第19話 街と人と妖怪と

 この街には、美しい紅葉並木がある。

 秋になると、紅葉は真っ赤に色づき、この道に紅葉のトンネルを作る。今はまだ緑の葉が折り重なっている。

 紅葉並木の中を、葉月と瑠衣と紬は歩いていた。もうすぐ日が暮れる。


「洋館ってさ、ずっと暗い雰囲気がしてたんだ。洋館自体はすごく綺麗なんだけど、どことなく暗くて。多分それは、奥様があの洋館で一人寂しがっているからなんじゃないかなと思ってたんだ。でも、今日、その暗い感じがなくなったような気がした」


 奥様のことも河童のことも見えないけれど、二人が再会できてよかったと瑠衣は微笑む。


「瑠衣も紬さんも、今日は手伝ってくれてありがとう。奥様、本当に嬉しそうだった」


 洋館の夫婦は百年以上の時を越えて、やっと今日再会できた。

 夫婦の再会に葉月は涙ぐんだ。これでもう、奥様が一人きりでいなくてもいいのだ。

 奥様も、河童も、再会をとても喜んだ。

 しかし、その後が大変だった。いつも穏やかで優しいあの奥様がキレたのである。


「わたくし、あの日、どんな理由であっても危ないですから館を出てはなりませんと言ったではないですか。人の話を聞かず、勝手に洋館を飛び出して。挙句、百年もここを留守にするだなんて」


 河童は反論することもできず、ただ身を小さくして奥様の話を聞いていた。

 触らぬ神に祟りなし。葉月は数歩後ろで夫婦のやり取りを見守っていた。奥様が怒るところなんて初めてみた。

 夫婦の様子をこそこそと瑠衣と紬に教えてあげると、「まあ当然だよな」「誰でも怒るよ、こんなの」と頷いていた。


 奥様の怒りはなかなか収まらなかった。というより、今もきっと続いているだろう。

 日も暮れるということで葉月たちが洋館を去るとき、夫婦二人は深々と頭を下げた。その時こそ喧嘩は中断していたが、きっと葉月たちが去ったあとの洋館でも奥様のお説教は延々と続いているのではないかと思う。


「でもまあ、一件落着したことだし、よかったんじゃねーの」

「これから河童さんは洋館に住むんでしょう」

「うん。洋館の裏手には河童さんが水浴びするのにちょうどいい池もあるし。これからは一緒に暮らすって」


 もう奥様が一人きりで寂しい思いをすることもない。

 紅葉の木の合間に、薄ピンクのまん丸いフォルムがみえた。ふわちゃんだ。

 ふわちゃんはちらりとこちらを見て、ふわふわとどこかに飛んでいった。きっと瑠衣と紬がいるから気を遣ってくれたのだろう。


 今度ふわちゃんにはお菓子をたくさん持って来てあげよう。仙さんのところにも行って、今日の話をしよう。緑さんにも改めてお礼を言いたいし、旦那様についての話を聞かせてくれた妖怪たちにもお礼がしたい。

 葉月は紅葉の木を見上げる。


「この紅葉並木ね、奥様たちもよく散歩に来ていたらしいよ」

「へー、そうなんだ」


 今はまだ緑の葉。

 赤く葉が染まる頃、この道を夫婦も連れ立って歩いたのだろう。


「あ、ねえねえ、秋になったらこの並木の写真を撮って、二人に見せてあげようよ。奥様は洋館から出られないから、もうこの並木には来れないし。せめて写真だけでも見せてあげたいな」

「いいね、それ。きっと喜ぶよ」

「まあ、それくらいならまた付き合ってやるよ」


 楽しみだな、と葉月は微笑む。

 そうして三人は紅葉並木を抜けた。

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この街には人と妖怪が住んでいる 橘やよい @yayoi326

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