第107話 一応模擬戦しました。

 こんにちはぁ〜、ゆ〜しゃで〜すぅ。


 あぁ⋯⋯超やる気ない。

 なんで? なんでなの? 自分は別に戦う気もないのに結局やる羽目になるのはなんでなの?


 はい、そんなこんなでやってきたのは里の中でも最も広さのある中央広場。

 ドワーフたちを転移させてきたのもここですね。


 おあつらえ向きというか、広場の真ん中は色の違うレンガを組み合わせてモザイク模様の綺麗な円形が描かれていて、それがまるで闘技場のよう。


 昔ここで決闘とかしてましたかってくらいに模擬戦をするにはちょうど良い場所でした。


 騎士団の指示通り、里の人たちには模擬戦やるから見にきてね〜と代表者たちが触れ回ったようで結構な人集りができていました。


 だけどその光景に驚いているのはむしろ騎士たちのほう。

 人間、エルフ、ドワーフ。こんな他種族入り乱れるギャラリーが集まるとは夢にも思わなかったでしょう。


 特にドワーフを見た若い騎士の一人は、興奮気味に指差しては他の騎士に諌められていました。


(グレイ様、少しお話が)


 さてどう始めようかと考えていたら、横からエルヴィンが耳打ちしてきます。


(今回の戦い、決して快勝しないでください。しかしわざと負けてもいけません)


(え〜と、それはなんででしょう?)


(そのほうが今後の相手の動きを予想しやすくなります。適度に苦戦するふりをして、しかしこちらの実力もそれなりと思わせるのが一番効果的です)


(それめっちゃ難しくないですか!?)


 竜人の山から戻って以来、何故か自分は身体、魔力共に驚くほどの成長を見せています。

 ぶっちゃけ、溢れる精霊の力を抑えられるようになるだけでも数日訓練を必要とするくらいでした。


 それをさらに手加減しろと⋯⋯いやいや待った。

 相手はズルーガきっての精鋭と謳われる(らしい)強者つわものの騎士たちですよ。精霊術抜きなら対等かそれ以上に相手が強いかもじゃないですか。


 そう思い、並んで準備を始める彼らをぐるりと見遣る。

 う〜ん、正直微妙。


 この騎士たちの隊長であり白虎騎士団の団長でもあるらしいルーメスさんはともかく、他五名の実力はどれも本来護るべき王族であるエメラダ以下。


 ぶっちゃければエルフの精鋭たちの方が全然強いまであります。

 大丈夫? 騎士団これで大丈夫?


(やっぱりすごい難易度高いですよ。少なくともあの五人はどう手抜きしても無理、余裕で勝っちゃいます)


(⋯⋯致し方ありません、グレイ様。ご無礼をお許しください)


 そう言うと、エルヴィンは懐でこっそりといくつかの木札を割ったようでした。

 すると急に自分の身体が重く、とても気だるい感じがします。


(かなりの数の阻害デバフ魔法を使いました。これならば勝ちはしても、いい戦いには見えるでしょう)


(こ、ここまでやる必要あるんですか)


 とそこまで話し込んでいると、向こうも流石にこちらを気にしてかチラチラと視線を感じます。

 慌てて突き合わせていた顔を離し、まぁあとはなるようになるかと溜息一つ。


「では噂の英雄殿がどれほどのものか、一つ胸をお貸し願おうか」


「はい⋯⋯あの、今回は模擬戦ということですし木剣でよろしいですか?」


「――――我らと真剣では立ち会えぬと?」


 先程ドワーフに興奮していた若い騎士が敵意たっぷりに睨んできます。


「いえ、自分の武器は少々特殊で⋯⋯この様なものなんですが、これでお怪我をさせては申し訳ありませんので」


 短剣の頃からは想像できないほど成長してすっかり禍々しくなった魔王剣を鞘から抜いてみせびらかすと、流石にその異様さに気圧されたのか木剣での模擬戦を許されました。


 別に人間に対して特殊な効果とかは無いただ丈夫なだけの剣なんですが、見た目って大事だね!


「では私から行こう。我が名は騎士サゲルダ! 勇者と手合わせできることを光栄に思う!」


 なんか偉そう⋯⋯というかこの方達はみんな貴族の出らしく実際偉いんだとか。

 騎士というのは基本的に貴族がなるものだそうで、平民がその地位に登るには従士としての役目を経て功績を挙げ、初めて許されるそうです。


「グレイ・オルサムです。お手柔にお願いします」


 その後の戦いは⋯⋯いやもう本当に疲れました。


 負けちゃいけない、でも圧しすぎてもいけないという絶妙な塩梅は中々にキツいものがありました。

 普段クレムに手加減してもらって鍛錬していますが、彼はよくこんなことをやっていられるなと改めて感謝の気持ちが湧いてきたくらいです。


 その後に続く騎士ルガータ、騎士フェルメント、騎士クオッサ、騎士トゥリンゲンと連戦し、一応勝ったけれどそちらも中々やりますね! というアピールが自然になるよう心掛けました。


 一本取られていく騎士たちは悔しそうな顔をしながらも、勇者に苦戦を強いる戦いをしたと思い込み満足げに交代していきます。


 剣を交え改めた彼らの実力の総評は――ズルーガの武闘大会にいたらみんな本戦で活躍できる実力ではと言ったところ。アルダムスさんがいなければの話ですが。


 そして最後のお相手はルーメスさん、いえルーメス団長です。


「⋯⋯グレイ殿」


「あ、はい。なんでしょうか」


「私にはどうか、手加減無用に願います。先程からの戦い、部下たちのことを思っての行いとは存じておりますが、我らもそれなりに鍛え上げております。どうか今回は存分に力をお出しなされ」


 バレてた! バレちゃってたよ、どうするエルヴィン!?

 思わず彼の方を向くと、仕方ないと言った風に肩をすくめました。


「⋯⋯失礼なことを致しました。えと、ルーメス団長とお呼びしてもよろしいですか?」


「どうぞご自由に」


「では、団長殿のご意向に添えるよう力をお出ししましょう」


 実際この人は他の騎士たちの何倍も強い。普段ならともかく、エルヴィンが重ねた阻害デバフ魔法込みの今なら本気で掛かっても問題なさそうです。


「さぁ、参られよ」


 しかしそんな余裕は一瞬で吹き飛んでしまった。

 木剣を青眼に構えたルーメス団長からは歴戦の兵たる気迫が感じられ、自分は思わず気圧されてしまったのです――――。

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