これは、ただのスポーツ青春小説ではない。
フィギュアスケートとスピードスケート。氷の世界を舞台に繰り広げられる若者達の成長物語として、リアルで美しい表現が、読む物を先へ先へと導いていく。
でも、それだけではなくて‥‥‥
「+α」の核心部分はどこまでも奥深く、それはきっと筆者が、そして読者が探し求めていく物なのだろう。
貴方には、こちらの世界で生きる事を決めた「刀麻」の姿が見えますか?
どんな風に見え、何を感じますか?
とても危うくて消えてしまいそうな「刀麻」を、こちらの世界に留めておく事ができますか?
生まれ変わる事を恐れずに生きられますか? ‥‥‥そんな問いが聞こえてきそう。
「氷上のシヴァ」=「芝浦刀麻」とは、いったい何者なのだろう?
私は、この物語の最初から、最後まで、芝浦刀麻に関わる登場人物から語られる彼自身を追っていた、はずだった。
物語の終盤、まるで最初からいなかったかのように、彼は氷上のシヴァという世界から姿を消す。いや、確かにいたのだ。私も、この世界の住人も、彼の放つ金色の光を追っていたのだから。
楽しかった。その一言に尽きる。作者は空間を描くのがうまいと思った。空間の描写は、演目の曲だったり、スケートのブレードが描く軌道だったり、ジャンプという肉体の躍動が複雑に絡み合って表現されている。
そして、偶像めいた描写というか、確かに芝浦刀麻という存在はいたはずなのに、読み終えたあとに、その影を探してしまう、世界と切り離された読後感が素晴らしかった。
作中で語られる「俺は生まれ変わらなきゃいけないんだ。旧い世界なんか足下で叩き割って新しい世界を創る」という言葉が特に印象的でした。
インド神話の神、シヴァの破壊と創造がうまく組み込まれており、作中の登場人物の多くが、破壊(喪失)と、創造(成長だったり進歩)を経験し、青春ものの作品として、読み応えのある内容でした。
芝浦刀麻という存在を、多様な切り口で見せ、繊細な人間関係を描写してくれた作品。大変、満足です。
最後に、私が生きてこなかった人生を見せてくださりありがとうございました。
スピード、フィギュア、ダンス……スケート業界のキーパーソンが、氷上で輝く「シヴァ」に魅せられて、それぞれの道を大きく切り拓いていこうとするアンサンブル・プレイ。登場人物たちの描写は細やかで個性豊かな魅力に溢れ、氷上に立てば文字からイメージが弾け出し、時に美しく時に激しく脳内を駆け巡る。特に、スピードスケートでライバルと対峙するシーンは、スポ根魂溢れた綴りっぷりで読み手の心を熱く燃やしてくれた。
作者さま自身が、作品に対して「完璧」と納得していない部分もあり(あとがき参照)、読み返せば新しい発見があるかもしれない。これからも、パーソナルベストを更新し続けて欲しい。そう願いたいと思わせる素敵な作品☆