謝霊運18 山居賦1
1-1
謝子臥疾山頂 覽古人遺書
與其意合 悠然而笑曰
謝氏はとある山の頂上で
病に伏していたが、
古人の残した書物を読み、
その気持ちがぴたりと重なったため、
悠然と笑って言うのであった。
夫道可重 故物為輕
理宜存 故事斯忘
古今不能革 質文咸其常
もとより道理原則が重く、
事物は軽い。
故に忘れ去られやすいものである。
古今を通じて物事の外面と内面は
不変のものと言われ、改まっていない。
合宮非縉雲之館 衢室豈放勛之堂
邁深心於鼎湖 送高情於汾陽
しかし、どうだろう。
黄帝は政をなした合宮に住まず、
堯もまた衢室に住むことは無かった。
黄帝が想いを馳せたのは鼎湖、
堯は汾陽だったではないか。
嗟文成之却粒 願追松以遠遊
嘉陶朱之鼓棹 迺語種以免憂
判身名之有辨 權榮素其無留
あぁ、張良が穀物を捨てたのは
仙人、赤松子の足跡を求めたゆえ。
范蠡が棹を鳴らして越を去り、
文鍾に憂いを免れる道を説いたのを
慶賀する。彼らは我が身と
手に入れた名誉とが別物であると弁え、
栄華も質素な暮らしも仮のものであり、
その身にあずかった境遇に
留まりはしなかった。
孰如牽犬之路既寡
聽鶴之塗何由哉
秦の李斯が処刑の際に
「もはや犬を連れて猟に向かえぬ」と、
晋の陸機が
「故郷の鶴の声は、もう聞けない」と、
嘆いたことと較べれば、
どれだけ素晴らしきことであろう。
1-2
若夫巢穴以風露貽患
則大壯以棟宇袪弊
洞穴に過ごしていれば、雨風により
身を煩わせることがあった。
この状況を、黄帝が易に言う
「大壮」の卦よりヒントを得、
家屋を建てることで解消なされた。
宮室以瑤琁致美
則白賁以丘園殊世
また宮殿を美しく飾ったのは、
「白賁」の卦をヒントとし、
現世が林野暮らしとは
別のものであることを示す
必要があったのである。
惟上託於巖壑 幸兼善而罔滯
思うに、昔は洞窟暮らしでも
問題のない環境であったのだ。
雖非市朝而寒暑均也
雖是築構而飾朴兩逝
街中に出るまでもなく
暑さ寒さは常に等しく、
構築されたものであっても、
装飾に素朴さが兼ね備わっていた。
1-3
昔
仲長願言 流水高山
應璩作書 邙阜洛川
勢有偏側 地闕周員
後漢の人、仲長統は
山から流れ来る清流に思いを馳せ、
三国魏の人、應璩が記した手紙では
邙阜や洛川への想いが記されていた。
いずれも片田舎であり、
土地運用にはまるで向いていない。
銅陵之奧 卓氏充釽摫之端
金谷之麗 石子致音徽之觀
徒形域之薈蔚 惜事異於栖盤
漢代の大文人、司馬相如の舅であった
蜀の地の大富豪、卓王孫は
銅陵の奧で木工裁縫の設備を整えた。
西晋期の貴族、石崇は
金谷の壮麗なる館にて
音楽の楽しみを追求した。
ただこれらはゴージャスなだけであり、
残念ながら隠棲のためのもの、
とは言えまい。
至若
鳳叢二臺 雲夢青丘
漳渠淇園 橘林長洲
雖千乘之珍苑 孰嘉遁之所遊
鳳台や叢台、雲夢や青丘、
漳渠や淇園、橘林や長洲。
贅を尽した庭園は多くあれど、
いずれにせよ良き隠棲を志すものの
住まう地となり得ようか。
且山川之未備 亦何議於兼求
そこには山も、川もない。
そのようなところで、
どうして隠棲ができようというのだ。
謝子臥疾山頂,覽古人遺書,與其意合,悠然而笑曰:夫道可重,故物為輕;理宜存,故事斯忘。古今不能革,質文咸其常。合宮非縉雲之館,衢室豈放勛之堂。邁深心於鼎湖,送高情於汾陽。嗟文成之却粒,願追松以遠遊。嘉陶朱之鼓棹,迺語種以免憂。判身名之有辨,權榮素其無留。孰如牽犬之路既寡,聽鶴之塗何由哉。
若夫巢穴以風露貽患,則大壯以棟宇袪弊;宮室以瑤琁致美,則白賁以丘園殊世。惟上託於巖壑,幸兼善而罔滯。雖非市朝而寒暑均也,雖是築構而飾朴兩逝。昔仲長願言,流水高山;應璩作書,邙阜洛川。勢有偏側,地闕周員。銅陵之奧,卓氏充釽摫之端;金谷之麗,石子致音徽之觀。徒形域之薈蔚,惜事異於栖盤。
至若鳳、叢二臺,雲夢、青丘,漳渠、淇園,橘林、長洲,雖千乘之珍苑,孰嘉遁之所遊。且山川之未備,亦何議於兼求。
(宋書67-18_文学)
隠棲とはどうあるべきか、というのが語られる。張良、范蠡のように潔く身を引いたものが生を全うし、権力の中枢にい続けた李斯や陸機は素朴な昔の暮らしを思い起こす中で殺された。「では、誰のことを古の人に仮託したのだろう」。
建物が建てられたのも、貴人の住処が豪華であるのも、全ては必要に応じてのものであるにすぎない。必要以上のことを求めることに、何の意味があるのだろう。
そもそも隠棲とは鄙地に過ごすことであり、世俗の用のためにしつらえられた庭園に引っ込んでおきながら、それで隠棲だなどとほざくのはちゃんちゃらおかしい。「善き隠棲」のまねごとをして、いったい何が楽しいというのか。
と言った感じの内容だろうか。まー初っ端からえっれえ激烈である。「張衡とか左思が語る「都の素晴らしさ」的なものを褒めやそすよーな凡俗どもにゃ、真のよき暮らしの価値なんてわっかんねえだろうなwwwwww」ぐらいのことさえ言っているような気さえする。ほんにあっぶねえなあ、このひと……。
ただ、撰征賦でも触れたように、「読まれ言葉の響き」として極上のものだったんでしょうね。この辺、中古韻読み上げとかがあってくれると嬉しいよなぁー。中国のほうじゃそう言うアプリもそろそろ生まれてるんじゃない?
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