闇
すっかり温まった体で、レミとファラは宿へ戻った。星明りで藍色に染まる風景の中で、宿の、色硝子で飾られたランプはひときわ明るかった。
夜更けにも関わらず、寝ずの番をする宿の者が、柔和な笑みでふたりを迎えてくれた。廊下が暗いからと、ランプも貸してくれた。
ランプを持ち、廊下を歩く。レミは、大欠伸を連発した。それなりの夕食にもありつけたし、『竜の湯』でしっかり温まった。後は、ぐっすり眠るだけだ。
廊下が交わるところで、脇から出てきた宿の者に呼び止められた。
「明日のご出発について、確認させていただきたいのですが」
宿の者は、眠そうな目をしていた。だが、まっすぐ、ファラを見ていた。
部屋までは、このまま突き当りまで歩き、曲がってすぐだ。ファラは、頷き、レミを見上げた。
「先に、休んでください。お疲れでしょう」
「悪いね。そうさせてもらう」
言いながらも、レミは欠伸をした。犬歯が露になる。ランプをファラへ差し出した。ファラが断ると、レミは手をヒラヒラさせた。
「私は夜目が効くから」
黄緑色の獣の目が、暗がりでも光る。ファラは素直にランプを受け取った。
レミの後ろ姿が角を曲がり、扉の開閉の音がする。同時に、ランプが消えた。
暗闇に包まれる。
重い音がした。ファラの足元に、温かい毛が触れる。宿の者の髪だ。寝息が立ち上る。
地の底から沸き起こるような笑みが、聞こえた。
『単純な獣人だ』
「本当に」
そっと、ファラは呟いた。
目が闇に慣れる。宿の者が着ている服が、ぼんやり浮かび上がった。操られただけだ。朝になって目を覚ました時には、何故自分が廊下で寝ているのか、訝しむことだろう。
細長い闇が、宙でのたくった。ファラの鼻先で、ズルリと湿っぽい音がした。ぬめりのあるものが蠢く。
『いよいよ、だ。竜が、目覚める』
低く割れた声が、闇に紛れるように囁いた。
ファラは小さく頷いた。
仄かに闇へ浮かぶファラの首へ、それは巻きついた。細長いものの、丸みを帯びた先が、ねちゃりと開く。開閉に合わせ、囁きがファラの耳へ吹きかけられた。
『さあ、最後まで、しっかり働いてもらうよ』
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