とある生徒の独白 3

それを先輩からも指摘されて、内側から火照る羞恥心を覚ませずに項垂れる。先輩は話を続ける。

“役者チームに入れなくて拗ねたくなるのもわかるけどさ、だからって裏方の作業を怠っていいわけじゃないでしょ”

拗ねていたわけじゃない。ちゃんと、自分なりに頑張っていた。そうすれば、役者チームに入れると言っていたから、だから私は。

“演劇が好きなんでしょ。だったら裏でも表でもどっちでもいいじゃない。関われるだけで幸せじゃない。なのに、あんたは我が儘ばっかりでさ”

先輩のこの言い分も私が悪いの?何が悪いの?顔?性格?

“あんたみたいな愚図、ここまで付き合ってられるのは私ぐらいだよ”

なぜ、愚図と呼ばれるの?効率が悪いから?先生に意見したから?

“ねぇ、聞いているの?”

先輩が問いかけてきて私は我に返った。呆然とする私はまた先輩を苛立たせたらしい。私がすぐに謝っても、不服そうに先輩はため息をつく。

“あんたはすいませんばっかりだよね。人がせっかく指導しているのに。それしか言えないの”

なら、なんて言えばいいのだろう。先輩はなんて言って欲しいのだろう。

“黙ってればいいってわけじゃないでしょ。もういいや。早く洗いなよ”

そう言われて、流したままの蛇口を見る。言われた通りに制服へと手を伸ばす。その行動に先輩が止める。

“いやいや、そのまま行くの?ありえないでしょ”

私がとった行動は先輩が望んだ答えではないらしい。

“私がいろいろ言ってあげてるのよ。これからも指導してあげるって言ってるのよ。ありがとうの一言も言えないの”

お礼、先輩はそれを言って欲しかったようだ。なぜだろう。言いたくない。この人にそれを言いたくない。心から湧き出た感情。どす黒い色をしたそれに私はやっと気が付いた。

“なんで、まだ黙っているの。嫌われてるのは知っているけど私もあんたが嫌いなんだからお互い様でしょ”

先輩の口調が強くなった。怒鳴られたくなかった私は頭を下げて、掠れた声でそれを言った。

“言われてから、それを言ってもねぇ”

先輩は不服そうに呟いてその場を離れる。私は頭を下げて下唇を噛む。顎が震えて、歯が下唇に食い込んで口内に鉄の味を含んだ血が広がった。

私は羞恥心と屈辱で歪む感触を知った」

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