雨に潜む 11
「辻褄が合わないのならハザマ側の仕業じゃないんだろう」
「カンダタはどう考えてるのよ。名推理でもしてくれるの?」
「俺は時代遅れの人間だ。わかるはずもない。瑠璃は他にあるんじゃないか?」
確かに、ハザマとは別の人物を私は想像している。蝶男だ。
あの男が単独であたしを狙っている。
それにしても、 あたしはカンダタに蝶男のことを話していない。なのに、核心をついたような問い。変なところで勘がいいのよね。
「この怪異が瑠璃を狙っているなら学び舎に通っている場合じゃないだろ」
「それは嫌よ。ニート・ヒキコモリは人権を放棄した人種なのよ。そんなものになりたくないわ。それだったら外出しているほうがマシ」
「実際、死人が出ているわけだろ」
「何しようがあたしには関係ないわよ」
彼らは運がなかったとしか言いようがない。
カンダタはまだ何か言いたそうだった。でも、言葉は思い浮かばず、窓を叩く雨粒が強くなって土砂降りを知らせる。
連日続く雨は強くなったり弱くなったりを繰り返す。天気予報では今週末まで暗鬱な空が続くらしい。本当、最悪。
「それずっと言っているが 口癖か?」
そう言われてやっと気付く。
最悪という言葉を無意識に口に出していたらしい。積もりに積もった鬱憤が口癖になってしまっていた。
「いつも言っているわけじゃないわよ。嫌なことが起きる時は決まって雨が降るから雨の時は言ってしまうのよ」
この暗雲も嫌なもの運んできたみたい。
そう考えるとどんよりとした重い雲が心の中で広がった。それと同時に雨に惹かれている一面もあった。なぜなら、あたしにとって雨は死を連想するから。
死は現実に寄せた幻だとあたしは思う。
放送室で首を吊った2年生。もし死んでいたとするなら、彼が座った席、通った通学路、使った文房具。彼がそこにいてそれを使ったと証明できるのは他人の記憶と記録になる。
それは現在の証明にはならない。現在に自分がそこにいると証明できるのは自分自身しかできないから。死というのは自分の証明を失う。他人の記憶が明確であったとしてもそこに自分がいないのなら幻と同じ。
人は幻に触れられない。生きたままその領域には行けない。死は魔法であり、ファンタジーなんだ。
その幻想をほんの少しだけ触れたのが首を吊った男子生徒。その時の風景を想像してみる。
ぶら下がる身体、停止を体験する血脈と心臓。彼の背後では静寂を囁く雨の音。
雨は嫌い。けれど、雨と死体は親和された関係を築いているようだった。2つの共通点は静寂と恐怖。その共通点が雨と死体を着飾って怪しいくも美麗な放送室へと変貌させる。
あたしはその美しさに惹かれていた。
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