第76話 一応戦い続けてました。
こんにちは、勇者です。
え? 今? 切り刻まれて絶賛再生中です。なんか段々慣れてきた⋯⋯。
「あ〜、今ので何度目の死亡ですかね⋯⋯」
『五七回目だな。私が言うのも何だが、ここまでやって挫けぬとは君は本当におかしいんじゃないか?』
「本当アンタに言われたくないですよ!」
切り飛ばされた手足がメキメキ言いながらくっ付くのを眺めながら、深くため息を吐きます。精霊術が使えないのが大きなハンデになることは分かってましたが、格上相手だとここまで何も通じなくなるとは⋯⋯。
「でもまぁ、この程度の殺され方なら今まで腐るほどやってきましたから。あとは相手のパターンを読んで対応していくのが無難ですか」
『ほんと、おかしいんじゃないか?』
アルダムスさんに引かれるのはちょっと府に落ちませんが、今は眼前の敵をどうにかするのが先決!
っていうか、あの銀騎士速すぎ⋯⋯エルヴィン並みの長身とあの甲冑姿で俊敏さはクレム以上。剣の腕も自分がやり合った中では一番なのでは?
『君は傷つくことに慣れすぎている』
「え?」
『もっと受けることに重点を置くべきだ。今までは致命傷を避ける最小限の動きしかしてこなかったのが見ていてよく分かった』
んん⋯⋯言わんとしていることは分かります。確かに自分の戦闘スタイルはクレムの動きを真似たもの。
肉を切らせて骨を断つザーツ様仕込みの戦法らしいですが、生身の自分ではその反応速度に付いて行けずさっきから斬られてばかりです。
「とは言っても⋯⋯こっちの得物が」
双剣を見れば、だいぶ刃こぼれが酷い。ミノタウロスの素材で出来たソレはこれまで欠けることなどなかったのに、銀騎士の剣は特殊らしくガリガリ削られてしまいます。
『腰にもう一本あるだろう、立派なのが。私が見たときより随分と長くなったようだが』
言われて手にしたのは元魔王の短剣。今は普通に長剣サイズになり、せっかく拵えた鞘も無駄になり即席の皮の鞘に納めています。
「長剣はあまり使い慣れてないんですが⋯⋯」
『この際だ、鍛錬と思ってそちらを使いなさい。そして着実にガードして相手の隙を窺え』
仕方なく双剣から長剣に持ち替え、ゆっくりと構える。⋯⋯あれ? なんでだろう、意外としっくり来る。
『ほら、来たぞ!』
「っ! ああぁっ!」
銀騎士の一閃を正面から受ける。これまでは短剣で軽く当てて逸らし攻撃に転じていましたが、こうしてみると安定感があるのが分かる。一撃が重くなり銀騎士を押し返すのも楽で、安易に傷を受けることがグンと減りました。
銀騎士も戦い方が変わったのに気付いたのか、闇雲に突っ込んでくることがなくなり互いに間隔を置き様子見することが多くなってきます。
『それでいい、攻められても受けても必ず隙はある。そこに潜り込むんだ。だがそれはこちらも同じ、油断すればまた首チョンパだぞ』
「分かってます。隙を作るな隙を突け、ですね」
『いや、むしろ意図して隙を作る方がいい。相手を思う通りに動かして主導権を握るのだ』
「そんなテクあれば、五七回も死んでないんですけど⋯⋯」
それから幾数十回。まぁひたすら斬られて死にまくりましたが、段々と銀騎士の動きに対応できるようになってきました。
「へへ、へへへ、だいぶ動けるようになってきましたよぉ⋯⋯?」
『本当に死に慣れてるな。もう見ていて怖いくらいだ⋯⋯』
「あと、少し前の話ですけど、どうやらこれは時間遡行とはちょっと違うみたいです」
それが分かったのは自分の身体の変化。もうどれくらいの時間切り結んでいるのか分かりませんが、蘇生と回復ついでに何となく筋力が上がっている気がするのです。
『ふむ⋯⋯ではこの空間が極大の治癒効果を発揮しているのかな?』
「わかりません、がっ! すく、なくとも! 時間云々は関係ない、んじゃ、ないですかねぇっ!!」
そもそも時間遡行なら消耗した武器も防具も元に戻っていいはず。それが直らないということは、これはやはり巻き戻りとは違うと確信しました。
っていうか、折角のアダマンティンの鎧が両断されて完全に使い物にならなくなってしまって悲しい⋯⋯。
斬り合いながらそんな会話と思考をするくらいには余裕が出てきました。まぁ死んでも大丈夫ってことが前提での余裕ですが。
銀騎士がお得意の上段からの振り下ろし、それをギリギリまで防がず鍔で抑えると、その勢いを逃すように左へ力を流す。瞬間、初めて銀騎士に明確な隙が出来た!
