臧熹2  補佐の功と、死 

劉裕りゅうゆう南燕なんえん討伐に出ようとしたとき、

多くの者は反対した。

が、その中にあって臧熹ぞうきは言う。


「劉公がここで北部地帯に出向かれ、

 南燕や北魏ほくぎの脅威より民を救えば、

 国内の民はしんに想いを寄せましょう。

 出征なされぬ理由がございません」


この発言に、劉裕も

「それよ、それ!」と言い出した。


ただ出征にあたっては、

臧熹の従軍希望を却下。

むしろ南東の海岸沿い、会稽かいけいよりも更に南、

臨海りんかい郡の太守に任じるのだった。


会稽を始めとした海沿いのエリアは、

過日に五斗米道ごとべいどう軍が猛威をふるった辺り。

その余燼は未だくすぶり続けており、

お世辞にも安定しているとは言い難い。


そこにやってきた臧熹。

治安を安定させ、人々をやすんじる。

結果臧熹の統治を慕い、千世帯あまりが

帰順してきた。


恐ろしいのはこのあとである。


南燕遠征ともなれば、次は盧循ろじゅんの逆襲。

このとき劉裕は陸路にて追撃をかける一方、

孫処そんしょ沈田子しんでんしには海路を進ませている。


そして速さこそ生命線の孫処軍に、

臧熹は、完璧な補給をなした。

これはもう、南燕出征前の段階で

流れを予め見立てていたとしか思えない。


その後中央に召喚され散騎常侍となったが、

母が死んだため、退職。

ただし劉毅りゅうき討伐の際には復職、従軍。

更にそのまま朱齢石しゅれいせき率いる伐しょく軍に参加、

陽動のための別働隊を割り当てられた。

進軍するのは建平けんぺい巴東はとうのエリア。


譙縱しょうじゅう譙撫之しょうぶしに一万余の兵で迎撃させる。

戦場は、牛脾ぎゅうひ

また譙小苟しょうしょうこうにも兵を与え打鼻だびを守らせた。


が、臧熹。牛脾で譙撫之を一蹴、斬った。

譙小苟、これには大いにビビる。

守備の任も忘れ、一目散に逃亡。


重要な任務を果たし、武功をもあげた臧熹。

だが、その身に病魔が襲いかかる。

人びとが蜀奪還に湧く中、牛脾にて死亡。

39 歳だった。光祿勳を追贈された。




高祖將征廣固,議者多不同。熹從容言曰:「公若凌威北境,拯其塗炭,寧一六合,未為無期。」高祖曰:「卿言是也。」及行,熹求從,不許,以為建威將軍、臨海太守。郡經兵寇,百不存一,熹綏緝綱紀,招聚流散,歸之者千餘家。孫季高海道襲廣州,路由臨海,熹資給發遣,得以無乏。徵拜散騎常侍,母憂去職。頃之討劉毅,起為寧朔將軍,從征。事平,高祖遣朱齡石統大眾伐蜀,命熹奇兵出中水,以本號領建平、巴東二郡太守。蜀主譙縱遣大將譙撫之萬餘人屯牛脾,又遣譙小苟重兵塞打鼻。熹至牛脾,撫之戰敗退走,追斬之。小苟聞撫之死,即便奔散。成都既平,熹遇疾。義熙九年,卒於蜀郡牛脾縣,時年三十九。追贈光祿勳。


高祖の將に廣固を征せんとせるに、議者に同じからざる多し。熹は從容と言いて曰く:「公の若し北境を凌威し、其の塗炭を拯くるは、寧ろ六合を一とせん。未だ期す無きを為さず」と。高祖は曰く:「卿が言は是なり」と。行に及び、熹は從を求めど許さず、以て建威將軍、臨海太守と為す。郡の兵寇を經るに、百に一も存ぜず、熹は綱紀を綏緝し、流散を招聚し、之に歸す者は千餘家たり。孫季高の海道にて廣州を襲いたるに、臨海を路由せば、熹は發遣し資給し、以て乏無きを得たり。徵ぜられ散騎常侍を拜せるも、母の憂にて職を去る。之の頃に劉毅を討たば、起ちて寧朔將軍と為り、征に從う。事の平らぐるに、高祖は朱齡石を遣わせ大眾を統い蜀を伐たしまば、熹に命じ奇兵にて中水を出で、本號を以て建平、巴東二郡太守を領す。蜀主の譙縱は大將の譙撫之を遣わせ萬餘人にて牛脾に屯ぜしめ、又た譙小苟を遣わせ重兵にて打鼻を塞がしむ。熹は牛脾に至り、撫之と戰い敗りて退走せしめ、追いて之を斬る。小苟は撫之の死せるを聞き、即便にて奔散す。成都の既に平らぐに、熹は疾に遇う。義熙九年、蜀郡の牛脾縣にて卒す、時に年三十九。光祿勳を追贈さる。


(宋書74-2_暁壮)




あっはい(あっはい)


いや、なんつーかですね、そうですよね、補給線大切ですよね、わかる、わかります。分かるんですが……あの、臨海という場所の戦略的な意味、完全に先読みされてますよねこれ? 今まで劉裕の戦略的なふるまいはお話は割と「あーはいはいしゅごいねー」ってハナホジしながら読んでたんですが、これはやばい……いや、はじめっから南燕に出て盧循釣りだそうとしてたんだとは思いますけど。


ねえ、なんなのこのひとのグランドデザインの規模……あるいは劉穆之が引いたのかなあ、この絵図。凄まじすぎて空いた口が塞がんなくなりました……。


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