正常性バイアス -4-
その日の昼休みは多くの本を抱えて図書館にいた。夢野っていう若くて男前で女子の人気も高い教師から本の返却を頼まれたから。
偶然、夢野の住処である実験室の近くを通ったのが失敗だった。まぁ、偶然だから失敗も成功もないんだけど。本は図鑑が五冊。
「じゃあ、頼む」
と、告げて実験室へ何食わぬ顔で戻って行った夢野を恨みたくなるほどの重さ。
女子でも頼んだのか? いや、頼まないだろうな、男前は。
熊ヶ丘高校の図書館は結構立派だ。いや、まぁ、僕が知っているのは小学校と中学校の図書室ぐらいだから比較対象としては少ないけど。それでも、校舎の一部に組み込まれているのはなく、単体で一つの施設として建てられているので立派だと思うんだけど。
「これ返却したいんですけど。えっと、夢野先生から頼まれて」
「そうですか、夢野先生はよく生徒に返却させるんですよ」
受付をしている生徒に本を返却する。たぶん、図書委員だと思う。名前も知らない女子生徒が対応してくれる。互いに初対面だし、学年も解らないからなんとなく互いに言葉が丁寧な感じになった。
受付の女子は僕から受け取った本を確認していく。たぶん、これは終わるまではここを離れちゃいけないんだろうな。仕方ないから返却した本のタイトルを見る。
物理学の専門書もあったけど、五冊中の三冊が『世界の武器』という本だった。
なんだこれ、物騒だな。一応、物理学に関係あるのか?
「はい、確かに返却手続きを完了しました」
「そうですか。じゃあ、失礼します」
なんとなく一礼して、教室に戻ることにする。貴重な昼休みが結構ロスした。早く教室に戻って昼寝でもしたい。
そんなことを考えていたら――
「神戸くん」
急に名前を呼ばれ、驚く。まさか、こんな場所で自分の名前が呼ばれるなんて想像もしてなかった。だって、僕の友達で昼休みに図書館に来るような奴はいない。
振り返り、相手を見て、僕はまた驚く。
そこには――棗真白(なつめ ましろ)がいた。
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