望まぬ再会 7

カウンセリングから逃げられた。後はトイレへと早足で向かう。

個室に籠り、ミネラルウォーターを飲む。できるだけ多量の水を胃に流し込むと便器の大穴に頭を俯かせて2本の指で舌の根を強く押す。

胃と腹筋が締め付けられて湧き上がる気配に声帯は濁した音を短く鳴らす。それでも出てこない。

もう一度、今度は腹筋に力を入れて2本の指はさらに奥の舌根を刺激する。そうして起こった生理現象があたしの口から吐き出された。

ミネラルウォーターと一緒に出されたのは昼に食べたレタスとトマト、コーン、パン、クリーム、フルーツ。それらが粘りのある流動物となって、あの時味わった甘みのある美味は面影がなくなっていた。舌に残留する胃酸の味が気持ち悪い。

便器に打ち捨てられた吐瀉物はフルーツサンドの白とサラダの緑、胃酸の黄が溶け合わされずに混ぜられて便器から漂う臭いがまた吐き気を促す。

この吐瀉物の中に紅茶があるかしら。

長野が紅茶を淹れる時の光景を思い出してみる。

彼は砂糖の有無を聞いてきた。あたしはストレートと答えた。紅茶パックの箱を手に取ったけれど、砂糖瓶には触れなかった。長野は注文通りの紅茶を出していた。なのに甘かった。

あの時、紅茶に何か淹れたのね。それが毒なのか、睡眠薬なのか判断はできない。

あたしはミネラルウォーターを飲み、指で舌根を押す。空になったあたしの胃から出されるのは水と胃液だけ。嘔吐反射で胃が引き上げられて裏返ってしまいそう。

紅茶を飲んですぐに吐いたから残っていないはず。

トイレの水を流して、蛇口の鏡と向き合う。吐くというはそれなりの精神力を浪費する。

鏡の映ったのはまさに疲弊してやつれた顔をしたあたしだった。

ひと口分だけ残ったミネラルウォーターを口に含む。残った酸味を濯いで捨ててもまだ酸っぱい。

鞄から香水を取り出すと首につける。これでゲロ臭いのを紛らわせたらいいんだけど。

最悪ね。学校で吐くなんて。帰りにミントガムを買って行こう。あ、下校時間が早まったから売店も閉まっているんだったわ。もう、最悪。

駅前のミルフィーユを買って機嫌を直すべきね。そうと決まれば早く帰ろう。

気落ちしたあたしはトイレから出る。するとそこには女子トイレの出入り口でポテトチップスをばりぼりと頬張る光弥がいた。

「現世いいね。おいしいものがこんなにある」

校内の廊下に自然と溶け込んでいたからその不自然であるはずの光景に思考が止まってしまった。

「あんた、ここで何してるの?」

それを口にするのに数秒の時間を有した。光弥はチップスの食べかすを頰につけてにっこりと笑う。

「色々と調べてんのさ。一応、調査できてるしね」

「観光の間違いじゃない?」

にっこりとした笑顔は塊人の得意な嘲笑ではなく、菓子を食べたり、遊びに行く子供の表情と同じだった。ハザマには池と地獄しかないから現世の田舎町でも楽しく思えるのね。

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