巻74 劉裕に関与した者たち(息子が反乱者)

臧熹1  皇后の弟    

元嘉げんか年間に劉義康りゅうぎこうを立て、

反乱を起こそうとした人物が

何人かいたのは、これまでにも紹介した。

そういった中で大物の一人が、臧質ぞうしつ

劉裕の妻、臧愛親ぞうあいしんの甥に当たる。

その臧質伝では、まず父親を語る。


臧熹ぞうき、字は義和ぎわ東莞とうかんりょ県の人だ。

武敬皇后、臧愛親の弟である。

兄の臧燾ぞうとうと同じく学問を好んだが、

孝武帝こうぶていが死に、安帝あんていが立って以降の

不穏な情勢下を見て取り、

臧熹は騎射を学ぶようになった。

想いは手柄を挙げての立身、である。


みるみる成長した臧熹は溧陽りつように出かけた。

溧陽令の阮崇げんすうと臧熹は共に猟に出る。

そこで、隊列に虎が突っ込んでくる!

ビビる勢子たちは逃げ惑う!

が、ここで臧熹、あえて進み出て、

正面から虎を射倒してしまった。


虎殺しの武勲を手にした臧熹は

劉裕りゅうゆうの桓玄打倒クーデターにも

側近として加わる。

京口けいこう城で桓修かんしゅうを斬ったのは、

外ならぬ臧熹の一門、おいの臧穆ぞうぼく


建康けんこうに進軍し、桓玄かんげんが逃げ去ると、

劉裕は臧熹と共に宮殿入りし、

図書や祭物などを接収させた。

また財宝や楽器などがしまわれていた

宝物庫を厳重に戸締りさせる。


劉裕、臧熹に聞いている。


「この中のもの、欲しくねえのか?」


それを聞いた臧熹、きっと言う。


「陛下が辺境に追いやられたところに、

 いま、将軍が義の旗をお建てになり、

 王家の為に身を粉にされております。


 この不肖の身で、どうして楽しみに

 うつつを抜かしておれますか!」


そのムキになる様子が

相当におかしかったのだろう。

劉裕、笑いながら言っている。


「からかっただけだよ」


その後劉裕の幹部として働きつつも

員外散騎侍郎に仮に任ぜられた。

その後正式に幹部として取り立てられ、

併せて東海とうかい太守となった。


クーデター参与の功績から

始興しこう県五等侯に封じられ、

その後も昇進し続ける劉裕の

幹部であり続けた。




臧熹,字義和,東莞莒人。武敬皇后弟也。與兄燾並好經籍。隆安初,兵革屢起,熹乃習騎射,志在立功。嘗至溧陽,溧陽令阮崇與熹共獵,值虎突圍,獵徒並奔散,熹直前射之,應弦而倒。高祖入京城,熹族子穆斬桓脩。進至京邑,桓玄奔走,高祖使熹入宮收圖書器物,封閉府庫。有金飾樂器,高祖問熹:「卿得無欲此乎?」熹正色曰:「皇上幽逼,播越非所。將軍首建大義,劬勞王家。雖復不肖,無情於樂。」高祖笑曰:「聊以戲卿爾。」行參高祖鎮軍事,員外散騎侍郎,重參鎮軍軍事,領東海太守。以建義功封始興縣五等侯。又參高祖車騎、中軍軍事。


臧熹は字を義和、といい、東莞の莒の人。武敬皇后の弟なり。兄の燾と並べて經籍を好む。隆安の初、兵革の屢しば起つるに、熹は乃ち騎射を習い、志は功を立つるに在り。嘗て溧陽に至り、溧陽令の阮崇と熹は共に獵し、虎の突圍せるに值う。獵徒は並べて奔散せど、熹は直ちに前みて之を射、應弦し倒す。高祖の京城に入るに、熹の族子の穆は桓脩を斬る。進みて京邑に至り、桓玄の奔走せるに、高祖は熹をして宮に入れ圖書器物を收めしめ、府庫を封閉せしむ。金飾樂器有らば、高祖は熹に問うらく:「卿は此を欲す無かりたるを得んか?」と。熹は色を正して曰く:「皇上は幽逼し、非所に播越す。將軍は大義を建つるの首にして、王家を劬勞す。復た不肖なると雖ど、樂に情無し」と。高祖は笑いて曰く:「聊か以て卿を戲れたるのみ」と。參高祖鎮軍事、員外散騎侍郎に行じ,鎮軍軍事に重參し、東海太守を領す。建義の功を以て始興縣五等侯に封ぜらる。又た高祖車騎、中軍軍事に參ず。


(宋書74-1_寵礼)




とりあえず京口を京城、建康を京邑と書くその無神経さに腹が立って仕方ないです。しかもこいつら、場所によっちゃ京口のこと京邑って言い出したりもするんですよ……なめてんのまじ……


それにしてもここで見る劉裕さん、結構おちゃめよね。

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