雨に潜む 6

いてもいなくてもどちらでも良かった。あたしは無言でハクたちを一瞥して段ボールの中身へと視線を戻す。

カンダタはそれを「はい」と受け取ってあたしの後ろに立つ。彼らも段ボールの中身が気になるらしい。

中に入っていたのはハーブソルト、オリーブオイル、バルサミコ酢、瓶詰めされたピクルス、フリュイコンフィ、マーマレードが3瓶。叔母のマーマレード。よかった、そろそろ切れそうだったのよ。

「それは?」

「叔母からの贈り物よ。あの人お節介だから色々と送ってくるのよ。あと手紙も」

調味料や食物と一緒に送られた手紙。それを広げて読み始める。

「それが手紙?目見不(めみず)みたいだ」

「フランス語よ」

内容はいつもと変わらない。こっちに移り住まないかという話。後で返事をしないと。

1度だけ叔母からの手紙を無視したことがある。何かあったと勘違いした叔母はわざわざ日本に来て、そしてあたしをフランスへと連れて行こうとしていた。その時は何とか説得してフランスに帰ってもらったけれど、彼女の返答を1度でも怠ってはいけないと心に刻んだ日でもある。

「ふらんす?」

聞き慣れない単語に疑問符が浮かぶ。

「日本から遠く離れた国よ。カンダタが生きていた時代より世界は大きく広がっているのよ」

説明してあげても、カンダタには理解できていない。

「まだわからないっていうんなら見に行けばいいわ。海を越えて大陸を超えて、カンダタを認識できる人ないんだから好きなとこへ行っても誰も止めないわよ」

内心はどこかへ行ってしまえと願っていた。

さて、これらを冷蔵庫にしまって掃除を再開しないと。できれば2時までには終わらせたいよね。

土曜日の予定は狂いつつあった。まぁ、幽体離脱して地獄に落ちてからあたしの日常は狂っている上に余計なものが2つも憑いている。

だからこそ、あたしが行うの習慣はいつも通りの平穏で送りたい。

あたしの決意表明を打ち砕いたのは何気ないインターホン。それ自体はささいなこと。重要なのはそれを鳴らした人物だ。

モニターが映していた人物に言葉を失う。なんで光弥がいるのよ。

「あれ?音鳴った?現世だとこれで人呼ぶんだよね?」

画面越しの光弥が世間知らずの台詞を吐いて指先でカメラを叩く。

「光弥?どうやって板の中に?」

世間知らずの馬鹿がここにもいた。カンダタの場合、時代知らずの方が合ってるわね。

カンダタの声を聞いた光弥が明るく笑う。不安が取り除かれたそんな笑顔に腹が立つ。

「何の用?あたしを捕まえにきたの?」

光弥がここにいるとしたらそう考えるのが妥当よね。ハザマの人たちはあたしの保管を第一に考えていたからその判断が簡単にはなくならないはず。

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