「ここぉっ!!」
微かに見える鎧の隙間に渾身の突きを繰り出す。弾かれるかと思いましたが、予想以上に上手くいって銀騎士の腰に深く剣を突き刺した。
(あああぁぁぁぁアアアアアアアアアアアァァァアァァぁぁッッ!!!!!!)
銀騎士の口から初めてルルエさんへの恨み言以外の声が響いた。これは決まったんじゃないですか!?
しかしその考えは甘かったのです。自分が死なないということは、同じ空間にいる相手にもその恩恵は当然あるわけで⋯⋯。
(ゴ、ろす。ころス⋯⋯殺s)
「うっそぉ⋯⋯」
銀騎士の即時復活に驚愕してしまい、その瞬間に自分の胴は二つに分かれてしまいました。すぐにくっ付くから良いけどね! いや良くない!
『なるほど失念していた、こちらが回復するなら当然相手も回復するのは道理だな!』
「ゲホッ、冷静が過ぎる! こんなんどうしろっていうんですか、この空間の脱出条件って何?!」
そう叫んで、ようやく少し頭が冷めた。今までは銀騎士の対応に手一杯で相手を倒すことしか頭になかったけれど、よくよく考えればこっちの勝利とはここからの脱出なのです。
「この空間から脱出を図るなら、攻略すべきは銀騎士ではなくあっちの――――エルダーリッチー?」
『うむ、その通りかもしれん。あれを倒せれば我々が解放される可能性はある』
しかし結局のところ、銀騎士もエルダーリッチーもアンデッド。つまり自分では止めを刺せないということ。ならば自分が銀騎士を抑えている間に、アルダムスさんに本命を叩いてもらうのが賢明でしょう。
「――――では、あっちはアルダムスさんに任せても良いですか」
『そのために私は呼ばれたのだからな! 干からびたアンデッドの一体や二体、この筋肉で吹き飛ばしてくれよう!』
そうは言うものの、守護霊とエルダーリッチーでは霊的な力量さはかなり大きはず。それでもアルダムスさんはムキムキと筋肉を盛り上げてやる気満々なようです。
「ハァァァ⋯⋯銀騎士を抑えて且つエルダーリッチーの撃破、自分はあと何回死ねばいいんですかね」
『なに、あれだけ忍耐強い君ならばきっと最後まで成し遂げよう。むしろ私も久々の逆境に胸躍り筋肉も躍る!』
アルダムスさんが胸筋をビクンビクンさせながら爽やかに笑うのを見て、自分のやる気スイッチはガチャンとオフ。⋯⋯いやでも、実際問題やらなきゃ終わらないんですよねぇ。
「――――じゃ、自分は引き続き銀騎士攻略を目指して頑張りますか」
『フハハハハハ! 青年との共闘、筋肉がますます唸るぞぉぉぉ!!』
そう言ってポーズを決めた瞬間、フッとアルダムスさんの腕が吹き飛びました。いつの間にか距離を詰めた銀騎士が、自分ではなくアルダムスさんに襲いかかっていたのです。
(う゛、ルざぃぃぃぃぃっっ!!!!)
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯同感です」
そうして締らない空気の中、アルダムスさんとの共闘は苛立つ銀騎士の強襲で幕を開けました⋯⋯。
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