第118話 夫婦生活①
なんでもない日曜日の朝。
「んっ……んん……」
体を起こして隣を見ると、琴葉がすぅすぅと寝息を立てて寝ていた。
彼女は服を着ておらず、鎖骨から胸の部分にかけて見えてしまっている。
「――っ!」
琴葉の裸も見たことがあるはずなのに、こうしたちょっとした露出でもドキドキしてしまう。
そうか、俺昨日も……、あれ?
「おいこら、何服脱いでんだ馬鹿」
「あいでっ⁉」
チョップをかますと、目を覚ます琴葉。
「いったーい、凛くん! DVだDV‼ 家庭内暴力だー!」
「お前が朝から不埒な格好をしているからだろあほ」
「不埒って、家の中でぐらいいいじゃん~」
そう言って琴葉は目をこすりながら服を探している。
夏だからとはいえ、家の中で裸でいられるとさすがに……。
「ね~凛くん。服どっか行っちゃった~探してえ」
「ばっ、だから服を着ていないのに布団から出るな‼」
急に布団から出て声をかけてくるものだから、そのたわわになってる部分とかその頂上とかがモロ出しになってしまっている。
お前、防御力とか貞操観念とかどこに捨ててきたんだ⁉
慌てて布団をかけてやると、琴葉はその布団をまじまじと見てふーんと独り言ちる。
それからにやりと口角を上げると。
「興奮しちゃったんだ。私の裸を見て」
「なっ――、ちげえわ‼」
思いっきり否定するが、琴葉は満足そうにうんうんと頷いてそこら辺から服を取り出して上に着た。
「まったく、いつまでたっても凛くんはウブなんだから~♪」
「だから、勘違いって言ってるだろ‼」
「ほらほら、見せたげるよ~」
「いい加減にしろ‼」
首元を開けて中身を見せようとする琴葉を𠮟りつけて、俺たちの慌ただしい休日は始まった。
「それにしても、二人の休日が被るなんて珍しいよね~」
朝ごはんを食べながら録画してあったドラマを見ていると、琴葉がそんなことを言い出した。
「まあ俺は休日と言っても家で曲作りするだけだがな」
「え~つまんな~い」
俺の場合は琴葉に比べて家にいることが多い。
家を出る用事と言えば他のアーティストとの曲作りに関する打ち合わせ、それからギターの練習、ボーカルの練習でトレーナーを訪れるか、あとはたまにテレビに出る用事があるくらいだ。
それに比べて琴葉の仕事というのは家でできるものがかなり少ないので、やはり家を出ての仕事ということになる。
女優業というのは、いかんせん大変らしい。
「ねえ、せっかくの休日なんだからさ、どこか出かけようよ」
「出かけるって言ってもな。お前とデートすると目立つんだよ」
「まあそれはそうだけどー!」
不満そうな顔をしている琴葉。
だが、一度結婚を発表してから二人で外に出かけたときなんかは、普通に週刊誌に写真があげられていたしなんならテレビで仲睦まじい夫婦だとかで取り上げられていた。
だから、二人で落ち着いてデートというのは、難しい。
「でもでも、ずっとデートできてないじゃん」
「まあそれはそうだけどな……」
俺としても、琴葉とデートをしたくないわけではない。
むしろその逆。
二人でショッピングに行きたいし、映画見て一緒に楽しみたいし、のんびりと旅行にでも行きたい。結婚してからの方がその気持ちは強くなっている。
だが、やはり芸能人と付き合うというのはしがらみが多いらしかった。
「凛くん。私と結婚したことを後悔してる?」
そんな俺の心を見抜くように、琴葉が箸を止めて俺の方を見てきた。
瞳に不安をにじませて。
「――はっ、お前はあほなのか」
「あ、あほ⁉」
「あほだろ」
そんなのも分からないのかと、諭すように俺は言った。
「後悔なんかするわけないだろ。俺は、琴葉が奥さんで幸せだ」
「――――っ!」
後悔したことなど一度もないし、結婚してから、それ以前に付き合うことが決まったあの日から俺はずっと幸せだ。
だから、琴葉の考えていることは杞憂だ。
「ねえ、凛くん……」
「ん、なんだ?」
もじもじしながら何かを言いたそうにしている琴葉。
なんだよ、言いたいことがあるなら言えばいいのに。
「――もっかい言って。録音するから」
「言うかバカ‼」
携帯を片手にそんなことを恥ずかしがりながら言う琴葉を見て、俺は吠えていた。
「まあたまにはまったりするのも悪くないな」
「そうだね。私も結構疲れてたみたい」
それから日が暮れるまで、俺たちはソファで横並びになりながら映画を見ていた。
エンドロールを片目に、俺たちもゆっくりと息をつく。
こういうゆったりとした休日も、意外と悪くなかった。
こういうゆったりとした休日も。
「ねえ、凛くん。一緒にお風呂入ろっか」
「ああ……いいよ…………って、え?」
ん? なんか今とんでもないことを了解してしまったような?
「よし、じゃあ行こっか」
「ちょっとまってちょっとまて、待て待て。琴葉と俺が一緒にお風呂⁉」
いきなり何を言っているんだこいつは⁉
「いいじゃん。普通の夫婦なら普通にやってることだよ」
「普通、普通ってなあ……」
「なに、それともあれかな? 凛くんは私の裸を見ちゃうと本能を抑えきれなくて襲っちゃうのかな?」
「ほーう」
安い喧嘩の売り方だな。
誰がそんなのに乗るかって。
「やってやったろうじゃんかよぉ‼」
次回、俺死す‼ お風呂、スタンバイ‼
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