遊園地 6
あたしたちはキャストから離れてキャッスルタウンというエリアを散策する。
「見られている」
ケイが辺りを気にしながら告げる。
見渡してみてもそんな雰囲気はない。ハクも珍しいものに目移りしているけれど、警戒する様子はない。
「気のせいでしょ」
キャッスルタウンは所謂、ショッピングモールになっていて、西洋風の建築物が並び、専門店や食品、遊園地のグッズといったものを売っている。
どの店も金銭の交換はしていないみたい。 品が欲しいと言えばキャストは快く提供している。
「こんなものもあるんだな」
カンダタの目に止まったのは屋根付きのワゴン車で積まれていたのは熊や兎、猫等のぬいぐるみ。それらはあたしが見知っていたものだった。
「なんでダッフィーシリーズがあるわけ?」
ワゴンの中には夢園のマスコットでもあるパク君もいるけれど、異様な熊象は隅に追いやられている。
「だっひー?」
光弥は真似て聞き返すも発音が拙いものになっている。
「ディズニーリゾートで売っているぬいぐるみよ。熊がダッフィー、リボンついているのがシェリー・メイ、兎がステラ・ルー、猫がジェラートニ」
「随分と詳しいんだな」
珍しいものを発見したカンダタが喋る。
「可愛らしい趣味だ」
褒め言葉ではないわね。目線があたしを見下している。
茶化されたことには苛立ってはいない。ただ、勘違いされたくないから弁解する。
「昔持っていたのよ」
買ってもらったダッフィーをあたしはいつも大事に抱えていた。
母の「愛してる」と一緒に貰ったダッフィー。ふわふわのぬいぐるみにもそれが詰まっていた。だからいつも抱いては類似的に母の愛情を感じていた。
それすらも偽物の感情だと知ったあの日、ダッフィーに対する執着がなくなった。母の「愛してる」が嘘なら、ぬいぐるみに詰まった感情も嘘だから。
「いらなくなったから燃やせるゴミの日に捨てたわ」
火葬の日、母を燃やしても良いその日に、「愛してる」とついでにダッフィーも燃やした。
カンダタはあたしの弁解をどう捉えたのか、憂いた溜息を吐く。
「そういえば、瑠璃の父親の部屋にもこれの置物があった」
カンダタは父の尾行で見たものを喋る。それは背に青いトランクを背にしたダッフィーがこちらに手を振っている置物らしい。
ディズニーシーで買ってもらったポップコーンバスケットだ。
家族3人で行ったディズニーリゾートの思い出が蘇る。
あれが最初で最後の家族旅行になった。父からのプレゼントもあれが最初で最後。
そのバスケットを父が飾っていた?なんで?
疑問と同時に浮いたのは父からのプレゼントにはしゃいだときの幸福。
あの時、あたしは嬉しかった。母もつられて嬉しくなった。おそらく父も。
「あいつは真実の愛を盲信して依存した異常者よありえない」
ありえない。もう一度呟いて否定する。 あたしは首を振る。あれは偽物だった。幻想なのよ。あたしたち家族に絆も愛もなかったんだから。
カンダタはあたしの独り言を聞いていたが、それ以上は言及しなかった。
「キヨネは?」
痺れを切らしたケイがあたしに問う。
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