力なんだとひしひし感じますね。マジ怖い!!
「しかしどうしましょう、なるべく殺生は避けたいんですが⋯⋯。これだけ来られるとつい力が入って、騎士階級はともかく兵士さんの方はつい殺っちゃいそうです」
動きを見れば、騎乗している騎士たちはかなり腕が立ちそうなのに対し、やはり歩兵はそう強くもなさそうで軽いワンパンチだけでも危なそう。
え? これ地味に難易度高くない? すごい今更な話だけど!
「お兄様、お兄様! このクレム、お爺様から戦場での無駄に命を奪わぬよき戦い方を教わっておりますので!」
「ほう? でもそれ難しいんじゃあ⋯⋯」
アルダ王国が剣の三天、ザーツ様が仰るならばさぞ効率的かつ高等な技術を以った戦法なのでしょう。果たして自分に真似できるでしょうか。
「簡単です! まずこのように腕を目の前で交差させます」
「はい」
「位置について〜」
「はい」
「よーい、どんっ!!」
言うが早いか、顔の前で腕を交差させたクレムが(あれ絶対前が見えてませんよね)弦から放たれた矢のように敵陣真っ只中へと駆け抜けていきました。
「あっはははは! ほらほら! 避けなきゃ撥ねられちゃいますよぉ〜!」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
うん、まぁ、良いんじゃない? クレムに当たった兵士たちは思いっきり空を飛んで白目剥いてますが、『生きて』はいるようですし、何よりあの楽しげに駆ける暴れ馬を自分は止める自信がありません。
さて、もう一つの問題は、と⋯⋯。
「あの、アルダムスさん。さっきから鬱陶しいんですが、姿消してても凄いオーラが出てて丸わかりなんですが」
『青年! 青年! 青年!』
ドロンッと姿を表した我が守護霊(いまだに疑問)。ほぼ全裸で鉄の貞操帯だけを携えた筋肉達磨アルダムスさんは、フンフンと鼻息荒く筋肉をビクンビクンと波打たせて大興奮のご様子。
あ〜もう暑苦しい! わかってますよやりたいんですね戦いたいんですねわかりましたよ!
「言っときますけど、殺し厳禁。要手加減。十分経ったら一度戻ってきて情況報告すること。これを守れるならば行ってよしです!」
『さすがは我が主人よ! では行って参る! ふっはははは! いいぞ、いいぞぉ〜? 久々の戦場だ、血湧き肉踊り魂とナニが絶頂する! あぁ、貞操帯を外したい⋯⋯』
そう言いながら、鉄の貞操帯をもぞもぞとさせつつクレムと同じように腕を交差させて敵陣へと突っ込んで行きました。なぜ二人してその戦闘スタイルなのか。
目の前はそう、ここが地獄かというような光景でしょうか。
片や美少女と見紛うあどけない子供がカラカラ笑いながら大の大人を吹き飛ばしながら走り去り、片や魔物と見紛う(まぁ元魔王なんですが)怪異筋肉おばけが獣の如く雄叫びを上げながら有象無象を轢き散らしてていく。
あれは、どっちにやられたほうが戦後の心の傷は軽いんでしょうね⋯⋯。
「――――おっとと、阿保みたいに見てる場合じゃなかった」
思わず呆気に取られて見入っていたら、そこかしこから矢や魔法が飛んできます。うん、あれを見て残ったやつに接近戦は仕掛けたくないですよね⋯⋯。
「じゃあ自分は、コツコツ作ったオリジナルの精霊魔術を披露するとしますか」
既に精霊たちは充分に身の内に取り込み、魔力によって練り上げて準備万端。さぁ、大魔法使いとその他の人外どもに鍛え上げられた技をとくと見よ!
「まずは、
以前アルダムスさんとの戦いでも使用した自身の幻。それを軽く五十体ほど生成。それらをクレムたちと同じように敵陣に突っ込ませました。
それを見た兵士たちはまた轢かれるとばかりに堪らず逃げ出し、陣形がどんどん崩れていく。馬上で指揮をする騎士もその混乱に収拾がつかず、必死に怒鳴り散らしつつも焦りがモロに顔に出てますね。
「ほいでもって、お次は
両手の上には、黒い直径五センチほどの球が無数に浮かぶ。それを無造作に敵の密集するところへとジャンジャカ投げ込んでいきます。
地に落ちた球は、そこを中心にしてまるで真夜中のような暗闇へと変貌し、視界を奪う。隣に誰がいるのかもわからない状況に陥り、彼らは今とても混乱しているでしょう。
「ん〜でもって
また手のひらに現れた今度は半透明の球に向かって、自分は色んな言葉を吹き込んでいきます。
『敵はここだ!』 『後ろだ、後ろにいるぞ!』 『今だ槍を振れ!』
適当に色んなパターンの言葉を吹き込んでいき、またそれらの球を暗闇にぶち撒けます。す〜る〜と〜?
