望まぬ再会 5
やっぱりこの怪事件、蝶男が関わっているんだわ。
私の中にあった疑惑が確信に変わった瞬間だった。
思わぬ再会に頭は真っ白になっていて、坂本と蝶男の会話は聞こえていなかった。
冷静を取り戻して、耳が言葉の理解をできるようになっても背筋の悪寒や緊張で跳ね上がる心臓は治らなかった。
声を上げて蝶男の危険性を訴えてみても、あれは夢の中の出来事であり、坂本からしてみればあたしが忘れるられない悪夢に苦しめられる精神疾患者としか捉えない。
長野と名乗る蝶男も初対面のような態度であたしに接する。
「他にも2人の生徒がいてね。グループ療法しているんだよ。君は2人と違うタイプだから良い刺激になると思うんだ」
カウンセラーの長野は先生らしく、また柔らかな物腰でカウンセリング前の不安を取り除く。
「人見知りはしないって聞いたんだけど、不安なのかな」
あたしが黙っていたから気を遣ったようね。
「長野先生が坂本先生に勧めたんですか」
「えぇ、ぜひとも。話を聞きたくて」
「それは、カウンセリングとしてですか。それとも、夢の話ですか」
試してみる。長野先生の話をそのまま真に受ければ蝶男があたしを狙ってカウンセリングを勧めたことになる。
「もしちろん、カウンセリングとしてだよ」
涼しい顔でマニュアル化したような台詞を言う。嘘吐きめ。学校では長野先生の姿を貫くみたいね。
長野が教室のドアを開けると、2人の生徒が座っていた。1人は初めてみる人で制服のリボンが赤いから3年生ね。もう1人は、なんでこいつがここにいるのよ。
彼女を見た途端、あたしの顔はわかりやすく読み取れて誰でも聞こえるため息を吐いた。
岡本 清音。坂本が執拗にカウンセリングを勧めてくる理由がわかったわ。省かれた者同士で友人にさせようとしたのね。
清音と目が合うと、彼女は気まずそうにして俯く。
「紅茶を淹れようか。その間に3人とも軽く話し合ってくれ」
「5分で終わるって聞いたわ」
教室に入り、ケトルのスイッチを入れる長野に苦情を言う。紅茶を飲む程のゆっくりした時間はない。少なくとも、聞いていた話とは違う。
「僕のポリシーなんだよ。残してもいいよ。砂糖とミルクは?」
清音と3年生、交互に見る。初対面といじめられっ子。楽しい会話ができそうにない。
「ストレートで」
取り敢えず、あたしの好みを答える。
「こっちに座りなよ」
3年生が空いてる席を示す。
帰りたい。嫌味なほどに切実な表情になって、3年生と清音の向かいにあたしが座る。そこからは紅茶を淹れる長野の後姿が見える。
砂糖瓶とミルク瓶、紅茶パックが入った黒い箱。長野は紅茶パックの箱だけを手に取ってカップに入れる。
「私は桜尾 すみれ。クラスは3-B。演劇部だったけど辞めたわ。あなたは?」
すみれは目つきの悪いあたしを快く受け入れても隣の清音は俯いたまま。あたしが言ったことをまだ根に持っているみたいね。
「瑠璃。彼女と同じクラス」
短く略された自己紹介。人との壁を作るのに適した言葉を選ぶ。
「清音と? 2人とも顔見知りなのね。なら、この子のいじめも」
ぱっと明るく咲いたすみれの笑顔はすぐに萎む。清音を同情する哀れな表情を見せる。このカウンセリングで清音は良き理解者を得たわけね。
「えぇ。彼女、あたしの身代わりなんです」
好かれるより嫌われる方が人間関係は楽ね。あたしは顎を上げて深い青い瞳で2人を見下して笑う。
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