魂のプログラム 16

頭蓋骨に穴を空けられても意識が残っている人たちの目は無表情のまま身動きもせず、眼差しだけが階段を上がるカンダタを見つめる。その老若男女の人々の中には5歳児ほどの子供までいた。

幼い子の目を見つめ返しながらカンダタは螺旋階段の頂上に着く。灯りのない踊り場に一本の回廊があった。回廊の右方面には窓があり、回廊奥の突き当りまで続いている。窓からは白い空間があり、目が痛くなる程の眩しい光は黒く暗い回廊とは対照的だった。怒声や悲鳴は聞こえてこない。不気味な静寂だけが耳を劈く。

階段の踊り場から回廊へと足を運ぶ。窓向こうの白い空間にも同じように吊るされた人が並んでおり、空いた穴からプラスチック製の黒いコードが伸びてノートパソコンに繋がっていた。

そんな状態の者たちが5人。そしてもう1人、防護服を着用して作業する人がいた。背丈からして男性のようだ。彼は窓に背を向けてパソコンに夢中になっている。窓越しのカンダタには気付いていないようだ。

そこに並ぶ5人は先程の無表情な人たちとは違っていた。その人たちは泣いていたのだ。手足を縛られて、対抗もできず、自身に起きる惨状を嘆いては防護服の男に悲痛を訴える。小さな声は窓を隔てるカンダタには届かない。しかし、痛みに歪む顔と逆さになって流れる涙が彼らの訴えを代弁していた。

カンダタは白い空間に並ぶそれらを悲痛な面持ちで眺める。すると、また悲鳴と怒声が重なった断末魔が響く。今度は近く、そして強く反響する。

回廊は一本続きなっているが窓向こうの白い空間はいくつかの部屋に分けられており、その区切りが長い窓から見て取れる。 回廊から隣の部屋を眺めてみるとそこにあったのは阿鼻叫喚だった。

手足を縛れてもなお、芋虫のように床を這って逃げる者。それを追い詰めるように電気棒を振るう防護服の者。首の頸動脈を切り、血抜きを行う者。ドリルで頭に穴を空ける者。

彼らが行っていたのは魂のプログラムを書き換える工程。それを愕然と眺めていた。

現世で生きていた人々が全裸にされてどれほど泣き叫んでも塊人は無慈悲に電気棒を振るい、首を切り、吊るし、ドリルを押し込む。

これが、人々が仏と崇めた者たちの成す業とでも言うのか。食肉と同じ扱いをされるこれが仏なのか。

これが、死んだ後の結末なのか。

「こんな、こんなものが俺たちの末路か!」

受け止められない現実に吐き気がする。空っぽの胃袋では吐くものもなく、代わりに吐いた言葉に返すものはいない。しかし。

「それはちょっと違う」

それは後ろから現れた。

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