あいまいみー -2-

 さて、退院した俺は次に、この能力を活かす方法を探すことにしたんだ。

 当然だろ? だって、数秒先とはいえ未来が見える力だ。上手く使って、周囲に黙っていれば、俺の人生を彩る為に使えるはずだ。

 色々考えた。そして、たどり着いたのは――


「言乃葉 世界くん、か。変わった名前だね」

「あはは、よく言われます」

「世界って名前だとまるでチャンピオンを目指すみたいだな」

「いえいえ、そこまで本格的に習うつもりはなくて――」


 俺が選択したのはキックボクシングジムへの入会だった。それも、本格的なプロを目指すものではなくて、趣味レベルのやつ。フィットネスとか、体力向上とか、そういうのだ。

 高校生の入門は珍しいことではなく、ジムも簡単に入会させてくれた。今時では、プロとかそういう本格的なやつより、今回のような入会理由が多いのだろう。

 それはジム経営者の本心とかは置いといて、経営的に。


 学校の部活にも格闘技関係のものはあったけど、入部条件に、


『丸刈りにすること』


 とあって、即刻却下。

 いや、別に丸刈りを否定するつもりはないけど、今の髪型が肩まで延びてる上に、後ろで束ねているぐらいだから、男にしては長い方。

 これにこだわりがあるわけではないけど、ほら、この状況からいきなり丸刈りだと変化が激しすぎる。

 周囲から色々勘ぐられたり、面倒な絡まれ方をされるのも嫌だし。


「ここに書いているけど、一応確認ね。入会理由は体力の向上、と」


 俺が選んだ山崎ジムの事務室で会長の山崎さん、という四十歳半ばのおじさんは簡易的な面談を続ける。

 山崎ジムは俺の家から二駅離れた場所にある。少し寂れてはいるけど、直方体で、コンクリートで、三階建てで、なかなか立派だと思う。

 事務室に案内される道中では練習性もいたし、トロフィーも飾ってあった。もしかしたら、輝かしい栄光が過去に、いや、現在も続いているのかもしれない。知らないけど。

 俺が、ここを選んだのはネットで調べたら、一番近かったからだ。


「体力向上を理由にするのは主婦とサラリーマンが多いんだけどね。君みたいな若い子はここじゃなくても良いような気はするが……」

「格闘技には以前から興味があったのですが、部活ほど何かの大会で優勝を目指して、というのは自分の考えではなくて。そんな奴が入部しても迷惑でしょうし」


 格闘技に興味があったのは本当。以前からってのは嘘。

 俺が、格闘技を習おうと思ったのは自分の能力を活かす為だ。

 数秒先の未来が見える、といってもそれを活かすのは難しい。だって、数秒後には現実になるのだから、占い師になるわけにもいかない。

 だったら、と考えたのが『自分の身を守る術』に使うこと。まぁ、そこから、だったら格闘技かな、と考えたのは安易だったかもしれないけど。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る