第91話 アキヒサの怨嗟
おう! 俺は勇者だ! 名前は
なんと生粋の日本人で転生者だ! ⋯⋯まぁこの世界じゃあまり転生者も珍しくないんだが。
ていうか、俺の場合実際には生前の姿がそのままなので本当なら転移者のはずなんだが、この世界じゃ異世界から来た奴らはみんな一緒くたに転生者と呼ばれるらしい。まぁ細けぇこたぁいいんだよ!
俺がこの世界に来てもう二年になる。日本ではなんの取り柄もない学生だった俺も、女神様から授かったチートスキルで無双してやりたい放題! ⋯⋯なはずだったんだが、この世界は色々とおかしい。
聖地とやらで目覚めた俺は、男だか女だか分からない超美形の白髪の天使(なんと白い羽が生えていた!)にこの世界のことを色々と説明された。
そしてこれからの冒険に胸躍らせながら連れてこられたのが勇者協会だ。
ここが落胆ポイントその一。
そこには転生者も含めたライセンス制の勇者がウジャウジャいやがった。
勇者ってこんな沢山いるのかよ! っていうか魔王も世界中にいるって何だそれ、魔王って普通一体じゃないの? 倒そうとしたら世界の半分をやろうとか言われるんじゃないの?
まぁ言われたら全部よこせと言うがな!
とりあえずはその勇者協会で戦い方やスキル、魔法の使い方などを半年ほど教わった。
はい、落胆ポイントその二。
俺、マジで戦いに向いてねぇ。剣はクソ重いし、魔法は魔力があっても制御が難しく、スキルだって小説や漫画みたいにサクサク習得できるものじゃなかった。何このクソゲー。製作フ◯ムかよ。
だがしかし。それを補ってくれたのが俺の持つチートスキルだった。
残念なのは、スキルで弱体化した敵を倒してもレベル1だから大した経験値にならないことだ。これじゃパワーレベリングもできねぇじゃんやっぱクソゲー!
ちなみにこのレベルというやつ。どうやらこの異世界では認知されていないものらしく、おまけに創作でありがちなゲームのステータスコンソール的なものもない。
協会から支給された特殊なモノクルを使ってようやく自分や相手のレベルを測れる。要するにスカウターだな。
そして落胆ポイントその三。
俺、くっそ弱ぇ⋯⋯。他の転生者と比べても、俺の成長は著しく遅かった。協会でもう半年経つ頃には同期で入ってきた奴らのレベルは30近くに到達していたのに、俺は14⋯⋯まぁスキルの特性上仕方ねぇよな!
レベルダウナーさえあれば俺は負けなしだ。レベルなんて後からいくらでも上がるってもんよ。
そうして一年が経ち、いよいよ俺は魔王に挑んだ。正直そのビジュアルにはビビりまくったけど、ゲームによくあるボス戦でのスキル無効とかそういうのもなくレベルダウナーであっさりと倒せた。
こうして俺は晴れて碧の勇者となった。
それからは協会を出て冒険者のように世界を回り、魔王を倒していけと言われた。
ようやく、ようやくだ! ここから俺の冒険は始まるんだ! 打ち切りじゃねぇからな!?
とまぁその後はボチボチ魔王を順調に倒しながら色んなところを巡った。階級も蒼に繰り上がり、傍から見れば順風満帆。
だがしかし、落胆ポイントその四だ。
⋯⋯正直、つまらん。どの魔王もマジで弱ぇ⋯⋯むしろ他の転生者の方が強すぎる。なのになんでこの世界は魔王が根絶されないんだ?
なんか勇者たちが魔王討伐を始めてかなりの年月経つらしいが、未だ魔物も魔王もこの世に蔓延りあっという間に増えていく。魔王の繁殖力ゴキブリ並かよ。
そうやってセコセコと雑魚狩りするのにもいい加減飽きた。
そこで俺はふと思ったんだ。
もう魔王退治しなくて良くね? だって他の転生者で割と充分だし、だったら俺の好きなことをやろう。
そう、金と女だ!
異世界に来てまず思ったのが、どんなハーレムを作ろうかということだったんだが、これが全然上手くいかん。何故だ、俺はどちらかと言えば顔も良い方だし勇者ならモテないはずがない!
