瑠璃、幼少期 13
朝焼けの寒さで目が覚めた。
くるまったブラケットの中は暖かったけれど、下から吹く冷風で嫌でも目が覚めた。
抱き心地の悪い鞄を放し、隠れていたブラケットから頭を出す。運転席では彰が貧乏ゆすりとタバコで苛立ちを紛らわし、しきりにラジオのチャンネルを回しては音楽と雑談を繰り返し流す。
助手席に母の姿はなかった。一抹の不安を覚えたあたしは辺りを見渡す。
ワゴン車はまだ高速を降りていなかった。一時的に停車していたパーキングエリアはトイレと自販機しかないもの寂しい場所だった。1台しかない自販機の前に母がいた。一先ず、安心する。
自販機の隣には青い看板があり、あたしの知らない土地名を表示している。
どのくらい寝ていたのかな?
ワゴン車が高速に乗り始めたのは12時頃。現在は太陽が昇る直前の早朝。その間、ワゴン車はずっと走り続けていたのだろうか。
母は缶ジュースを買っていた。2本の缶を手に収めてワゴン車に持ってくる。スライドドアを開け、あたしの隣に座る。
「起きたの?まだ寝ていていいのよ」
瑠璃に温かいジュースを渡す。母と会話をしたかった。長時間経っているのに置かれた状況が掴めない。母の冷たい態度の理由もまだ聞いていない。
「ニュースは?」
「いや、まだだ」
前のめりになって彰と話を始める。
熱い缶コーヒーを彰に渡し、車内に流れるラジオを耳に傾ける。あたしの隣にはいてくれるけれど、母の頭にあたしはいなかった。
「ママ、トイレ」
単なる生理現象ではなく、僅かな隙間でもあたしの存在を頭の中に入れておきたかった。それが母を困らせる台詞だったとしても言わずにはいられない。
「1人で行きなさい」
ラジオに夢中になっていて、子供の駄々も軽く遇らう。あたしは諦めずに母の袖を掴む。何でもいいからあたしの不安を和らいでほしい。
「しょうがないわね」
溜息混じりに吐いた言葉は本当に面倒臭そうだった。母からしてみれば寒い風に再び当たるのが億劫だった。
「流れたぞ」
あたしの我儘は流れてきたニュースで忘れ去られてしまった。ドアを開けようとしてあたしは体勢を戻し、ラジオに聞き入る。
10歳の子供にニュースはつまらないものでしかなく、内容の半分も理解できない。ただ、誘拐と電子系大学の院生、10歳の少女、そして母の名前がニュースのワードとして上がり、震え上がった。
「まだ気付いていないみたいだな」
「警察は犯人を彼だと思い込んでるみたい。早く行きましょ。あそこなら身を隠せる」
あたしは母の腕に強くしがみついた。
「トイレは我慢して」
我儘を言いたくて腕にしがみついたわけではない。
怖かったのだ。映画では決して体験することのない真の恐怖だ。幽霊や怪物は作り物として理解できる。なら、この状況は?なぜ母は冷たいのか?この札束が詰まった鞄は?
わからないわからないわからない。
ヒントは幾つもあった。愚かな天使の子はその答えを出そうともせず、未知の恐怖に震えては母にしがみついていた。
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