「ぎゃっ!? どこだ! 敵はどこだ!」
「おい今隣にいた、うわっ、違う俺は敵じゃない!?」
「やめろ、おいやめろぉ! 同士討ちにな、グハァッ」
以上、グレイくんの超お手柄な撹乱作戦でした。卑怯? なんとでも言うがいい。世の中戦わずして勝つくらいが丁度良いんですよ。
「貴様があの珍妙な魔法の使い手かぁ!!」
「あ、バレた」
フンフン鼻歌を歌いながら球を作っては投げてを繰り返して楽していると、やはりそれなりに腕の立つ者には効果が薄いのか、馬に乗る騎士に見つかり怒鳴り付けられました。
「この卑怯者め! 貴様、騎士の鎧を纏いながらなんたる戦い方っ、恥を知れ!」
え、騎士? ⋯⋯あぁ、そういえば付ける鎧がなかったので王宮で適当な鎧をお借りしてそのまま着ていたんでした。そりゃ間違えられますよね。
「いや鏡見て言おうねそれ?」
「なに!?」
「特に悪政も敷いていないこの国で謀反を起こし首都を強襲。これ以上ないくらいに恥知らずな戦い方じゃないですか」
ハンッ! と鼻で笑ってやると、騎士は怒りの相貌から急に無表情になり、そして
⋯⋯正直、焦った。馬上槍は自分の顔めがけ真っ直ぐ突き出され間一髪避けたものの頬に擦り、一筋の傷から血がツ、と流れ落ちる。
騎士の胸にある紋章をよく見れば、そこには白虎騎士団のトレードマークである団章。うん、やっぱり魔王を倒した騎士たちだけあって普通に強いぞこの人たち。
「貴様に何がわかる、我らの何が分かるというのだ!」
再び激昂する騎士が目にも止まらぬ速さで馬上槍を繰り出してきます。その武器、本来突撃用の武器ですよね!? よくそんな速さで振り回せるな!
「何にもわかんないですよ、話もしてないんですから! わかって欲しいならまず馬から降りろぉ!」
深く突き込まれた槍を掴み、グッと引っ張る。すると騎士はバランスを崩して落馬したが、すぐさま槍を捨て体勢を立て直し、腰に佩く剣を淀みなく抜き放ちます。
自分も剣を抜き、相対する。本来ならこういう対話の仕方はしたくない。けれどここはもう戦場、ならば――――。
「ぜあぁぁっ!!」
「ふっ!」
徹底して無駄の省いた動作から繰り出される横薙ぎ。速く、鋭く、驚くほど自然な流れで刃が流れる。
自分はそれを無造作にカチ上げ、隙のできた脇腹へと一閃する。
くぐもった声で呻き、騎士はその一撃で膝を突き剣を手放します。それでも震える手で手繰るように武器を持とうとするので、とどめの一撃をその広い背中に振り下ろしました。
ようやく動かなくなり、ふぅと無意識に息を零しまいます。鍛錬で戦い慣れたクレムやエメラダたちとは違った緊張感が今の一戦にはあった。
何よりその洗練された剣技は、多少強くなったと驕っていた自分を強く戒めてくれたようで、やる気出ないなぁと思っていたこの戦にも、学ぶべきことは多いと気付かされました。
「あ、念のため
「⋯⋯ぬ、ん」
一応見舞った攻撃の全ては剣の腹で打ち、致命傷にはなっていないとは思うけれど念のため。それと聞きたいこともありますし。
「ねぇ騎士さん、お聞きしたいんです」
「――――なんだ、情けをかけた上に尋問して侮辱するか」
傷を癒やされ、仰向けに倒れる騎士に向かって自分は問いを投げかけます。
「騎士さん。自分は騎士のあなたにではなく、ズルーガの国民であるあなたに聞きたい。この戦いは、本当に必要ですか?」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
騎士はしばらく何も答えない。しかし、
「例え不要な戦いでも、誰かに仕えればそれを強いられる。それが騎士だ」
「――――そうですか。ところでそういった今回のお話ってどなたに聞けば詳しく教えてくれます? あぁ、あのクソ辺境伯以外でお願いします」
そう言うと、騎士は渋い顔をしながらも案外素直に答えてくれました。
「お前がこの戦の是非を問いたいならば、一番の適役は我らが団長以外におるまい」
傷はなくとも痛みは残り震える身体を起こし、その騎士はまるで懇願するように自分と向き合いました。
「強き者よ、団長と戦え。そうすれば我らの真意も窺えよう。そして叶うなら――いや、よい。もう行ってくれ⋯⋯既に矛は交わってしまったのだ」
それきり、彼は倒れ込んでもう何も喋りませんでした。自分ももう聞きたいことはないと後にしようとし、ふと言わなければいけない事を思い出します。
「あなた、とてもお強いですね。その白虎騎士団の強さが誇りの下にあると、自分は信じたい。そう思いました」
それだけ伝えて、自分は荒れる戦場をぐるりと見回してある人を探す。件の白虎騎士団団長、ルーメス・トロント氏の元へ赴くために。
喧騒入り交じる戦場の中、「かたじけない⋯⋯」という言葉が小さく響き、それはすぐ雑音の中へと消えていった。
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