何故かと考えて行き着いた答えは、要するに金だ。
きっと俺に足りないのは潤沢な資産。金さえあればきっと可愛い女の子がガッポガッポ付いてくる!
魔王討伐で入る報酬は、実際かなり安い。ちょっと良い装備を整えればすぐ消えるくらい。インフレというものだろうか。これならレアな魔物の素材でも売っぱらって商売した方が全然マシだ。
よろしい、ならば商売だ。
これまでソロを貫いてきたが、餅は餅屋。その手の商売、特にグレーゾーンでこちらの粗利をガッポリ儲けられるような手腕と欲を持った奴を仲間にしよう。
そこで引き入れたのがクルーカ・キンリという下衆で腕の立たないと評判の
いざまずい状況となった時は全てをコイツに押し付ければ良い。
クルーカはちょっと手持ちの金をチラつかせて話をすれば、意外にもウマがあった。昔勇者を騙してお宝を奪おうとした話なんかは抱腹絶倒、その屑さが癖になりそうだ。
亜人奴隷主義バリバリのスルネアやギネド帝国とのコネもあるらしく、これで国を跨いでの手広い販路が確保出来る。
だがもし俺を裏切ればどうなるか、その辺を分らせておくためレベルダウナーを使ってボコボコにしてよく言い聞かせてからパーティに加えた。
次に選んだのはセレスティナ・ペルゲンという変態女。
ズルーガの辺境伯の娘とかいう話だが、辺境伯ってどれくらい偉いんだ? 辺境ってくらいだからそう大したこともないんだろう。多分。
セレスティナはとにかく嗜虐嗜好が強く、そして馬鹿だった。
顔が良く気の強い男を数人紹介してやればホクホク顔で俺に付いてきた。ちなみにそいつらは皆セレスティナの飼い犬になった。
こいつはズルーガでは既に禁制となっている隷属魔法を使った奴隷を、自分の父親の領地でかなりの数を飼っているらしい。労働力の工面や面倒な貴族とのやり取りには最適な人材だ。
最後に人狼、グアンター・ロンド。
こいつは身辺警護と奴隷の監督役としてうってつけだ。元はセレスティナの奴隷だったが、彼女に対する無駄に強い忠実さは褒めても良い。
飼い主に似た変態的な性的趣向を持っていて、望む餌を与えてやるだけで簡単に懐いた。
こうして暫くは、セレスティナの奴隷やスルネアから亜人を拐ってきてはズルーガの変態貴族に闇で売りつけるという商売を続けた。これが中々の当たりだった。
広大なスルネアの国土には市民権を持たない野良亜人が山ほどいる。それをちょっと捕まえてセレスティナに調教させ、クルーカの手腕で交渉し売りつける。
顔の悪い亜人はグアンターに訓練させ、使い捨ての傭兵団のようなものを作って力の弱い小国の紛争地帯に売り捌いた。
半年もする頃には、それまで見たこともない額の大金が舞い込んで来たんだ、まさにこの世の春よ!
