何叔度2 罪の及ぶ範囲  

409 年、吳興ごこう武康ぶこう県に住む王延祖おうえんそ

強盗ばたらきをした。

そのことを父の王睦おうぼくが役所に申告。


新しいルールでは、強盗をしたものは斬刑、

その家族も公開処刑とされていた。


が、今回の場合、

家族である父親自身の申告である。

ルール通りの裁きではまずいのではないか、

そのような議論が起こった。


この時に何叔度かしゅくどは尚書であった。

意見を提唱する。


「ルールの目的は犯罪の抑止にあります。

 情の面から、理屈の面から検討しても、

 重犯罪をなした一人によって

 家族をともに殺すのは、

 そう決められているから、と

 実施すべきものではありません。


 では、重犯罪者の一門を、

 なぜ皆殺しにすべきであったか?


 他ならぬ身内に告発をさせ、

 家中より悪を排除するため、

 でありましょう。


 王睦は、いちどは共に逃亡する道を

 選ぼうといたしました。

 それが父として取るべき道だ、と、

 考えたのでしょう。

 しかし、彼は自らの半身を割った。

 引き返すと、息子を官憲に引渡した。


 手に毒が回ったら、

 生き延びるためには、

 腕から切り落とさねばなりません。


 情の面から言えば

 息子を切り離さねばならなかったことは

 実にあわれであります。


 理の面から言っても、

 やはり許されるべきでありましょう。

 かれは凶悪犯を家のものとはせず、

 さらには凶悪犯の逃亡すら阻止した。

 これにより、王延祖による再犯の芽は

 完全に断たれました。


 今回の件で、すでに王睦には

 然るべき処罰がくだされている、

 と申せましょう。


 ならばこれ以上、罰を加算するには

 値しない、と考えます。


 以上をもって、王睦は

 放免されるべきでありましょう」


何叔度のこの発言は採用された。


後に金紫光祿大夫、吳郡ごぐん太守となる。

当時太保であった王弘おうこうも、

何叔度の清廉ぶりを大いに讃えていた。


431 年に死亡した。




義熙五年,吳興武康縣民王延祖為劫,父睦以告官。新制,凡劫身斬刑,家人棄市。睦既自告,於法有疑。時叔度為尚書,議曰:「設法止姦,本於情理,非謂一人為劫,闔門應刑。所以罪及同產,欲開其相告,以出為惡之身。睦父子之至,容可悉共逃亡,而割其天屬,還相縛送,螫毒在手,解腕求全,於情可愍,理亦宜宥。使凶人不容於家,逃刑無所,乃大絕根源也。睦既糾送,則餘人無應復告,並合從原。」從之。後為金紫光祿大夫,吳郡太守,加秩中二千石。太保王弘稱其清身潔己。元嘉八年,卒。


義熙五年、吳興の武康縣の民の王延祖は劫を為さば、父の睦は以て官に告ぐ。新制にては、凡そ劫の身は斬刑にして、家人は棄市とす。睦は既に自ら告ぐらば、法にて疑有り。時に叔度は尚書為れば、議して曰く:「法を設け姦を止めむ。情理を本とせば、一人の劫を為したるに闔門を刑に應ぜる謂に非ず。罪の同產に及びたる所以、其の相い告せるを開ぜるを欲し、以て惡の身為るを出すにあり。睦は父子の至にして、悉く共に逃亡すべかるを容れ、其の天屬を割り、還じ相い縛送す。螫毒の手に在りたれば、腕を解きて全きを求め、情にて愍れむべし、理は亦た宜しく宥じたるべし。凶人をして家に容れず、刑を逃ぐるに所無かれば、乃ち大絕の根源なり。睦は既に糾送され、則ち餘人に復た告ぐるに應ぜる無く、並べて合せて原に從うべし」と。之に從う。後に金紫光祿大夫、吳郡太守、加秩中二千石と為る。太保の王弘は其の清身潔己なるを稱う。元嘉八年に卒す。


(宋書66-7_政事)




「新制」って言葉が出てきたの二度目ですね。これ、そうすると劉裕による綱紀粛正の一環と考えるのが妥当なのかな。そして、そいつがかなり苛烈なものだった。


調べてみると、この語が出てくるのは宋書中には実質二箇所しかありません。鄭鮮之伝と、ここ。そのどちらもが行き過ぎなルールに待ったをかける提案。今の段階だと「苛烈な面があった」ことがわかるくらいです。情報が足りなさすぎる。かなり劉裕台頭初期の政権の性格を見るのに重要そうなんだけどなあ。


晋書刑法志あたりも漁ってみたいところです。義熙年間なら、一応晋の時代のルールだしね。

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