とある生徒と蝶男 その二

「両親はクリスチャンなんです。とても信仰深くて、小さい頃もよく教会に連れて行かされてました。母の口癖は“隣人を愛しなさい”キリストでの教えです。今はその心はありません。だから、同情もしません。彼女の家庭環境が劣悪だったとしても、あの子にした仕打ちは事実ですから。でも」

隣の黒い獣を見る。食事を終えた後の鬼は次の食事を待ち焦がれながら小さく蹲る。口の周りには女子高生の血が汚く残っていた。

「後悔しているのかい?」

途切れた言葉に蝶男は問う。

「5人の命を奪ってしまった」

これはまだ序盤に過ぎない。今までは材料集めでしかないのにもう罪悪感で押し潰されそうだ。

「止めるかい?舞台は始まっていないのだから中断もできる」

分岐点はいくつかあった。迷う度に蝶男は別の道を用意する。計画を続けなくてもいいよ、と言ってくれる。彼にとって、この計画の結果は重要では無いのだ。蝶男の目的は1つ、それさえ達成できればいいのだ。

「いえ、やります。後戻りはできないんです。この手は汚れましたから」

そう、奪われた命は還らない。なら、貫くしかない。

後悔は無い。今まで殺したのは「いじめ」を繰り返してきた者たち、黙視してきた者たちだ。これが伝統だと、これが厳しさだと、的外れな価値観が陰湿な悪習慣を生んだ。そのルーツを壊した。

次の計画は決まっている。

「皆殺しにします。この舞台に生存者はいません」

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