俺も待望のハーレムを作って毎日楽しくヤっていた。全てが順調に進み出したそんな時、奴が現れた。
ブラック・レギアル。
西の英雄。白金筆頭、最優の勇者様が俺の楽園にズカズカと脚を踏み入れてきたのだ。
この時の俺は有頂天で、相手が如何に人外の境地にいるか分かっていなかった。
レベルダウナーを使えば、どんな相手でもぶっ殺せる自信があった。
しかしその幻想はほんの数秒で崩れ去ってしまう。アレは人間じゃない、魔物でも魔王でもない。
バケモノだ。
こうして俺の商売は潰えて処分されると覚悟した。だが、そうはならなかった。
ブラックは意外にもこの手のことに話が分かる男のようで、人間の奴隷さえ扱わなければ目溢しするという。むしろ亜人は積極的に売れと。
それどころか仕事を頼みたいと言い出した。俺のパーティの販路やコネを使って竜種の住処を探って欲しいというのだ。
最初こそ渋ったが、目の前に無造作に置かれた大きな皮袋一杯の金貨を見て否やという馬鹿はいない。
俺は早速各地の取引先での情報を買い漁り、奴隷を使い探索させ、都合三箇所の竜の住処を見つけ出した。
三ヶ月ほど要したが、その働きをブラックは慇懃に労ってくれた。最優の勇者にこうして褒められるのも悪くはないな。
そして次は見つけた竜たちを狩れと言われた。しかしこればかりは無理な話だ。
俺たちは
すると、ブラックが先陣を切るから任せろと言う。俺らはサポートと必要な素材の回収だけしてくれれば良いと。ならば話は早い。
俺たちは次々に竜を狩った。どうやらブラックが欲しかったのは、竜が死後体内に宿すと言われる魔核だったらしい。
ならばそれ以外の素材は俺たちが売り捌いて良いんだよな! そう思いブラックに持ちかけると、彼は難色を示した。
竜は同族が魔核欲しさに殺されたと知れば猛って襲ってくるだろう。それでなくとも厄介なものを招きかねない。リスクが高いから死体はすぐに解体して燃やせと言われた。
その時は素直に頷いた。事実、二体の竜に関してはきちんと指示通りに始末した。
だが三体目の竜。こればかりは別だった。
何せ黒竜、それも純血の成竜だ。鱗の一枚でも相当な金が動く。それが丸々一体分手付かずとなれば欲も出る。
俺たちは黒竜を狩り、ブラックの指示通り魔核を取り出すために解体すると言って密かに素材を売ることにした。
竜の解体には人員と時間が必要になる。特に今回の黒竜は狩った三体のなかでも一際巨大で時間が掛かるとブラックに説明すれば、奴は何の疑いもなく俺たちに後を任せたのだ。
最優の勇者様でも脇が甘いもんだぜ。
あとは時間との勝負。俺はすぐに話に乗っかった商人たちを黒竜の山へ呼びつけ、解体と同時進行で競りを行わせた。あとは日々懐が潤うばかりだ。
一つ惜しかったのは、この黒竜は子持ちでそれを逃してしまったことだ。アレも親と一緒に売り捌けば小国くらいは買い取れる財が入ると思っていたんだが⋯⋯。
そうして暫くの間は解体と競りが続く日々。ブラックが御所望の魔核も取り出したし、バレないうちにそろそろ引き上げるかと思っていた頃だった。
奴が、クソ生意気な翠風情の勇者が俺のシノギに難癖つけてきやがった!
初めは適当に痛めつけて配下にでも加えれば大人しく従うだろう程度に思っていたんだ。それなのに⋯⋯それなのに何でだ!?
レベルダウナーが効かないなんてことはブラック以外では初めてだった。こんなことあっちゃいけない、チートスキルだぞ!? それだけが俺のこの世界でのアドバンテージだったのに奴はそれを真っ向からぶっ壊しやがった!!
それからのことは――――お、思い出したくない。あ、あんな、あんな悪夢はもう嫌だ!
ケタケタと笑い狂う魔女に燃やされ、自分の胸元くらいしか身長のない餓鬼に切り刻まれて、死に掛けたら回復されて同じことを繰り返すっ!?
あんな拷問が⋯⋯地獄が鍛錬だと夢の中の魔女は宣ったんだ! そんなわけあるか! アレで強くなるなんてサイヤ人くらいだろうが! ふざけてんのか!?
そしてその悪夢から救ってくれたのが、不本意にも今の事態を一番見られたくないブラックだった⋯⋯俺はこのあと殺されるかも知れない。
だが! だが! まずはあの糞野郎からだ! あんな無様を俺に晒させやがって、死ね!
白金筆頭の強さに頭を垂れて死んで詫びろ!
その願いが成就するのは目前だった。目前だったはずなのに⋯⋯。
何なんだあいつは! 急に見た目が変わって色黒の赤髪に変わったと思ったら、あのブラックと互角にやり合ってやがる! なんでこんな所にバケモノが二匹も集まるんだよ!?
俺はただ⋯⋯金が、女が欲しいだけだったのに!
俺が一体何をした! 俺はなんも悪くねぇぞ!?
そう思った瞬間。飛んできた瓦礫が頭に当たり目の前が真っ暗になった⋯⋯⋯⋯。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます