徐湛之4 弑逆      

劉義隆りゅうぎりゅうが病を得るごと、

徐湛之じょたんしは医者や薬を伴い、側に侍った。


そして劉劭りゅうしょう、および劉濬りゅうしゅんによる

劉義隆呪殺未遂事件が発覚。

この事件により劉劭は廃嫡とされ、

劉濬は処刑されることになった。


のちに位を継ぐこととなる劉駿りゅうしゅんだが、

劉義隆に寵愛されていなかったため、

外藩に赴任させられてばかりだった。

劉劭らの代わりに、劉義隆が後継に、

と考えたのは寵愛していた劉鑠りゅうしゃく劉宏りゅうこう

特に劉鑠の妃は徐湛之の妹であったため、

徐湛之としても一押しだった。


のだが、劉鑠を壽陽じゅようから召喚、

そこで後継者としてのテストを

課してみたところ、全然ダメ。

なので後継者候補から降ろされた。


では劉宏を立てるべきだろうか。

いや、しかし長幼の序から言えば、

いくら何でも上を

すっ飛ばし過ぎなのではないか。

そのようなこともあり、

後継者はなかなか決まらなかった。


劉義隆は日夜、人払いの上、

徐湛之と議論を重ねる。

ろうそくの管理すら徐湛之にやらせ、

壁で周辺を仕切り、密議を

誰かに聞かれないようにした。


そんなことを繰り返していた、ある日。

夕方より明け方まで

ずっと議論を重ねていた二人のもとに、

張超之ちょうちょうしという人物をはじめとした

数十人が押し入ってくる。

徐湛之が驚き、北の窓より

劉義隆を逃がそうとしたが、

間に合わなかった。

ふたりとも、張超之らに殺害された。

言うまでもなく、劉劭の差し金である。

徐湛之、時に 44 才のことだった。


劉劭を討って劉駿が即位すると、

司空を追贈され、散騎常侍を加えられ、

当時の官位、尚書僕射は元のままとした。

忠烈公と諡された。


劉濬は詔勅で表明している。


「徐湛之、江湛こうたん王僧綽おうそうしゃくらの一門は、

 劉劭の凶逆により

 流遇の憂き目に遭っている。


 在りし日を思えば、

 その悲痛は想像するに余りある。

 三者の一門を元の家に帰還させ、

 また恤賜を与える」


こうして三家の長には賠償がなされた。




上每有疾,湛之輒入侍醫藥。二凶巫蠱事發,上欲廢劭,賜濬死。而世祖不見寵,故累出外蕃,不得停京輦。南平王鑠、建平王宏並為上所愛,而鑠妃即湛妹,勸上立之。元嘉末,徵鑠自壽陽入朝,既至,又失旨,欲立宏,嫌其非次,是以議久不決。與湛之屏人共言論,或連日累夕。每夜常使湛之自秉燭,繞壁檢行,慮有竊聽者。劭入弒之旦,其夕,上與湛之屏人語,至曉猶未滅燭。湛之驚起趣北戶,未及開,見害。時年四十四。世祖即位,追贈司空,加散騎常侍,本官如故,諡曰忠烈公。又詔曰:「徐湛之、江湛、王僧綽門戶荼酷,遺孤流寓,言念既往,感痛兼深。可令歸居本宅,厚加恤賜。」於是三家長給廩。


上の疾を有す每、湛之は輒ち醫藥を入侍す。二凶の巫蠱の事の發せるに、上は劭を廢し、濬に死を賜わんと欲す。而して世祖には寵を見られず、故に累しば外蕃に出だされ、京輦に停むるを得ず。南平王の鑠、建平王の宏は並べて上に愛さる所と為り、而も鑠が妃の即ち湛が妹たれば、上に之を立てんと勸む。元嘉の末、鑠を壽陽より徵じ入朝せしめ、既に至らば、又た旨を失い、宏を立てんと欲せど、其の次に非ざるを嫌い、是を以て議は久しく決さず。湛之と人を屏いて共に言論せば、或いは日を連ね夕を累ぬ。夜の每、常に湛之をして自ら燭を秉らしめ、壁を繞らせ檢行し、竊聽者の有りたるを慮る。劭の入りて弒せるの旦、其の夕に上と湛之は人を屏いて語り、曉に至りて猶おも未だ燭を滅さず。湛之は驚起し北戶に趣き、未だ開くに及ばずして害さるを見る。時に年四十四なり。世祖の即位せるに、司空を追贈され、散騎常侍を加えられ、本官は故の如くし、諡して曰く忠烈公と。又た詔じて曰く:「徐湛之、江湛、王僧綽の門戶は荼酷にして、遺孤は流寓し、言に既往を念い、痛を感ずこと深きを兼ぬ。令し本宅に歸居せしむべし、厚く恤賜を加う」と。是に於いて三家の長に廩を給さる。


(宋書71-5_衰亡)




江湛、王僧綽

徐湛之と共に巻71に立伝されている人物。ともに劉劭の弑逆事件で殺された。なお江湛は前に紹介した江夷こういの、王僧綽は王曇首おうどんしゅの息子である。


しかし徐湛之の妹が劉義隆の息子の嫁、ねぇ……。つまり劉裕りゅうゆうの孫同士の結婚ですよ。そんなもんだとわかっちゃいるんですが、どうもこの超近親婚怖いよなぁ……。

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