今の今まで不条理で理由のない物語は苦手だったのですけど、これを読了した今はその感覚がきれいさっぱりなくなってしまいました。「ああ、こういうふうに書けばいいんだ」「物語って全然自由だったんだ」って頬をひっぱたかれた気分です。ものすごくたくさんの小説の中からこの物語にたどり着けた幸運にありがとう。書き手目線のレビューなので読み手さんにはいまいち伝わらないレビューなのですが、不条理な世界観を置いてそれでも読み手に納得させてしまう文章力とか、文字だけの世界だからこそ想像して『自分だけの物語』にしてしまえる構成はむしろ不条理だからこそ成し得ることで、ちゃんと意味もある。これがマンガだったら台無しなんですよね。「え?これリアルなの?それともぶっ飛んでるの?」って頭が必死に処理しようとして、どっちに転ぶかはその人次第。登場人物の顔は自分の頭の中にだけある。うまい。見事過ぎ。
ちなみに僕の想像の中の雉(きじ)は……
社会人になった主人公が、中学時代の写真を見つけたことから始まる、昔を懐かしむ話。
かと、最初は思ったんですけどね!
徐々におかしいなって気づくんです。あれ、これって今、わたしは何を読んでるの?って。
中学時代、鬼退治に明け暮れた主人公。仲良くなって一緒に鬼退治をするようになる犬と猿。
塾帰りの雉。
あれ??
しかも、なんか中学生という年を思わせる甘酸っぱいような、それでもささやかな感情の揺れもあり、じんわりと懐古の気持ちに浸れること請け合いです。
最後には、大人になった自分を意識せずにはいられないでしょう。
ぜひ、この不思議で懐かしい物語を読んでみて下さい!